プロジェクト:高画質配信技術を極め、ビジネスとしての
デジタルコンテンツサービスに寄与する
技術の進化やインフラの拡充に従い、デジタルコンテンツの流通量はうなぎのぼりで増加している。誰もがインターネットを介して映画やテレビなどのリッチな動画コンテンツを楽しみ、自身で撮影した動画をWeb上で共有する。そんな時代が実現しつつあるのだ。その推進役として注目を集めるスキルアップジャパンで研究開発室室長として活躍するのが、今回ご紹介するルイス・ロヨラ氏だ。
スキルアップジャパンの動画配信プラットフォーム「ULIZA (ウリザ)」における技術開発のほか、双方向メディアを意識したコンテンツに関する研究までと活躍の幅は広い。「シニアリサーチエンジニア」として、アカデミックな基礎研究だけでなく、実際のサービスの開発・実装に至るまでを担っているという。
「「ULIZA」は、動画配信に関するあらゆるサービスをワンストップで提供するプラットフォーム。私たちのチームが手がけたコンポーネントが多数用いられています。たとえば、動画の配信は膨大な情報量を流通させる必要があるため、インフラコストの低減させるコーデック(圧縮伸張プログラム)の最適化、高速化に関する技術が不可欠です。また、サーバーへの一極集中を防ぐための分散キャッシングやPtoPによるインフラ構築なども該当します」
さらに「ULIZA」の近々の課題としては、スマートフォンの普及に伴うマルチデバイス対応である。マルチデバイスとなるとHTML5が注目されつつあるが、まだまだ十分とはいえない。そこで、Flashの技術をベースにした「ULIZA」の上では、HTML5やネイティブアプリを用いることでマルチデバイスへの動画配信を実現させようとしている。
「マルチデバイス対応とするには、動画を様々なフォーマットに変換する必要があります。形式はもちろん、サイズや画質など最適化を図れば変換すべきフォーマットは膨大になります。複雑な作業のため、これまでは人の手によって行なわれてきましたが、今後のコンテンツの流通量を鑑みると、それではとても追いつきません。変換の工程を効率的に行なえるシステムが不可欠になってきたわけです」
そこでロヨラさんたちのチームでは、クラウドとエンクラスタ技術を利用し、効率的な変換システムを開発した。
「複雑な変換を迅速に行なうためには膨大なシステム領域が必要です。それなら動画を一つのサーバーで変換するのではなく、分割してクラウド上の多数のサーバーで変換し、それをまた集約させればいい。そうすることで効率的に変換できるというわけです。この技術は、つい先日特許を取得したばかりです」
この変換システムは「ULIZA」の中で使われているだけでなく、単独のサービスとしても提供されている予定だという。しかし、今現在の課題を解決することばかりがロヨラさんの仕事ではない。
「マルチデバイス対応の技術としてHTML5が注目されているのは明らかですが、まだまだ完全とはいえません。ですから、将来的に主流になる可能性もある新しい技術として念頭に置きながら、今求められているニーズに現実的な解で対応していく必要があります。その両者を鑑みながら、どんな技術をどのタイミングで使って次世代の動画配信プラットフォームを実現させるか。こうした研究と実装における技術の見極めも研究開発職の重要な役割と考えています」
そのためには、現実的な解としての技術だけではなく、アカデミックな基礎研究にも常に触れておくことが必要だ。スキルアップジャパンでは、ロヨラさんの入社を機に、チリ大学や早稲田大学、電気通信大学と提携し、共同研究プロジェクトを立ち上げている。ロヨラさんは推進役として参加し、新たな技術研究にも積極的に取り組んでいる。
たとえば、人やものなど、オブジェクトに自動的にメタデータをひもづけ、動画の中で追跡していく技術。それができれば、動画に映った物に対して情報を与えることができ、ECサイトとの連携もできるかもしれない。多くの研究者はピクセル分析によるアプローチだが、ロヨラさんたちは動きのベクターを分析することで実現しようとしている。
「参加者の皆さんの発想はユニークで刺激的。年齢だけでなく、国籍も本当に様々で、ペルーやポルトガル、中国人もいます。そうした中からいろいろなアイディアが出てくるのは、本当に楽しいです」
まさにダイバーシティな環境で生き生きと仕事をすすめるロヨラさん。いったいどのようなキャリアの持ち主なのだろうか。(次ページへ続く)