Zapposの成功で一気に火がついた動画マーケティング
あのAmazonが一目置く靴のECサイトZappos。同社は2010年を動画マーケティングの年になると考え、動画を大々的に導入してECサイトの売上をさらに伸ばしている。アメリカでは動画導入に成功したZapposの事例を取り上げる書籍も出版されるなど、マーケッターの間で動画マーケティングへの関心は高まるばかりだ(詳細:CVRが1.8%から8%以上に改善された例も! Zapposも注目の動画マーケティングで差を付けろ)。
動画配信プラットフォームサービスを提供するBrightcoveでマーケティング&プロダクトマネジメント部門のバイスプレジデントを務める須賀正明氏(写真右)は、特にECサイトやBtoCの消費財メーカー、ブランディングを重視する企業などで、自社のサイトに動画を導入するケースが増えていると指摘する。
「Eコマースのサイトを中心に、動画を使って成功した先進的な事例が出てきました。マーケティング専門の情報サイトの中には、そうした動画をうまく活用しているECサイトを“V(Video)コマース”サイトと呼ぶところも出始めています」
2年前には「サイトに動画を載せましょう」という話をしても見向きもされない状態だったというが、アメリカではZapposに倣えと、各社が競うように動画マーケティングに取り組み始めているのだとか。
動画活用がサイト成功のカギを握るようになったことで、確かに導入企業の数は増えた。ただ、成功事例が出てきても、「もっとノウハウを貯めるまでは外部に情報を漏らすまい」と事例として取り上げられることを渋る企業も多いのが現状だと須賀氏は語る。
本稿では、そんな中でもなんとか公開が認められた貴重なVコマースの成功事例を紹介していこう。
顧客エンゲージメントを意識してワイン売上90%アップのMarks & Spencer
イギリスに本社がある大手小売チェーンのMarks & Spencerは、2009年4月にMarks & Spencer TVという動画サイトをオープン。立ち上げて間もなく動画マーケティングの効果を実感し、わずか半年で190本以上の動画を公開。開始から半年間で再生された動画の延べ時間は、なんと100万分(約700日相当)にも及ぶという。
動画サイトを始めたことでFacebookやTwitterといったソーシャルメディアからの流入が増えたほか、リピート率の向上にも奏功しているそうだ。Marks & Spencer TVでは、ファッション、フラワー、ホーム、フード、ワインなど、同社の取り扱う商品カテゴリごとにさまざまな動画が掲載されている。
ワインのカテゴリなら、「今週のお薦めワイン」、「夏にお薦めのワイン」といった購入に直結させようという目的の動画から、「スパークリングワインの造り方」や「ワイン用語集」のような造詣を深められるもの、「結婚式に関するワインのTips」といった困った時のヒントになるような動画まで掲載されている、といった具合だ。
動画を再生すると、ガイドがお薦めのワインを紹介するたびに、動画のタイミングに合わせて動画プレイヤーの右側に紹介された商品がリスト表示されていく。
リストから気になる商品をクリックすると詳細情報ページに飛ぶのだが、なんとこのリスト部分がクリックされる割合は30%以上。動画を見た10人に3人は商品の詳しい情報を知ろうとクリックした計算になる。動画を見ることで購入意欲が湧いてきた人が多いことの証左だ。
「美味しいワインを飲みたいという欲求を持つ人は多いかもしれませんが、ワインの種類は、自分では選べないくらいたくさんあります。誰かが試飲して推薦してくれるのなら、『そのワインを買ってみようかな』という気持ちになってもおかしくありません。コンバージョン率を高める目的でも動画は使えますが、購買意欲の高くないユーザーに動画を見せて買う気にさせるという目的でも使えるのです」(須賀氏)
結果、Marks & Spencer TVのリリース以降、Marks & Spencerのワイン売上は90%も増えたという。
購買意欲の高いユーザーならともかく、ウインドウショッピング感覚で訪ねてくるユーザーも居る。そんなユーザーには、テキスト+画像で訴求しようとしても「読むのは疲れる」と離脱されてしまうかもしれない。
ながら視聴ではないが、動画なら離脱せずに何となく見てくれるユーザーも多いのではないだろうか。購入に直接つながりにくいが役立つコンテンツ、本サイトと関連する教育的なコンテンツを通じて顧客エンゲージメントを高めようと考えた時には、動画を使わない手はないと須賀氏は訴える。
