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「調査は“コスト”ではなく“投資”」――セルフ型アンケート「Fastask」はネットリサーチへの考え方を変えるのか

 サービス開始からわずか2カ月。セルフサービス形式のネットリサーチ「Fastask」が大反響を呼んでいる。従来型の約半額~10分の1ほどという格安の料金が魅力だが、導入を検討している企業からはどのような反応が返ってきているのだろう。そして「まだ土台を固めているところ」というFastaskの今後の展望とは。

サービス開始から約2カ月。Fastaskが引き起こした変化

 セルフサービス式でネットリサーチを行える「Fastask」は、徹底したシステム化により運営社側に必要な人手を極力排除。原価を抑えることで、料金を従来型の約半額~10分の1ほどにまで圧縮した意欲的なサービスだ。

 前回、「Fastask」の事業を企画した動機について株式会社ジャストシステム 事業企画部の石川英輝シニアマネージャーに話を聞いたが、サービス開始から約2カ月が経過。リサーチにかかわる人たちには「『ネットリサーチを身近にしたい』という考え方に賛同いただける方が非常に多く、いろいろなお客様から引き合いをいただいている」(石川氏)という。

 Fastaskが早々に支持を集めた背景には「調査料金が劇的に安くなるから」という分かりやすい理由もあるのだろうが、「調査に掛かる費用を“コスト”ではなく“投資”に変えたい」という思いがあったのではないかと石川氏は分析している。つまり、Fastaskが登場したことで起きた次の2つの変化によって、ネットリサーチに対する考え方を大きく変えられるのではないか、と言うのだ。

  1. スクリーニング調査の結果として得られたリストは、調査会社のものではなく調査主のもの。調査主が自由に利用できるため、「失敗を防ぐ調査」ではなく「売上を増やす調査」を何度も行えるようになった
  2. アンケート調査の費用を抑えられることで、本来売上を増やすための要となるデータ分析を専門家に依頼する余裕が生まれた

スクリーニング調査の結果は調査主のもの。「当たり前」のことに驚かれた

 企業からの問い合わせを受けてFastaskの説明に行くと、「われわれは当たり前と思っていたのに、お客様には驚かれたことがある」と石川氏。驚かれたのは、過去に実施したスクリーニング調査の結果なら、調査主側がその後自由に何度でも使えることだ。

 例えば、会社員に日本語入力システム「ATOK」の利用経験を質問するスクリーニング調査を行うとする。

 「利用経験あり」と答えてくれた人にだけ「ATOKを新しい料金体系に変えよう考えているが、顧客離れを引き起こさないか」と探る目的でアンケートを実施。決裁権者にGoサインをもらうために必要な情報が集まったところで終わりがちだった。

 なぜなら、スクリーニング調査の結果は従来、調査会社の管理下に置かれていた。追加調査を行う際には、「調査会社が保有しているスクリーニング調査結果」を利用するための追加料金が必要になってしまっていたのだ。

 それがFastaskなら、スクリーニング結果は調査主のものになる。追加調査のために、スクリーニング用の費用を再度支払う必要がない。「利用経験なし」の人がなぜATOKを使った経験がなかったのか、どれくらい安くすればATOKを使ってみても良いと考えてくれるのか、本調査分の料金だけで好きなように調査できる。

 しかも、既に述べたようにFastaskの料金は従来型の約半額~10分の1ほど。“売上につなげるための攻めの調査”も既存の予算枠内で可能になる。

複雑な条件でのモニタ抽出にも対応。仮説検証の機会は圧倒的に増える

 「スクリーニング調査後、本調査に進んでもらうモニタを抽出する作業は、セルフ式ですから調査主にやってもらっています。だから、スクリーニング結果は調査主のものになって当たり前。その後はスクリーニング結果を使って、何でも自由に調査できるようになっています」(石川氏)

 石川氏が言うように、本調査用のリストを作成する自由度は非常に高い。例えば、フェイスブックの利用経験を尋ねたスクリーニング調査結果と、それとは別途実施したツイッターの利用経験を尋ねたスクリーニング調査結果を組み合わせ、「ツイッターもフェイスブックも使っている」「ツイッターかフェイスブックを使ったことがある」「ツイッターもフェイスブックも使っていない」といったリストを作成することもできるのだ。

 「仮説をたくさん持っていても、これまで『ここぞ』という時にしか調査できませんでした。Fastaskですべてをつまびらかにできるか分かりませんが、仮説を検証する機会が圧倒的に増えることは確かです。そうなることで、調査を『必要』と考える人と『不要』と考える人のバランスが変わるはず。調査を“コスト”ではなく“投資”と考えてもらえるようになることで、リサーチの在り方が変わるかもしれませんよね」(石川氏)

