携帯電話とIPアドレス
携帯電話からのアクセスを、きちんと集計するには、まずユーザーエージェントによる判別が有効ですが、純粋に携帯電話だけのアクセスをカウントしようとした場合、それだけでは不十分です。なぜなら、ユーザーエージェントは、いくらでも偽装できる情報だからです。携帯電話からのアクセスでは、偽装はかなり難しいと思いますが、パソコン上で、携帯電話のユーザーエージェント情報を偽装するのはとても簡単です。
例えば、Firefoxには「UserAgent Switcher」という拡張機能があり、これを使うと自由にユーザーエージェントが偽装できます。携帯電話向けの開発を行う場合には、これを使ってブラウザから携帯電話のユーザーエージェントを発信して、サイトをチェックするといったことを行います。他にも、DoCoMoが公開している開発ツール「i-mode HTML simulator」は、携帯電話のようにサイトを閲覧して、見た目を確認できるツールで、DoCoMoの携帯と同じ法則に基づいたユーザーエージェントを送ってきます。これは開発用のツールではありますが、好きなURLを指定できるので、これを使って携帯サイトにアクセスすることも可能です。
したがって、ユーザーエージェント情報だけでアクセスログをふるいにかけ、携帯電話からのアクセスを抜き出したとしても、それらパソコンからのアクセスが、結果に混入してしまうのです。そうしたパソコンからのアクセスをはじくためには、IPアドレスが使えます。なぜなら、携帯電話の場合、必ず各キャリアを経由してアクセスが行われるため、IPアドレスも、キャリアによってその範囲が決まっています。しかも、各携帯キャリアは、そのIPアドレスの範囲も公開しており、その範囲外からのアクセスは、携帯電話からのアクセスではない、ということが可能なのです。
DoCoMo |
au | Softbank |
---|---|---|
210.153.84.0/24
210.136.161.0/24 210.153.86.0/24 210.153.86.0/24 |
210.169.40.0/24
210.196.3.192/26 210.196.5.192/26 210.230.128.0/24 210.230.141.192/26 210.234.105.32/29 210.234.108.64/26 210.251.1.192/26 210.251.2.0/27 211.5.1.0/24 211.5.2.128/25 211.5.7.0/24 218.222.1.0/24 61.117.0.0/24 61.117.1.0/24 61.117.2.0/26 61.202.3.0/24 219.108.158.0/26 219.125.148.0/24 222.5.63.0/24 222.7.56.0/24 222.5.62.128/25 222.7.57.0/24 59.135.38.128/25 219.108.157.0/25 219.125.151.128/25 219.125.145.0/25 |
202.179.204.0/24
202.253.96.248/29 210.146.7.192/26 210.146.60.192/26 210.151.9.128/26 210.169.130.112/29 210.169.130.120/29 210.169.176.0/24 210.175.1.128/25 210.228.189.0/24 211.8.159.128/25 |
これは、各キャリアのサイトから取得してきた情報です。その見方ですが、スラッシュ「/」の前までがIPアドレスの開始点、 そしてスラッシュの後がサブネットマスクと呼ばれるIPアドレスの範囲を示しています。例えば「210.153.84.0/24」なら、210.153.84.0~210.153.84.255までの256個のIPアドレス範囲であることを意味しています。しかし、その範囲のうち、最初と最後のアドレスは、特別な用途に使われるものなので、実際にはそれを除いた254個がアクセスされる可能性のあるアドレスになります。サブネットマスクは、「24」なら256個、「25」なら128個というように、それぞれの数字ごとにIPアドレスの個数が決まります。
24 | 256個 |
25 | 128個 |
26 | 64個 |
27 | 32個 |
28 | 64個 |
29 | 8個 |
携帯向けサイトでは、こうしたIPアドレスの範囲で本当に携帯かどうかを判断し、携帯電話以外のアクセスをはじいているケースも多く見られます。例えば携帯版のYahoo! Japanのトップページ〔http://mobile.yahoo.co.jp/〕には、いくらユーザーエージェントを偽装しても、携帯電話以外からはアクセスできません。
これは、携帯向けのサイトが、携帯電話の制限を克服するために、さまざまな仕掛けを使ってサイトを構築しており、それにパソコンからアクセスされてしまうと、中のHTMLを解析されて悪意のある使い方をされるなどのセキュリティ上の危険が生じてしまうからです。
IPアドレスが1016個しかないDoCoMo
さて、IPアドレスの範囲が決まっているということは、携帯電話以外の(ユーザーエージェント情報を偽装している)ユーザーをはじく、という目的では有利ですが、「ここのユーザーを特定する」という意味ではかなり厄介だといえます。この一覧を見てすでに気づいているかもしれませんが、5,200万以上と最多の契約者を抱えるDoCoMoでは、IPアドレスが1016個しかありません。これはつまり、たくさんの人が同じIPアドレスを使ってアクセスをしてくる可能性があることを意味します。しかも、同じ人がアクセスをしていても、途中でIPアドレスが変わることもあります。例えばDoCoMoの機種では、一度ブラウザを終了すれば、IPアドレスはほぼ必ず変化するようです。
アクセスログを使ったパソコン向けのサイトのアクセス解析では、ユニークユーザー数を取得するに当たり、IPアドレスとユーザーエージェントの組み合わせで判断しますが、携帯サイトの場合は、同じユーザーエージェント(同じ機種)で同じIPでも、違う人のアクセス、という可能性が非常に高くなってしまいます。したがって、ユニークユーザー数を取得するには、何らかの別の手段をとらなければならないことになります。
なお、フルブラウザを使ったアクセスの場合、アクセスもとのIPアドレスは携帯向けのアドレスとは異なります。また、携帯のアクセス元IPアドレスも、徐々に追加されたり、変更されることがあります。それらの情報については、各キャリアのサイトに情報が記載されています。
さて、前編はここまでにします。後編では「携帯電話のアクセスの解析」についてさらに突っ込んだ内容を見ていきたいと思います。(後編はこちら)