企業がWebサイトやオンラインマーケティングに投資する意味
企業がWebサイトやオンラインマーケティングに投資するのは、多くの場合それらの活動によって事業戦略を実現し、利益を上げるためである。
非営利団体の場合でもその団体の運営方針に沿って活動目的を実現する手段として使われるが、本稿では営利を目的とする企業を前提に話を進める。Webサイトの分析担当者(以下、Webアナリスト)が自社の事業戦略を十分理解したうえで、その実現に向けた活動を行うことが必要であり、その重要性はここ数年でより高まっていると思われる。
eコマースのようなインターネット中心の業態だけでなく、一般的な製造業やサービス業の企業においてもネットの影響や依存度は増加の傾向にある。にもかかわらず、Webアナリストの仕事の重要性を企業経営者は十分理解しているとは言い難い。また、Webアナリストのほうも戦略的な意思決定にかかわる情報を扱っているにもかかわらず、経営層や他部署にその重要性を十分に伝えきれていないことが多い。
そこで、WebアナリストがWebサイトやオンライン活動の分析結果を必要な部署に伝えるレポーティング業務を通じてどのように事業戦略の実行に貢献するかについて述べたい。企業の事業部長や企画部、新規事業責任者が何をWebアナリストに依頼すべきかのヒントにもなると思う。
Webアナリストがなぜ今、事業戦略か
まず事業戦略について話す前に、本稿で使用する「Webアナリスト」という用語について定義しておきたい。
ここでは、Webアナリスト、オンラインアナリスト、ウェブ解析士など肩書きや名称が何であれ、PCやモバイルのユーザーの行動をWebサイト、メール、広告、ソーシャルメディアなどデジタルで把握できるデータを分析し、社内のしかるべき人たち(場合によっては協力会社を含む)に行動を促したり、意思決定を支援するための情報を提供する社内コンサルタントのような人を総称して「Webアナリスト」と呼ぶことにする。
Webアナリストは、これまでも企業の一員として事業戦略の実現に貢献してきたが、ここ数年間においては特に、事業を戦略レベルで理解し、実行することがより重要になってきた。おそらく大きな要因のひとつとして上げられるのが、少子高齢化や労働人口の減少といった人口動態の変化からくる戦略の見直しである。
人口の年齢構成は市場の質の変化を伴う。2011年の日本の老齢人口比率(総人口に占める65歳以上の人口の割合)は23%であり、この数字は早いスピードで上昇している。
高齢化は多くの先進国がかかえる共通の課題ではあるが老齢人口比率が7%から14%に倍増した年数(倍加年数)でみると日本は1970年から約24年であり、ドイツで40年、イタリアで61年、フランスで115年であることを考えると日本がいかに早いスピードで老齢化が進んでいるかがわかる【注1】 。
総務省統計局ホームページの統計データ 「I. 高齢者の人口」より。海外との倍加年数の情報は
高齢化と対比して、生産年齢人口(5歳以上65歳未満の人口)は1996年から減少し始め、少ない人数でいかに効率的、効果的な生産活動をするかも重要なテーマとなってくる。総人口は2009年にはじめて前年比で減少に転じた。2011年の総人口は前年より26万人減ったが、これが多くの業界において需要の縮小となるため、景気変動要因だけでなく、長期的なトレンドとして国内市場に依存する増加基調の計画はたてづらくなり、日本企業は過去に経験したことの無い類の戦略の見直し局面を迎えている【注2】。
日本銀行「日本の人口動態と中期的な成長力」を参考。
さらに、日本における経済成長の低迷と近隣アジア諸国における急速な経済成長という事業環境を考慮すると大企業だけでなく、中小企業までもが新興国、特にアジアの需要拡大に乗った活動を目指すようになっている。
特に中堅・中小企業は海外への多額の直接投資や、各国に拠点を設けて日本人を滞在させることができないため、海外へのマーケティング手段としてンターネットの活用がこれまで以上に重要になってくる。
さらに、中国・インドの経済的、政治的、軍事的な影響力の増大、中東・アフリカでの政情不安、ヨーロッパの金融不安など、日本企業をとりまく事業環境は大きく変化しているため、過去に作成した中長期計画を将来に引き伸ばしただけの事業戦略では通用しなくなり、ここ数年で多くの日本企業で戦略の再策定を行っている。
このような背景において、Webアナリストにとっても過去の延長ではなく、新しい事業戦略にもとづいた業務設計をしなければならない状況になっている。