プロジェクト体制
プロジェクト体制は、事業所属の集客担当者(マーケター)と、データを理解しハンドリングするエンジニア、整形されたデータを用いて分析を行うアナリストの三者で連携を取りながら進めました。
これら三者が毎週顔を合わせ、連携を取りながらプロジェクトを進めました。実は、この「三位一体」の体制が非常に重要です。例えば、一見関係性が遠いと思われるエンジニアとマーケターの連携も必要です。その理由は、エンジニアはスムーズで精度の高いデータ処理を進めるため、プロジェクト全体の背景と課題、また自身が処理するデータの「マーケティング上の」意味を、きちんと理解しておかなければなりません。
図にあるように、三者の「プロフェッショナル」が課題を共有し、前向きに取り組むことで、困難な中にあっても、プロジェクトはスムーズに進んでいきます。私も今まで、多くの分析プロジェクトをマネージしてきましたが、音楽でいうところの「グルーヴ」を感じられるプロジェクトは、たいてい成功するものです。
プロジェクトのプロセス
プロジェクトの流れに沿ってそれぞれのプロセスについて説明します。
1.マーケティング上の課題抽出とゴール設定
マーケターが抱えているマーケティング上の課題を、その背景とともに明らかにします。今回のケースでは「施策別のコスト配分を見直すことによって、将来の広告宣伝費の効率化を図りたい」という課題を設定しました。
2.分析のスコープとゴール設定
このフェーズで「何に対してどんな答えを出すか」を明確に定義します。挙げられた課題のすべてに対して、一回の分析プロジェクトで答えを出すことは到底できません。今回のケースでは「各広告施策の投資対効果を今まで以上に精緻に把握し、また将来の予測を行えるような統計モデルを構築すること」となりました。
3.分析設計・アウトプットの決定
2で定めたゴールを達成するためのプランを立てます。「どのようなデータを用いるか」「分析手法は何を用いるか」「どのような流れで分析を進めるか」「誰が何をいつ行うか」「工数がどれくらいかかるか」などを、アナリストが中心になって設計していきます。
また同時に、実務接続のためのアウトプットを明確にします。マーケターが実務で活用するイメージを膨らませ、そのイメージをアナリストやエンジニアに伝え、それをもとに、アウトプットを設計します。このケースでのアウトプットは以下の2つでした。
- A.施策ごとに「いくら投資したらどれだけのCV(コンバージョン/サービス申込・商品購入など、最終的な成果)が見込めるか」の関係性を示した数表・グラフ
- B.将来の投資シナリオをインプットするとCVが予測できる(=シミュレーション)、あるいは最適な投資パターンを機械的に探索すること(=配分最適化)ができるExcelベースの予測ツール



データ分析系のプロジェクトは油断をすると「分析のための分析」に終わってしまいがちなのですが、このプロセスをしっかり行い、最終的なアウトプットを三者で握っておくことで「分析のための分析」にならないようにします。
4.マーケターが持つ仮説の抽出
課題に対してマーケターが現時点でどのような仮説を持っているかを明示し、三者で共有します。図示をすると分かりやすくなります。

このケースでは「集客施策別に広告宣伝費を投資するとその施策ごとに流入が獲得でき、そのうちの一部がCVとなる」という、広告宣伝費とCVの関係において、【CPC、CPAだけで投資判断をすべきではない】で挙げたような疑問がありました。ですが、実際にはまったく検証ができていない状態でした。
5.データ収集
分析に必要なデータを集めます。このケースでは集客施策別の広告宣伝費、流入数、CV数、外部指標(景況データなど)、サイト上のコンテンツに関わるデータを、数年分にわたって収集しました。
ここでは皆で想像力を働かせ、課題に関連しそうなデータをできるだけ多く洗い出し、手間を惜しまずに集めておきます。取捨選択はあとで行えばいいのです。
6.分析作業
マーケターが提示した仮説をもとに、アナリストが1回目のモデリングを行います。統計的に妥当そうなモデルをいくつか示し、その結果を元に事業担当者と議論します。
統計的に妥当そうであっても実務のビジネスロジックには添わない、ということは日常的に起きるものです。アナリストが提示したモデルに対してマーケターからのフィードバックを受け、さらにモデリングを行います。「モデル提示→事業観点のフィードバック→モデル修正→フィードバック→モデル修正…」というプロセスを時間の許す限り繰り返し、モデルを磨いていきます。
ちなみに前述した「ビッグデータのメリット」をもっとも享受できたのがこの工程です。このケースで用いた手法は非常に先端的なもので、従来はスーパーコンピューターでしか実施できなかったものです。それが、テクノロジーの進化によって一般的なコンピュータ上でも行えるようになりました。
7.実務接続・成果確認
モデルが確定した後は、いよいよ最終アウトプットが作成されマーケターの手に渡ります。ここから実務での活用が始まります。
とはいえ、アウトプットを納品してプロジェクトが終わるわけではありません。今回のケースでは、エンジニアはシミュレーションツールのインストールや使い方のサポートなどをマーケターに行いました。またマーケターとアナリストは、どのようにツールを活用すればより成果が上がるのかを議論し、事業接続の価値を高めていきました。
今回のケースでは、誤差数%の範囲で数か月先のCVを予測できるようになりました。また、そのブレ幅も予測できるようになり、投資リスクの低減にもつながりました。さらに、作成した予測ツールを活用することにより従来と比較して年間数千万以上の広告宣伝費の削減が達成できました。
最後に
今回は、ビッグデータを活用した将来予測について、リクルートグループでの事例を中心に紹介させていただきました。
マーケティング業界での「将来予測」の活用は、他分野と比べてまだまだ遅れています。私たちは今後も各事業と協働しながら、マーケティングにおける未来予測を、それこそ「予測できない」勢いで推進し、牽引していきたいと考えています。最後までお読みいただきありがとうございました。