日本の音声市場の現在地は?若年層の成熟と上の世代の「伸びしろ」
MarkeZine編集部(以下、MZ):視覚情報があふれる昨今、生活者に効果的に訴求する手段として音声コンテンツへの注目が高まっています。はじめに、日本市場の潮流についてお聞かせください。
エリソン:日本市場は、「時間はかかったが、勢いは来ている」という実感があります。Spotifyは、グローバルで音楽業界が海賊版に苦しめられていた時代に、創業者のダニエル・エクが「このままではアーティストが生活できない」という危機感から、音楽業界に還元できる合法で便利なサービスとして作ったものです。事業として利益を出すだけでなく、音楽業界全体に還元する精神が根幹にあり、同時にマーケターのソリューションとしても活用可能なプラットフォームなのです。
この観点で見ると、日本は他の国ほど海賊版が横行しなかったため、オンラインで音楽を聞く生活習慣の定着が比較的遅い地域といえます。加えてCDが継続的に支持されてきた影響もありますね。そのため、音声配信の市場成長には時間を要しましたが、ようやく若年層を中心にグローバル水準に近づいてきました。
トニー・エリソン(Tony Elison)氏
2021年2月にスポティファイジャパンの代表取締役に就任し、日本における戦略策定や事業運営を統括する。これまでMTV、任天堂(米国)、Google/YouTube、ウォルト・ディズニー・ジャパンなど、コンテンツ/テクノロジー業界のグローバルブランドにおいて、日本、米国、アジア太平洋地域で30年以上にわたりビジネスを推進。
エリソン:一方で、これからのチャレンジ領域は、まだオンラインで曲を聴く必然性がないと考えCDに慣れている30代~50代です。この世代の音声配信利用は、やはりグローバル水準に比べて利用率が下がります。Spotifyとしてもこの層を開拓することで、国内でマスプラットフォームに成長できると考えています。
MZ:日本の30代以上は開拓の余地がまだまだあると見られているのですね。
エリソン:はい。十分伸びしろがあると見ており、音楽から離れている人にも「Spotifyがあれば人生が豊かになります」と働きかける取り組みを続けています。
もう一つ、日本ならではの特徴として、国内楽曲を聴く傾向が強い点も挙げられます。グローバルでは色々な国の楽曲が聴かれる傾向がありますが、日本は国内の楽曲が圧倒的です。
いつ何が流行るのかわからない。世代を超えた音楽体験
MZ:既にサービスが浸透しているZ世代ユーザーについては、特徴的な傾向などありますか。
エリソン:世代間で聴いているジャンルや頻度、時間帯が違うのはもちろんですが、個人的に興味深いのは、違いよりも世代間の共通点やつながりです。Spotifyでは世界中の音楽が一つのプラットフォームに集まっているため、出会いさえあれば誰もがどんな曲でも、ファンになれるのです。「出会いから聴く、聴いてファンになる」の一連が、Spotifyのユーザージャーニーです。
たとえば、「ヒップホップを聴いている層」に50歳の男性のイメージは浮かびづらいと思いますが、意外と聴かれています。息子が好きな音楽をこっそりSpotifyで自分も聴いてみたらハマり、「最近のこの曲良いよね」といった親子間の会話にもつながる。まさにこういった発見とつながりが生まれています。
グローバルでも、若年層から始まるトレンドが30代以上の世代に広がっていますし、その逆もあります。今やどの曲も新旧の差がなく、いつ何が流行るのかわからない世界観です。日本でも、昔の歌謡曲や演歌が再びスポットライトを浴びる現象が見られています。
MZ:フィジカルのCDでは買わなかったようなジャンルや曲に出会い、好きになる現象が起きやすいプラットフォームなのですね。
