ネットが加速するクチコミ
「クチコミ」=「Word of Mouth(WOM)」は、リアルでもネットでも日々起こっている。本書「WOMマーケティング入門」の著者、アンディ・セルノヴィッツは「ネットで起こっているクチコミの数は20%程度で、残りの80%は現実世界で起きている」と指摘する。しかし、ネットがクチコミのパワーと速度を一気に上げた。
クチコミが起きるのは、人が「これを誰かに伝えたい」と思った瞬間だ。それは、さっき買い物をした店のとてもスマートな対応かもしれないし、この間食べた値段のわりにおいしくなかったケーキのことかもしれない。ネットには、ブログ、SNS、ツイッターなど、人々がちょっとした情報を即座に発信し、共有するためのサービスが目白押しだ。
企業は、自社製品やサービスが、ネットでどんな評価を受けているのかを分析するだけでなく、自らもそのクチコミの会話の中に飛び込まなければならない。本書では、アマゾン、イーベイ、リッツカールトン、イケアといった有名どころから、街のちょっと変わった歯科医院、レストランなど、さまざまな取組みを紹介している。
誠実さがクチコミのROIを押し上げる
本書は、読者に従来のマーケティングの考え方を捨てるように説く。クチコミは会話だ。それがネットでもリアルでも、人が会話をしているところに飛び込むのは勇気がいる。12の項目に簡潔にまとめられた本書の「WOMマーケティングマニフェスト」は、はじめてクチコミマーケティングにたずさわる人にとって、一歩を踏み出すための確かな指針となるだろう。
著者はまた、クチコミに対する見返りの提供や「サクラ」を使って宣伝する「ステルスマーケティング」など、企業が行うべきではない手法についても触れている。彼は消費者への誠実な対応について繰り返し説きながら、それを「誠実さのROI(投資回収率)」と呼んでいる。 クチコミは簡単に始められるが、始めたあとの対応こそが大切になる。その点についても本書はしっかりフォローしている。
日々、進化し続けるクチコミマーケティング
本書が提供するノウハウは、クチコミマーケティングのあくまでも基本だ。加速するクチコミのパワーを使った新しい試みも始まっている。現在、日本でもサービスが始まったばかりの共同購入型のクーポンサイトがそれだ。
そうしたサービスのひとつ「クーポッド」は、アップルの「iTunes Card」1500円分が80%オフの300円となるクーポンを発売し、1日で1万枚のクーポンを完売した。こうしたサイトでは、一定期間内に一定の人数が集まることを条件に、大幅な割引で商品が買えるクーポンを販売する。サイトでは、締切までの残り時間、あと何枚のクーポンが残っているのかを表示され、それを見たユーザーは、クーポンが成立するようネットを使って友だちを集めるかもしれない。そのときにつかえるネットのツールは、前述したとおり、よりどりみどりなのだ。
これらのサービスは、クチコミのネタを定型化して、日々新たにクチコミを生み出すしくみを構築している。しかし、遊び心のあるアイデアひとつで始められるのが、クチコミマーケティングの強みだ。ネットだけでなく、街を歩いて店に入れば、たわいのない人々の会話が聞こえてくる。そこから得たアイデアを実践するために、本書は大いに役立ってくれるだろう。
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