大企業病に陥ってはいけない
「急激なニーズに対応するためには開発スピードが求められると思うのですが。安田さんは大企業に長い間いらっしゃってベンチャー企業へうつられた。違いは感じます?」と中澤氏が問いかけると安田氏は「スピード感と意識が全然違いますね」とギャップを語った。
「前職も数字に厳しい会社でしたが、やはり組織が大きくなると、なんというか少し責任の所在が曖昧になってしまうというか。クックパッドは、前職に比べ個人の裁量が大きい。仕事ができなかったら交代みたいな発言も普通にでてくるので、すごい新鮮ですね(笑)。その分、自分も含めみんな必死です」(安田氏)
その意見に一同うなずく中、奥谷氏が続く。「その話、なんとなく共感できます。今、私には40人近くの部下がいるんですが、シェフになりたいか、ウェイター・ウェイトレスになりたいかとよく問いかけます。組織の中で仕事をしていると、突然上司から予想もしない要求がおりてくることがよくありますよね。しかも役職があがればあがるほど、すごい変化球を投げられることが多くなる(笑)。その時の要求に応じて、好みの代替案を出せるかどうかが勝負です。自分は寿司職人。お寿司しか作れないけど、フォアグラを要求されたらそれに近しい料理で対応するしかない、みたいな感じです(笑)」
「うちも規模が拡大しているので、これまでとは違ったマネジメントが求められていますね。スタッフ数はアルバイトさんも含めると1,000人ぐらいになっていますので、情報の可視化・共有、または立場を超えたチームとしての意識醸成など、一体感のある仕組みが必要になっていると感じます」(清水)
高い目標をクリアするには発明に近いアイデアが必要
新しい手段・方法が登場しても、結局マーケティングに使える予算には限りがある。その状況の中で責任者たちはベストな選択を求められるわけだが、どのような基準・バランスで判断しているのだろうか。筆者が質問したところ、それぞれ次のように答えてくれた。
「結局、全ての広告媒体のROIを厳密に計算することは難しいですし、止めたときに売上が下がるかもしれないというプレッシャーがあり、大胆な判断はなかなかしにくいと思います。広告に期待する役割にもよりますが、認知度を高めるために、例えば新商品、新サービスで知名度が無い場合には、そもそも知られていないので、広告は今でも有効な手段だと思います。一番良くないのは広告効果に疑問を持ちつつも、色々なプレッシャーから漫然と続けてしまうことだと思います」(清水氏)
「うちの場合は競合の広告出稿量が膨大なので、広告の出稿を止めると全部競合に流れてしまうんではないかという不安があります。そのあたりの判断はいつも難しいと思っています」(西井氏)
「私が着任した当時、アフィリエイトの予算を1/10程度にしたことがありましたが、結局売上は下がりませんでした。そういう事実もしっかりと受け止めて、とにかく数字と向き合うこと。それしかないですね」(奥谷氏)
「ポートフォリオの最適化はマーケターにとって、永遠のテーマ。狙ったとおりになることなんてほとんどありません。これからはサプライヤー側に回るので、みなさんに怒られないよう頑張りたいと思っています!」(中澤)
「ネット系のビジネスに関わってると高い予算が設定されることが多いと思います。その目標を毎年超えるためには発明に近いアイデアを出し、実行しないとダメなんじゃないかなと思う時があります。とはいえ、優れたアイデアが簡単に思いつくわけないので、まず失敗を恐れずになるべく多くのチャレンジを実行することが大切です。そうした経験を積み重ねていくと、次第に成功確率の高い領域を選べる力も備わっていくのではと考えています。答えになってますか?(笑)」(安田)
めまぐるしく環境が変化する中で、マーケティングの最適解を導きだすのは至難の技だ。「今回はよかったが次は上手くいかなかった、そんなことの繰り返し。目標を達成するには常にチャレンジしていくしかない」(一同)が共通意見。結局、チャレンジを続け、試行錯誤を繰り返していくことが唯一の方法なのだろう。そんなことを学んだ夜だった。