Webでコンバージョンだけでなく、認知・エンゲージメントもカバーしていく時代に突入
これまでWebでのマーケティングと言えば、コンバージョン数や獲得単価を中心に見られることが多かった。ブランディングや顧客エンゲージメントの向上といったアクションに至るまでの前段階は、依然としてテレビや雑誌などに任せる企業ばかりだったが、動画やソーシャルメディアが普及してきたことで、Webで一貫してマーケティングを行おうと考える企業も増えてきたという。
テレビよりも費用を抑えて動画を作り、コンバージョン目的だけではなく、口コミが期待できる役に立つコンテンツや知識を深められるコンテンツなども用意してソーシャルメディアでの露出をねらう。ソーシャルメディアで認知を高めて、自社サイトへのトラフィックを確保できたら、さらに顧客エンゲージメントを高められるコンテンツを定期的に見せてリピート率・ロイヤリティを上げる。そして最後に刈り取っていく。
アメリカなどでは、そんなマーケティングプランを描き、成功を収める先進的な企業が続々と現れている状況だそうだ。
「今までブランディングはテレビでしかできませんでしたが、それがWebでも費用対効果よくできるようになりました。別の視点で考えると、自社サイトにトラフィックを集める限界が見えてきた中で、ソーシャルメディアを活用して認知度を高めようとする企業が増えてきています。口コミを誘うのにはテキスト+画像よりも動画の方が効果的。Facebookで口コミされているコンテンツの40%は動画だと言われています。ECサイトや消費財メーカーのサイトなど、これまで購買のタイミングでしかユーザーと接点のなかったところに、ライフタイムバリューを意識して、動画を使ってエンゲージメントを高め、買い物と買い物の間を埋めていく。リピート率を高めて他社ではなく自社を訪れてくれるようにして、市場占有率を上げていく。そのためにはコンバージョン目的の動画だけではなく、教育的なメッセージや役に立つ情報を伝える動画も出していくことで認知度・ロイヤリティを高めようとする企業が増えてきています」(須賀氏)
動画マーケティングを成功に導くために最適なツールを
だが、単に動画を作ってYouTubeに投稿すれば良い、というわけでもない。マーケティングを意識するのなら、動画から自社サイトに誘導する、商品説明ページに飛ばす、といった自社にとってのゴールを意識した仕掛けが欲しいところだ。
そうした動画マーケティングを意識した企業は、自社で動画配信用のシステムを開発するのではなく、Brightcoveの提供しているような動画配信用のプラットフォームサービスを利用するのがアメリカでは一般的だ。
The New York TimesやAOLなど、以前は自社でシステムを作って運用していた企業も、メンテナンスや最新機能への対応、サーバのスケーラビリティの確保にかかる費用を考え、Brightcoveのサービスに乗り換えたのだとか。日本でも楽天やドクターシーラボなど、導入企業は確実に増えてきている。
単に費用面のみならず、成果につなげるための高度な機能を既に備えているというのも魅力。Marks & Spencerの事例で取り上げたような動画の再生タイミングに合わせて、関連商品をプレイヤー周辺にリスト表示するキューポイントの機能、あるいは動画上に自社ロゴのレイヤーを被せてクリックしたら自社サイトに誘導するオーバーレイ機能など、Brightcoveならではの動画管理・編集の機能をすぐに使える。
さらに同社のプラットフォームは特にカスタマイズ性に優れ、関連する動画・商品ページへのリンクにメタデータを使って価格などの詳細な情報を表示する、サムネイル画像に使う画像を動画中や手持ちの素材から選ぶ、動画に広告を載せるかどうかのルールを細かく設定する、といったサイト主のオーダーには柔軟に対応できるようになっているという。
どこまでやるかでもちろん費用は変わってくるが、Marks & Spencerのような動画サイトを始めようと思うのなら、動画まわりの機能開発で数百万円程度は見込んでおいた方がよい。毎月のランニング費用は動画の閲覧量に応じた従量課金制で10万円程度からのようだ。
ライバルに先んじて動画を始めれば、市場シェアを取れるかもしれない。その価値はプライスレス。2010年、ライバルに差をつけるカギの1つとして、動画・Vコマースは見逃せないトピックスになりそうだ。