商品開発にエスノグラフィーを取り入れる方法
そもそも、エスノグラフィーを取り入れるべきかどうかについては、どのタイミングで検討をすればいいのだろうか。白根氏は「ビジネスをしようとしている市場について、ほとんど何も知らないとき」や「市場の枠組みや競争のルールを変えたいとき」に取り入れるべきだと語った。
また、大きなポイントとして、既存の製品やサービスについての問題を調査して改良を加えることは絶対にしてはいけないと指摘。このやり方で新興国に導入すると、往々にして価格が高くなるか、機能を減らして価格を下げるというパターンに陥るという。先ほど紹介した新興国の共通点にもある通り、新興国の人は誰も機能を減らしたものが欲しいわけではないし、そもそも問題を調査する段階でコンテクストの差異に気付いていないため、新興国の人々のニーズに合った製品になっている可能性は低いと言えると、白根氏は警鐘を鳴らした。
これは、エスノグラフィーを用いて、人間中心のイノベーションを生み出すための手順だ。製品ではなく、ユーザーの調査から始めるところがポイント。例えば、インドでは自動車の購入に関しては、個人の問題ではなく、一族の大事な資産を決める家族の一大イベントだ。また、効率のために運転手が雇われるため、助手席はただの荷物置きとなり、オーナーは後部座席で何かをするという使い方が一般的。
だが車の設計はそのような設計にはなっていない。さらに、インドでは車が大きくなればなるほどステータスになるため、かつては7~8年だった買い替えサイクルが、今では4~5年にまで縮まっている。そのため中古車を取り扱うWebサイトが流行しており、ローンの種類も充実してきた。わかってしまうと当たり前だが、このような大きなパターンを見つけて全体像を理解することが、「製品・サービスを利用する隠れた動機・ゴール=ニーズ」へとたどり着く近道なのだ。
新興国におけるエスノグラフィーの障害と解決策
エスノグラフィーを用いたインタビューについて、具体的な質問事項を見てみよう。
- 状況・モード…製品・サービスが利用される物理的、心理的な状況は?
- 行動…何を、どのような順でするのか?頻度、優先順位は?
- インタラクション…他にどんな人やメディアが関わるか?
- 知識・能力…何ができて、何ができないのか
- フラストレーション…イライラすること、我慢していることは?
- メンタルモデル…対象をどのように捉え、どのように理解・判断するのか
- 期待水準…どこまでが期待はずれで、どこからが当たり前なのか
- 手がかり…どんなシグナルから、何を感じ、どんな判断をするのか
こういった項目について、ユーザーの行動をコンテクストの中で観察しながら質問していく。その際、注意すべきポイントについて、白根氏は以下の3点を紹介した。
- 対象が広範囲に及ぶ…あまり深く考えずにリサーチを始めると、対象範囲が広すぎて、収拾がつかなくなる。
- 人種の違いによるバイアス/バリア…エスノグラフィーを行うチーム内での人種の違いによって、偏った見方になってしまう。
- コンテクストの違いによるsay-meanギャップ…同じ言葉でも、回答者の言っていることと、受け取る側の認識に差異が生じ、意味のギャップができてしまう。
これらの問題を解消するためには、現地チームと共同でスコープ定義をしたり、カードを使ってゲーム感覚で本音が出やすい環境を作ったりする方法があるが、プロジェクト定義から導入支援までトータルで支援してくれる、m.c.t.のグローバルエスノグラフィーサービスを活用するのもひとつの手だろう。
グローバルPIMとfacebookの連携
最後に、FatWire株式会社技術部木村潤氏によって、同社が提供するCMSを活用した、多言語でのfacebookページ(F-commerceを含む)を導入する方法についてデモが行われた。PIMとは、システムから特定データを取得して、変更があった場合には素早く同期することで、製品に関する情報をリアルタイムに一元管理するソリューションのこと。( 参照:PIM (product information management )
デモでは、英語・日本語・アラビア語の3種類のfacebookページを作り、アプリケーションを通すことで、1回の作業で複数ページの情報を更新する流れが紹介された。
実際には、エスノグラフィーの結果に従って、どの製品をどこの国で販売するかを一覧にしたマトリクスを作り、このデータに沿って入力をしていく。
木村氏によるデモでは、管理画面でひとつの製品のステータスを変更すると、それぞれの言語で作成されたfacebookページの情報が瞬時に更新される様子が映された。グローバルにfacebookページを多言語展開する場合に、最適なサービスとなっている。エスノグラフィーと多言語facebookページの組み合わせは、今後のビジネスを大きく変えてくれそうだ。