Fastaskと補完関係にあるリサーチャー・アナリストからの反響続々

 Fastaskの登場によって生じたもう1つの変化。売上を増やすための業務を専門家に依頼する余裕が生まれたとはどういうことなのだろうか。

 実は、Fastaskに対して想定外の反響があったのは、顧客からマーケティングリサーチ業務全般を受託している調査会社などの専門家からだったと石川氏は話している。

 「日本には500社ほどの調査・分析を専門にする企業があります。彼らは調査設計やデータ分析のプロ。長年にわたってノウハウを蓄え、調査主からとても信頼されています」

 だが、アンケートを設計するノウハウを持っていても、ネットリサーチシステムを運用していなければ、この部分は既存のネットリサーチ専業のような会社に流れてしまうか、せいぜい自社を通して外注せざるを得ない。専門家のノウハウを活かす機会がなかなかないのである。

 「われわれは調査会社ではありませんし、ましてや分析を行うサービスを提供しているわけではありません。したがって、Fastaskは専門家のライバルになるサービスではありません。アンケートを集めるプロセス単独ではコモディティ化できますが、リサーチの企画・設計やデータ分析は専門家の知見が活かされるところで、絶対にシステム化できない部分。むしろFastaskとこれら専門家の知識を組み合わせることで、リサーチの価値を最大化することができるのではないかと考えています」(石川氏)

競合他社と同様のモニタ募集団を形成。「安かろう悪かろう」ではない

 このように「調査に掛かる費用を“コスト”ではなく“投資”に変える」可能性を生み出しつつあるFastask。だが、「安いのは分かったが、モニタの質は大丈夫なのか。『安かろう悪かろう』では困る」という懸念の声を聞くことが多いという。

 Fastaskは、ほかの調査会社と同様の手段でモニタの母集団を集めている。ほかの調査会社の実情を見ると、各社独自に抱えているモニタの数は決して多くない。かなりのモニタが複数の調査会社に登録、アンケートに答えている状況。「どんな人がモニタとして登録しているのか」という観点から見ると、ほかの調査会社と遜色ないところまで来ていると石川氏は見ている。

 ただ、“モニタの質”が評価されている調査会社は、モニタの人数が多いのではなく、同じモニタであっても他社に比べてどれだけそのモニタのことを把握しているかにこそ、大きな差があるようだ。その点、Fastaskについてはどうであろうか。

 例えば、セルフであるがゆえ、Fastaskではクリーニングを行うことができない。クリーニングとは、矛盾する回答をしているサンプルや、テキスト入力欄にふざけた内容が記載されているサンプルを、調査会社側で除外すること。Fastaskは運営社側の人手を極力介さないセルフ式というモデル上、どうしてもクリーニングを行うことはできなくなっている。

 そこで、逆転の発想でそもそも不良サンプルが集まらないようにするための仕組みを導入。「クリーニングすることでキレイにするのではなく、そもそも余計なものが混ざらないようにしよう」と考えた。

 「月に数回、われわれもモニタを評価するため、自主的に調査を行っています。何も考えずに一番左の設問に印を付けていく不良サンプルもありますから、『この設問では一番右の回答を選択してください』という設問を設けたり、アンケートの所要時間が想定時間よりも短すぎないかとチェックしたりしています。その結果を基にして、モニタにスコアを付けて管理し、スコアの低いモニタに対してはアンケートの配信を停止するなど、徹底してモニタのことを把握しようとしています」(石川氏)

ジャストシステムがネットリサーチ事業を始めたのは“日本語”があったから

 Fastaskの今後について、石川氏は「ツールとして徹底的に磨き、調査主の余分な労力を省けるものにしていく」と約束。まだ土台を固めるところにリソースを取られているが、ジャストシステムがATOKなどで培ってきた日本語に関するノウハウを活かしていきたいと展望を語っている。

 「ジャストシステムがセルフ型アンケートサービスを始めた要因の1つは、『日本語』という共通項があったからです。当社は日本語を扱う技術については自信を持っています。アンケートも調査票の内容は言葉で作成されています。そしてモニタから得られた回答の中には自由回答欄もあり、そこには日本語が書かれています。調査票を設計するところでは、日本語を分析していくことで、将来的に画面の問いに従って選択肢を選んでいくウィザード式で設問を作成できるようになるかもしれません。

 あるいは自由回答をテキストマイニング技術で分析し、数値化して調査主にレポートするところまで自動化できるかもしれません。まずは土台を固める必要がありますが、まだアピールできていない “日本語”の技術をFastaskで今後提供していきたいと考えています」(石川氏)

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この記事の著者

中嶋 嘉祐(ナカジマ ヨシヒロ)

ベンチャー2社で事業責任者として上場に向けて貢献するも、ライブドアショック・リーマンショックで未遂に終わる。現在はフリーの事業立ち上げ屋。副業はライター。現在は、MONOistキャリアフォーラム、MONOist転職の編集業務などを手掛けている。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2017/08/04 22:21 https://markezine.jp/article/detail/14703