DSPも“運用が大切” 最適化でCPA半減の事例も
リスティング広告は“運用が大切”。Webマーケッターにとっては、もはや常識だ。そして普及率を増してきているDSP(Demand Side Platform)も“運用が大切”。こちらも「そんなの常識」という認識が、すぐにでも広まることになるだろう。
まだ運用の最適化に使える機能が万全なDSPが限られている中、モーションビート株式会社が提供するスマートフォン特化型DSP「Bypass」は運用まわりの機能を拡充している。
その背景には「運用に手間を掛けたかどうかで、広告効果に著しい違いが生まれるようになってきた」(DSP事業部 事業部長 岡部健二氏。以下、同)という事実がある。
「既にある程度のクライアントは運用を重視するようになり、運用を工夫したことで顧客獲得単価(CPA)を半減させた事例も出てきています」
【ユーザーニーズ】×【CVR期待値】でセグメントごとにチューニング
ところで、DSPはどんなレベルで運用することができるようになっているのだろうか。複数本のクリエイティブを同時に走らせてテストする。メディアやエリアなど、配信先のセグメントごとに広告効果を評価して入札単価を調整する――。
Bypassをはじめ、いくつかのDSPはこれくらいのことは自動で最適化してくれる。差が生まれてくるのはここから先。ユーザーの置かれている状況ごとにコミュニケーションの進め方についてシナリオを考え、チューニングしていくことができるかどうかだ。
そこまで踏み込み、リターゲティング機能を駆使することができれば、DSPの広告効果は劇的に変わってくるのだという。
例えば、ECサイト。トップスやボトムス、アウター、インナーといた製品群を横軸に取り、ユーザーが来訪時にランディングページ(LP)止まりだったのか、その先のページまで遷移したのか、カートに商品を入れたのか、といった来訪ユーザーが抱えている購買意欲の違いを縦軸に置く。
すると、【製品群】の数×【購買意欲】の段階の数だけセグメントを作ることができる。そこから先は、「単価の高い【アウター】を【カートに入れた】が購入しなかったユーザー」を狙ったリターゲティング広告ではインプレッション課金で可能な限り高単価で設定する、
「単価の低い【インナー】の広告に食いついたが【LP止まり】だったユーザー」はコンバージョン率(CVR)が低いと予想されるため、クリック課金にして低めの単価に抑えておく――といったメリハリを効かせた運用がBypassなら可能になる。
「一番多いクライアントで、横軸に取る製品・サービス群(ユーザーニーズ)で10カテゴリほど、縦軸のCVR期待値で3~4段階に分けています。掛け合わせると30~40ほどのセグメントができます。各セグメントに対してユーザーシナリオを作り、入札単価や配信クリエイティブ、LPを最適化していくことが大切です」
来訪後の経過期間も要素に加えることで、より緻密なシナリオを実現
ユーザーニーズとCVR期待値の掛け合わせによるセグメンテーションに、もう1つの要素を加えることで、より緻密なシナリオを実現することもできる。その要素とは、サイト来訪後の経過期間(マーク期間)だ。
先ほどの例で言えば、「単価の高い【アウター】を【カートに入れた】が購入しなかったユーザー」は、近いうちにどこかのECサイトでアウターを購入するはず。
来訪後、数日間は単価設定を高めにしてマークすべきだが、時間が経つに連れて、別のECサイトで購入済みになった可能性が高まってくる。マーク後の経過期間に応じて、単価は下げていくべきだろう。
一方、「単価の低い【インナー】の広告に食いついたが【LP止まり】だったユーザー」は、まだ「何となく新しいインナーが欲しいな」とニーズを感じ始めたばかりなのかもしれない。こちらは逆に短期間で勝負せず、長期的に入札単価を維持することで「1枚ダメになったから、新しく買うか」と思ったタイミングで捕捉できる確率が高くなる。
「そのようにキャンペーン設計をしておいて、あとは運用しながらCPAを見て、入札単価を調整する。単純にリターゲティングで広告配信するのとは雲泥の差がつきます」
「運用重視だと手間が掛かって大変」を解消する機能
ただ、そこまで精度を上げて運用していくと、運用に掛かる工数を無視できなくなってくる。先の例でいくと30~40ものキャンペーンを作り、管理しなくてはならない。
Bypassはそうした運用に掛かる手間にも配慮し、キャンペーン管理の機能を改修。以前はキャンペーンと広告クリエイティブ群を直接紐付けていたが、キャンペーンの1階層下に広告グループを置けるようにした。より思い描いたとおりにキャンペーンを設計できるようになったわけだ。
広告運用のレポートが、キャンペーン/広告グループを複数選択して横断分析できるようになったのもうれしいポイント。適宜グループにまとめて運用実績をすぐ確認できるようになったことで、適切な施策を打ちやすくなった。
もう1つ忘れてはならないのは、先に触れた広告配信の自動最適化機能。「運用実績を見て、セグメントごとに入札単価を調整」と言うとものすごく手間が掛かりそうだが、実際は自動最適化機能に任せてしまえばいい。
Bypassの場合、自動最適化機能が効果を発揮し始めるのは、コンバージョン数が30件を越えるあたりから。そこまではセグメントごとに手動で調整していく必要があるが、そこから先の手間はほとんど掛からなくない。
初期作業の目安は3~4日、広告主はシナリオ設計に集中
ユーザーの置かれている状況ごとにコミュニケーションするシナリオを考えて――とは、かなり前から言われていたことではある。だが「どう実現するか」というところで、手助けになる有力なツールがなく、高度な運用体制を築けるかどうかは担当者の力量に大きく依存していたのではないだろうか。
「従来は、運用・管理がすごく大変だったんでしょう。それがDSPという共通のダッシュボードができて、複数の広告ネットワークへの配信を一元管理できるようになったことで、ものすごく運用作業が簡素化しました。『これだけ簡素化されたんだったら、もっとやれることはあるんじゃないか』と、今後はユーザーごとのシナリオをしっかりと考える企業が増えてくるのではないでしょうか」
なお、ここまでに取り上げてきたような運用をBypassで実現するには、既にPC向けのDSPなどで慣れている企業なら、初期の作業に掛かる作業期間の目安は3~4日程度。慣れてない企業でも、弊社DSP事業部のコンサルタントがサポートすることで広告主、広告代理店は前途説明したような、オーディエンスマネジメントとシナリオ設計に集中することができる。
顧客開拓が順調なBypassの課題は広告在庫の確保と新機能開発
同社DSP事業部の二戸有紀氏によると、Bypassを利用中の広告主数は約80社、キャンペーン広告数は約290件(2012年8月時点)となり、2012年4月のサービス開始以降増加するペースはますます勢いを増している。
「広告主様・代理店様はターゲティング機能を重視される傾向があるのですが、Bypassのターゲティング機能について説明すると『充実している』と評価いただけますね。競合のDSPと比較されることはほとんどなく、『この機能はBypassにしかないから』と導入いただけることが多くなっています」(二戸氏)
Bypassの今後については、「海外への進出を視野に入れているのと、機能面をさらに充実させていきたいと考えています」と岡部氏。
9~10月には複数のSSPとの連携が完了する見通しで、現状で30億ほどの広告在庫を、早期に100億まで持っていきたいと意欲的だ。
「あとは広告配信の最適化にかかわる機能と、オーディエンス・ターゲティングを意識した機能を急ピッチで開発中です。Bypassをご利用いただいている広告主が、もっと大きな規模でプロモーションを展開しつつも、手間を掛けずに最適化できるようにしていきたいです」(岡部氏)