マイクロソフトの初期製品パッケージは「英語版と兄弟のように」
今回は、SEデザイン代表取締役社長篠崎晃一氏に、IT業界におけるコミュニケーションデザインとは何か、そしてこれからどうなるのかについて訊いてみました。

― 前ページでIT業界の変遷のマップを紹介しましたが、この意義をまず考えてみたいのですが。
「SEデザインは、IT関連の特化された業態とともに発展してきました。狭い業態ですが、最先端の分野でもあります。インターネットによるコミュニケーションをはじめ、この業態で起こったことが他の業態でも起こりうる可能性がある。その意味では、過去のIT業態の歴史は、これから別の業態で起こりうるかもしれない歴史でもあります。そして、常にわれわれは時代の先端を走っていたという実感があります」
― そもそもSEデザインは、マイクロソフトのパッケージ・マニュアル制作からスタートしているんですよね。
「そうです。マイクロソフトの日本法人が設立される前では、アスキーが日本の販売代理をしていたのですが、並行輸入で英語版も発売されていました。ところが日本法人設立にあたって、新しいデザインのコンペティションが行われました。そこでわれわれの提案したデザインが採用されました。これをひとつの契機として現在のSEデザインに繋がっています」
― そのとき留意されたことは何でしょう。
「逆説的ですが、新しいデザインを起こしてはいけない、ということでした。情報感度の高いギークな少数の開発者たちには、英語版のパッケージのイメージに憧れてもいた。彼等にまず評価されることが重要です。だから、まったく新しいデザインである必要がない」
― 具体的には、どういうことですか。
「英語版のデザインを踏襲しつつ、カラーリングやバリエーションも異なる“兄弟のようないいデザイン”であることをコンセプトとしました。それがブランディングに注目していたマイクロソフトに響いたようです。当時は、アップルにしてもインテルにしても、いままでにない新しいPCのマーケットを切り拓こうとしていました。だからこそグローバルなブランディングが重要だったのです」
― 偏見かもしれませんが、デザインとは目を引くものでなければいけない、という印象があります。先程の考え方はそれと異なるように思えるのですが。
「確かに短期的な視点からは広告的に注目されることも重要でしょう。しかし、ブランド管理こそが事業の本質であると考えたとき、まったく違ったものになる。ここで求められるデザインは、市場の複雑な構造を整理し、製品をアイデンティファイすることです。長期的には、このような企業あるいは製品やソリューションの価値をデザインすることの方が重要になるのではないでしょうか」
これからはEGM的な発想が普及
― 一方で、インターネットの登場によって変わってきたことは何でしょうか。
「かつてマスメディアが主流だった頃には、広告というメディアが顧客や見込み客とのコミュニケーションの接点でした。しかし、インターネットの登場により、さまざまな情報伝達の経路ができています。たとえば、開発者向けの情報であれば、広告というマスメディアを通さずに、開発者自身が情報発信できるようになりました。皮肉なことに、よく技術を理解していない感覚的なコピーライティングを経由しないで、技術をそのまま伝えたほうがよく伝わることもある。そして、顧客や見込み客もそういう生の情報を求めている」
― EGM(Employee Generated Media)的な発想かもしれないですね。
「企業がメディアになれる時代が考えられます。インターネットはマスメディアではありません。いろいろなレベルの多様な情報を発信し、その量が質を凌駕するということが生まれる。そのコミュニケーションをデザインすることが、これからIT業界だけでなく、さまざまな業態で求められていくはずです」