“PDF作成ソフト”という固定観念が新規顧客獲得の障壁に
「○○と言えば××」。イメージが定着することで得られるメリットもあるが、逆に先入観が広まることで生まれる弊害もある。これはAdobe Acrobat(以下、Acrobat)においても同様。PDF作成ソフトとして広く認知されているが、そのイメージが強すぎて、新たな価値を訴求しにくくなっている。「根強く残っている固定観念を、何年も打ち破れずにいるというのが正直な状況です」とマーケティング部の藤田氏は長年向き合っているAcrobatの課題を明かす。
Acrobatには、文書ファイル/紙書類/HTMLなどをPDFに変換する機能以外に、企画書や文書をチーム内で共有レビューしてコメントできる機能、文書や画像以外にHTML/Flash/動画などもまとめてPDFにできる機能、スキャンした文書のテキストをOCR処理する機能など、さまざまな機能が備わっている。うまく活用すれば職場の業務効率を改善できるが、そもそも「業務効率の改善に使えるソフトだ」という認知が広まりにくく、新規顧客を取り込めずにいたという。
“PDF作成ソフト”ではない“業務効率改善ソフト”という新たな価値。どうすればその価値を多くの人に気付いてもらえるのか。アドビ システムズのマーケティングチームは、どのような取り組みを続けてきたのだろうか。
過去の反省を踏まえたコンセプトは“代弁者”
「ターゲットにしているのはミドルマネジャー層。課長・係長・プロジェクトリーダーとして現場を率いている人たちです」(鈴木氏)
数年前に、媒体との協力でアンケート調査を実施したところ、業務効率改善ソフトとしてのAcrobatを求める層として、そんなユーザー像が浮かび上がってきた。加えてアンケートで顕著な差が表れたのは、自分自身だけではなく“グループ全体”の業務効率を上げることへの意識。Acrobatに興味を持ってくれた人では、「自分がいるチーム全体を良くしよう」という意識が強かったのだ。
そこでアドビ システムズは、Acrobat 8のリリース時には架空のプロジェクトチームの事例を紹介。現在困っている仕事上の課題を、Acrobatで解決していくストーリーをサイト上で見せた。続くAcrobat 9では、人気マンガのキャラクターである島耕作を起用。『別冊島耕作』と銘打ち、来訪者自身がマンガに登場し、Acrobatを活用しながら島耕作の右腕を目指すといった、非常にリッチなサイトやクリエイティブを準備した。
「島耕作のキャンペーンは、ブログなどでたくさん取り上げていただけました。キャンペーンの1つのやり方としては成功だったのかもしれませんが、製品自体に触れられていることは少なかった。『プロモーションサイトとして良くできている』という評価をいただけても、本意ではないのです。これでは違うなと」(藤田氏)
そんな反省を踏まえ、2010年11月に発表したAcrobat X(アクロバット テン)のキャンペーンでは、実際のAcrobatユーザーの活用事例を豊富に紹介できるようにした。コンセプトは“advocate”(代弁者)。『こう使っているよ。ここが良いんだよ』というユーザー自身によるコメントを紹介するようにした。
「今回、『どんなお客様にアピールしたいか』とあらためて考えました。島耕作もビジネスシーンではありますが、幅が広過ぎました。もっと現場のビジネスに近いところで訴えようと。これまでは事例を見せたとしても、1つ1つの機能の話に落とし込んで訴求してしまっていました。今回意識したのは、『Acrobatで何が実現できるか』ということ。当社側の視線ではなく、ユーザー側の目線で語るようにしました」(鈴木氏)