フェルミ推定を実務にどう活かすのか?
さて、前回までは単純に“数を推定する”という部分だけにフォーカスしてお届けしてきました。しかし、この連載の本来の主旨は“フェルミ推定で培った推定手法を実務に活かしていく”ことです。今回は、その部分について冒頭で触れてみたいと思います。
前回の回答で算出してみた売上ですが、皆さんはどのように感じられたでしょうか? 実は、私自身は「実際の売上よりも低そうだ」という感触を持っていました。売上を推定する理由にもよると思いますが、「検算が必要そうな数値だ」との印象です。
検算を行うには、次のような方法が考えられますね。
- スターバックスの商品粗利率を推定
- 人件費と店舗家賃を推定して1店舗が出す営業利益として妥当そうかを算出
- IR資料にあたる
ただ、こうした検算を行うべきかどうかという判断について、重要なコメントをTwitter上で投稿されていた方がいらっしゃいます。
これ基本だけど、意外とこの考えで企業は動かないってのも事実。計算したら勝てるわけないじゃんって事にいつまで執念持つんだって話。
まさにご指摘のとおりで、実務では“この推定が目的達成にどれくらい役に立つか”によって、推定を続けるべきかどうか判断するべきでしょう。
例えば、「近隣に店舗を構えるべきか?」という検討を行っているのであれば、きっちりと検算をやったうえで、実際の来客数は自分の目で確かめるか、当該店舗の責任者や経験者に話を聞けるのであれば聞くべきでしょう。私はまったくの門外漢なのですが、飲食店専用に基礎データを提供するようなサービスがあれば、それも利用しない手はありません。
逆に、「飲食店向けに広告営業をしており、大まかにどれくらいの集客効果があれば出稿してもらえそうか?」というのを計算しているのであれば、大体の数値が出ていれば後はヒアリングすればいいので、今回程度の推定で問題ないと言えそうです。
以上のことからわかるように、実務においてフェルミ推定はあくまでも「さらにどの数値を調べるべきか?」「誰に話を聞きに行くべきなのか?」ということを浮かび上がらせるためのスタート地点でしかありません。
また、学校の試験などとは違い“推定は1回でなければならない”といったルールも当然ありません。スタート時点で仮説を立て、ある程度の情報が集まればそれを基にさらに仮説を立てる、といった方法でプランをブラッシュアップしていくことが可能です。実際、先日私が所属しているCAテクノロジーで新規事業会議があったのですが、その際に私が提出した新規事業案の参入プランは、全てこの方法で構築していきました。
以上のことから、単純に「どれくらいが正解の値なのか?」という推定の問題は今回で最後にし、次回からはもう少し実務に近そうな課題を設定してみたいと思います。
それでは今回の問題です。お約束ですが、本連載ではフェルミ推定を次のように捉えています。
- フェルミ推定は、時として明確な答えが不明、または存在しないような問題に対して、結論から考えて解決に必要なデータを洗い出し、手元にないものは類推することで概算に迫ろうというテクニック
- 必要な結論に対して「結論から」「全体から」「ロジカルに」「シンプルに」考える能力を養うことができる
- 業務上は、時として正解がないような問題を考える際、自分なりに計測可能な指標を定義し、それらの指標に対してどれくらいのインパクトがある施策になるのかを類推することで、検討の第一歩にすることが可能になるかもしれない
そのため、基本的には「導きだした回答がどれくらい正解に近いか?」ということは考慮にいれません。それよりも、「確からしい答えをロジカルに導くことができているか?」「その手順は妥当か?」というところに、焦点を当てています。
【練習問題3】東京中のコンビニに飛び込み営業するために必要な人員は?
半年間で、東京の全てのコンビニエンスストアに飛び込み営業するためには、何人の営業マンが必要か? ただし、1回のアポの平均所要時間は20分とする。
今回も問題を実際に解く前に、解き方について簡単に考えてみます。
- まず、求めるべき値を決めます。今回の場合であれば、営業マンの数ですね。
- それから、どのような数字が分かれば営業マンの数を求めることができるかを考えます。
- 最後に、それらの数字を基に概算します。
次のページでは、私なりの解き方を解説していきます。次のページに進む前に、読者の皆さんも自分なりの解き方を考えてみてください。