ゲーミフィケーションの理解を深める2つのセッション
「ゲーミフィケーション」という言葉に敏感なマーケターが増えているものの、いまだ国内におけるゲーミフィケーションを活用した成功事例は、ほとんど見られない。それどころか、注目を集めるため(あるいは担当者の理解が不足しているために)、ゲーミフィケーションと謳いながらも極めて疑わしいケースが散見される。
そんな過渡期を迎えている今、マーケターのみなさんにゲーミフィケーションに対する真の理解を深めていただきたいと考え、今回はあえてアカデミックで概念的な2つのセッションを選ばせていただいた。
キーノート「ゲーミフィケーションの科学」
はじめに取り上げるのは、Lithium Technologies社のMichael Wu氏によるキーノート「ゲーミフィケーションの科学」だ。なぜゲーミフィケーションは効果があるのか、行動経済学と心理学の視点からゲーミフィケーションが掘り下げられた。
Wu氏は米国の調査会社であるGartner社が示した「Hype Cycle for Emerging Technologies, 2011」を紹介。ゲーミフィケーションが注目を集める理由について、「ゲーミフィケーションは『過度な期待』のピーク期に差しかかっており、この先2~5年の間に重要なトレンドとなる」と述べた。
- 革新プロセスのゲーミフィケーションは、有意な採用が予測される領域の1つであり、2015年までに企業の50%以上が管理型革新プロセスにゲーミフィケーションを採用する。
- 2014年までにGlobal 2000企業の70%以上が、「ゲーム化(ゲーミフィケーション)」されたアプリケーションを少なくとも1つは導入している。
- 2015年までにゲーミフィケーションにかけられる直接的な支出は28億ドルに上る。
「ゲーミフィケーションとは、ゲーム以外の状況下でも、高い確率でゲームプレイヤーのような行動に駆り立てるよう、ゲームの特性を利用することだ」と語るWu氏。ゲーミフィケーションを理解する上で、ソーシャルメディア上の“コネクション”と“インタラクション(エンゲージメント)”の違いをしっかりと理解しておくことが大切であるという。
「もちろんコネクションは必要ですが、インタラクションを保証するには、それだけでは不十分です。コネクションはインタラクションを生み出すための潜在的な価値を持っているに過ぎません。また、コネクションは一度のアクションで確保できますが、インタラクションは継続的な繰り返しのアクションが求められます。そこで有効になってくるのが、ゲーミフィケーションなのです。」(Wu氏)
言うなれば、Facebookで「いいね!」ボタンを押してもらったりTwitterでフォローしてもらったりすることは、ただ“つながっているだけ”に過ぎず、ブランドのことをもっと知りたい、関わりたいといった、“心をともなうコミュニケーションが生まれる状態”では決してない。それを承知した上で、いかに後者の状態にユーザーを導くかという観点において、ゲーミフィケーションが力を発揮してくれるというわけだ。
良いゲーミフィケーションの条件とは?
Wu氏はスタンフォード大学の実験心理学者であるFogg博士の行動モデルを紹介し、人がアクションを起こすには、「モチベーション」×「アビリティ(シンプリシティ)」×「トリガー」の3つの要素が同時に発生する必要があると説いた。なお、この場合のアビリティとは、スキルを指すのではなく、単にタスクをこなすために時間やお金といった自分のリソースにアクセスできる手段を持ち合わせているかという確度を指す。
ユーザーのアビリティを広げるのは難しいが、ユーザーがこなすべきアクションをわかりやすくして、タスクのシンプリシティを広げることはたやすい。良いゲーミフィケーションかどうかは、これら3つの要素をいかにうまくコントロールするかにかかっているという。
「ゲーミフィケーションは長期間にわたって効果が持続するものではありません。しかし、ユーザーに何かをさせたいとき、スタート時の短期間であれば、非常に効果的に働きます。さらに言うと、ゲーミフィケーションはユーザーがゲームの仕組みや報酬を理解するまでの短い間に効果があれば良いのであり、そもそも長期間の効果をもたらす必要はないのです。」(Wu氏)
最後にWu氏は、以下の3点がゲーミフィケーションで成功するためのカギであると説いた。
- 何をゲーミファイして、ユーザーにどんな行動を起こしてほしいのかを自身で考え、理解すること
- ターゲットとなる“プレイヤー”を知ること
- 十分な行動計量学と解析によって、ユーザーに適正な報酬を与え、内発的モチベーションを刺激し、ユーザーの不正行為を軽減すること