ウェブメディアの電子書籍ビジネスは、なぜ成功しないのか
錦戸:書店は書店で、本との偶然の出会いや発見がある。でも、オンラインの場合は、どこかで情報を得てわかったうえで買いにいくという世界。そこのマーケティングとか告知のハードルが高いので、そこはこれからの課題ではありますけどね。その本をどうやって知らしめるかとか。
MZ:以前、オンデッキで「電子出版10の提言」という特集がありましたが、その中で「電子書籍のプロモーションは、インターネットマーケティングを使う」と謳ってましたよね。そうなってくると、MarkeZineのテーマに直結するんです。インターネットマーケティングで電子書籍をどうやって広げていくのかという。

『電子出版ビジネス「10の提言」』
福浦:「Next Publishing」っていうのは、本当はブランドじゃなくてメソッドなので、「MarkeZine Books」をこの方式で出しましょうよ。そうすると御社もノウハウがたまるし。
MZ:いいんですか?(笑)
錦戸:実は今、ウェブメディアが自前のコンテンツを単純にEPUBとかにして電子書籍にして売ってみましたという試みがあちこちで始まっているんですけど、それほど動きはよくないようです。
やっぱりIT系のメディアっていうのは、ウェブのヘビーな視聴者が見る媒体なので、ウェブである程度満足するところがある。その中で、同じような著者で同じようなテーマで電子書籍をやってしまうとメリハリがないし、買うモチベーションが上がらないですよね。
読者としても、同じデジタルの延長線なので「今まで無料で読んでたのに」という思いがある。でもPODを活用して紙の本にすることでちょっとリーチが変わるんです。だから、電子から電子にいくよりも、今の段階では紙をつかってちゃんと書籍にするほうがいいと思います。
MZ:電子から紙にすることで、また違う読者にリーチできると。
錦戸:ウェブメディアってすごく貴重なコンテンツがたまっていて、「今、本にしたほうがいいんじゃない?」というような切り口の話がすごい蓄積されている。なので、最先端のIT系のビジネスのことを、ウェブメディアのほうで蓄積していって、MarkeZineだったら、MarkeZineのブランドで紙でアウトプットするといいんじゃないかと思うんです。
紙で本を出すことで第三者にオーソライズされるようなところってあるじゃないですか。だから、ウェブのブランドがオンデマンド印刷を使うという組み合わせは、今後は最強だと思っているんです。
出版社・編集者の存在が問われている
錦戸:これからだんだん販路と著者が直接結び付くと、何もしない編集者はホントにいらなくなっていくと思いますね。この著者の持つコンテンツはこういう価値があるから、その価値を最大化するということを真剣に考えてあげられる人じゃないと難しい。
福浦:たぶん、編集というものの本質が紙面を埋めることでごまかされてきたと思うんですよね。だから、このNext Publishingのコンセプトは相当危険な考え方なんですよ。
MZ:まさに、編集者の存在自体が問われてますよね。
福浦:印刷会社も取次も書店も、すべてを問うてますから。もちろん、普通のオフセット印刷がなくなるとは思ってないんです。ただ境い目にある本がなかなか出せないというところが問題で、それが著者からすると「出版社は何もやってくれない」という話につながってくる。
錦戸:やっぱり本質的な問題は、企画の幅がせばまってるってことなんです。書店のIT系ビジネス系のコーナーってせばまってるじゃないですか。今はちょっと専門的な本になると、ホントに書店に並ばないんですよね。
このメソッドなら、企画の自由度が上がるのでどんどん企画が出せる。あとは、著者が書いてくれるかどうかですよね。1冊本を書けば何十万円も入るっていうのは、もう保証できないですから。そこは著者さんを説得しないといけない。その点は今、たいへんなハードルを感じています。
MZ:著者からも理解を得ることが大事になってきますね。これからNext Publishingは、どんなペースでタイトルを出していくのでしょうか。
錦戸:まずは、1年間で100冊を目標に考えています。
福浦:MarkeZineにも参加してもらえれば100冊はクリアできるかと(笑)。
MZ:会社に帰って社内で検討します(笑)。本日は、貴重なお話をありがとうございました。
インタビューを終えて
IT系出版社でウェブメディアも運営しているという意味では、同業者ともいえるMarkeZine編集部の取材に対して、終始率直に答えてくださったおふたり。Next Publishingブランドを立ち上げた今も、電子書籍とオンデマンド印刷にはさまざまなトラブルが発生しているそうで、そう簡単ではない様子がお話から伝わってきました。
これからEPUBなどのフォーマットの表現力がどのように進化していくのかわかりませんが、その将来に向けて、出版社として試行錯誤を繰り返し着実に答えを出していく姿勢、また、わかりやすい本に流れていこうとする風潮のなかで、専門書出版にかけるエネルギーに圧倒されました。「MarkeZine Books」は果たして実現するのか? 今後にご期待ください。(井浦薫/MarkeZine編集部)