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COLUMN

戦略の見直しが必要な時代に求められるWebアナリスト像
事業戦略からWeb解析業務に落とし込む5つのステップ


事業戦略からWeb解析業務に落とし込む5つのステップ(3~5)

3.チャネルごとに目的と指標(KPI)を設計

 オンラインチャネルごとにその目的や事業戦略上期待される役割が整理できたら、各チャネルの目的に合致した指標を考案する。書籍に書いてあるような一般的なコンバージョンレートなどの指標にこだわらず、何が一番目的の達成度を測ることができるかという観点で独自の指標を考案するとよい。一つの目的を達成するために必要な要素に分解して、その要素ごとの達成度合いを知るための指標を考える。

 例えば、町家ステイ事業の場合、滞在予約をコンバージョンイベント(目的行為)とすると、

  • a) 認知を獲得し、サイトへの集客のための広告が効果的である
  • b)町家ステイの疑似体験を描写した特集コンテンツが効果的である
  • c)予約の仕方やルールがわかりやく簡単である

 などの要素がそろっていなければ達成できない。どれも予約申込の完了を分子にしたコンバージョン指標を計算してよいが、

  • a)の広告が効果的かどうは、当該広告からの訪問数を分母にしたコンバージョンレートを他の広告コンバージョンレートと比較する
  • b)には効果を測定したい特集記事コンテンツの閲覧回数を分母にしたコンテンツ閲覧コンバージョンレートを当該記事を見なかった非閲覧コンバージョンレートと比較する
  • c)は予約プロセスの最初のページに到達した訪問数を分母にした予約プロセスコンバージョンレートを継続的にモニタリングする

 というように目的を分解し、それぞれの目的に対して評価指標を定義していく。

4.レポーティング体系を決める

 Webサイトやオンライン活動の状況を定量的に把握することは大切だが、Webアナリストだけでは企業が戦略的ポジションを築いたり、利益を向上させたりすることはできない。

 町家ステイ事業においては、広告やソーシャルメディア、メールマーケティングを担当している販売促進担当の部署に最小の費用で最大の認知獲得と集客に努めてもらわなければならないし、コンシェルジュ部門には華道、茶道、工芸品工房体験など町家やその近くで体験できるプログラムの素晴らしさをうまく伝えるコンテンツを作ってもらわなければならない。そのため、Webアナリストの仕事は単にデジタルデータを集めて分析するだけではなく、意思決定の精度を上げて、必要な施策がとられるようにあらゆる部署に情報、分析、アドバイスを提供し、組織としての行動を促すレポーティング体系を設計することが必要である。

 Webアナリストがこのような情報などの提供を他部署に伝えるレポーティングは、毎日・毎週など定期的に行う定期レポーティングと、ある特定の目的のためにプロジェクトやリサーチの一環としてスポットで依頼されるアドホックレポーティングがある。

 後者は毎回目的が異なるので必要なたびに何を報告に含めるかその都度、レポーティングの設計が必要となるが、一方、定期レポーティングは基本的には一定期間同じ形式をとることが多い。

 定期レポーティングの体系、つまり、誰(あるいはどの部署)に、どのような情報とメッセージを、どのような頻度で、どのような形式(印刷した会議資料、電子ファイルのメール添付、情報共有ソフトを使ったダッシュボードなど)で提供するかは、企業の行動に変化を与えるため、Webアナリストは間接的に非常に戦略的に重要な役割を担っていることになる。また、同じ指標を継続的に使うことで、レポートの受け取り側の人たちに定点観測で得られる変化に対する感覚や分析の切り口を身につけてもらう教育的効果も期待できる。Webアナリストは事業戦略実現のために何が必要かを考慮し、定期レポーティングの体系を構築する。

5.各々のKPIレポートの内容を設計する

 それぞれの定期レポートの目的と、誰にどのような情報・指標(KPI)を伝えるかなどの概要が決まったら、次は効果的なレポートのデザインを考える。

 同じ情報を伝えるにもその伝え方で受け取る人の対応は異なる。数字の羅列だけのレポートでは忙しい読み手に不親切だし、重要なポイントに気付かなかったら正しい意思決定も、改善活動も行われない。効果的なレポーティングとは読み手にとって状況を直感的に理解し、必要なアクションをとろうと思うような資料である。

 状況が良いか悪いかなど評価をする場合は基準が必要であり、時系列の表示、前年対比、商品別比較など相対的な比較をどう用いるかを検討しなければならない。また、円グラフにするか表にするかなど情報をどう表現するかも工夫が必要である。町家ステイ事業の場合、稼働率には季節性があり、桜と紅葉の季節は繁忙期であり、真冬や台風の季節は稼働率が落ちるため、前年同月値と比較した月別折れ線グラフが有効だ。

 すべてのデータや情報をレポートすることは不可能であり、結果的にWebアナリストが何をどう伝えるかを選択することになる。Webアナリストが事業戦略の本質を理解し、何を重要だと考えるかが企業内でとられるアクションに影響を与え、ひいては会社の業績に影響を与えることになる。

 Webアナリストの立場のかたは、以上1~5のステップで事業戦略に寄与するレポーティングを設計し、また事業責任者は自らの意思決定に役立つレポートとなっているかをしっかり確認しなければならない。なお、町家ステイ事業のケースに基づき5つのステップを演習形式で身につける研修を実施したいと考えている。ご興味があれば一般社団法人ウェブ解析士協会に問い合わせていただきたい。

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この記事の著者

手嶋 進(テシマススム)

エム・アイ・コンサルティンググループ株式会社 取締役

1988年慶応義塾大学法学部政治学科卒業後、アンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア)入社。1995年ロンドンビジネススクール経営学修士(MBA)。帰国後、ベンチャー企業(現ソニーグローバルソリューションズ)の執行役員として自社の事業開発を進め...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2012/11/27 20:36 https://markezine.jp/article/detail/16762

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