ビジネスと経済の変化が求める「マーケターの派遣社員化」
「米国の今は日本の5年後」といわれるように、米国の市場動向は日本の近い将来を占うのに大きな手がかりとなるという。その意味で米国での人材市場の変化は、大いに注目すべき事項といえる。その中で、現在顕著な動向が「エキスパートの流動化、派遣社員化」だという。エンジニア、クリエイターではもう当然の選択肢の1つだが、米国ではそれがマーケターにも派生しているそうだ。マーケターとしての経験を持ち、現在は米国のマーケティング専門人材エージェンシーエイクエントに勤務するトレイシー・シンクレアさんにお話をうかがった。
――米国では、マーケターが1社に正社員として留まるより、プロジェクト単位で働くことを選択する傾向にあるということですが、いつごろからそのような傾向が生じてきたのでしょうか。
日本に比べて人材が流動的といわれる米国でも、8年前、私がマーケティングをはじめた頃は、企業も就業者側も「プロジェクト単位で働く」という考え方は一部の業種を除いてほとんどありませんでした。まず企業側に「派遣社員は正社員になれない半端な人材だ」という既成概念がありましたし、就業者側もそうした企業側の評価を受けることに抵抗感を感じていました。しかし、ここ1年くらいで急速に、エキスパートがプロジェクト単位の働き方を選択するようになっています。デザイナーをはじめとするクリエイターがそうした働き方を選ぶのはもちろん、最近では派遣マーケターの需要が高まりつつあります。
――そうした状況が起きつつある背景や理由について教えてください。
ポジティブとネガティブの2つの理由があるでしょうね。ポジティブな理由としては、グローバル化やIT化によって、ビジネスの速度が増していることが上げられるます。そのスピードに対応するために、新しい価値観や情報を持ち、即戦力となりうる人材を外部から調達してこようという考えるようになったことです。ネガティブな理由としては、リーマンショック以降の景気の低迷で、社内に人材を抱えておける余力がなくなってきたからとも推察できるでしょう。就業側はすぐにリストラする企業に忠誠心を持っていませんし、企業も社員に期待していません。
――時代の流れとはいえ、派遣マーケターについては、企業側も就業者側もまだまだ感覚的な抵抗感は大きいのではないでしょうか。
そうですね。マーケターを派遣する当社エイクエントの活動においても、まずクライアントと就業者、それぞれに対して派遣のメリットを伝えて啓蒙することが必要でした。たとえば、派遣人材の強みとして、さまざまなプロジェクトをさまざまな企業で経験しているということが上げられます。1つの企業で同じ仕事をし続けていると、どうしても同じスキルばかり使うようになり、考え方も偏ってくる傾向があります。事実、私も前職で同じ商品ばかりを担当させられた経験があり、なかなかスキルアップできず悩んだことがあります。
そもそもマーケティングの仕事には、トレンドと連動したスピーディな対応が求められます。そうなれば、引き出しの多い人間の方がいい。さまざまなプロジェクトで得た多彩な経験やバックグラウンドが、ダイレクトに成果につながる可能性があるからです。たとえば、化粧品メーカーでの経験を持つマーケターが食品メーカーで働くことになったら、よりいっそう斬新な発想が得られると思いませんか。このようにお話しすると、企業も就業者も納得されますね。事例が増えるほど、心理的な障壁は減っていくと信じています。(次ページへ続く)