9月2日からスタートする「NHKハイブリッドキャスト」
NHKは、インターネットを使った新サービス「NHK Hybridcast(ハイブリッドキャスト)」を9月2日午前11時に開始する。サービス開始に先駆けて、8月21日に報道関係者向けに説明会が行われた。
ハイブリッドキャストは、放送の電波で送られてくる番組とインターネット経由で提供する情報を組み合わせた高度な放送通信連携サービス。対応受信機には、放送連携機能の拡張を行ったHTML5ブラウザが搭載され、従来のデータ放送より豊富な情報を高い表現力で提供することができる。また、タブレットなどの携帯端末と連携したマルチスクリーンでのサービスや携帯端末操作による視聴者参加型の番組演出など、これまでにないサービスを提供することが可能となる。
第一段階として、NHK総合のハイブリッドキャストのホーム画面を提供。ここから、テレビの放送画面に、最新のニュースや気象情報、スポーツ情報、為替情報などを表示することができる。一見すると従来のデータ放送と似ているが、データ放送が画面全体を占有して情報を提供するのに対して、ハイブリッドキャストはオーバーレイ方式で、半透明のレイヤーが画面の一部を覆うかたちになる。この情報表示エリアはリモコンによって非表示にしたり、拡大/縮小が可能だ。
データ放送は電波の帯域に制限があるため、大きなデータを大量に表示することはできない。一方、ハイブリッドキャストはインターネット経由でデータをやりとりするため、コンテンツのデータ量が制限されることがない。このため、よりリッチなコンテンツを提供することができる。
また情報の記述言語としてHTML5を採用。上の画面に見られる微妙なむらさき色はこれまでのデータ放送では再現できなかった色だという。天気予報でおなじみの太陽や雲などのアニメーションの表現力も向上するなど、ハイブリッドキャストではデータ放送では不可能だった表現が可能になる。これによって独自コンテンツも可能になった。そのひとつ「旬美暦」は、日替わりで高精細の美しい写真とともに季節を感じさせる文章や音などを届けるもの。「番組とは切り離したいつでも見れるコンテンツ、毎日見たくなるコンテンツをつくりたい」と、NHKは意欲的だ。
発表時点でのハイブリッドキャスト対応テレビは、東芝のレグザZ8X/Z7/J7シリーズのみ。2003年に地上デジタル放送が始まって10年たつことから、買い替え需要なども見込めるとして、これから徐々にハイブリッドキャストを利用できる受信機は増えるとNHKは見ている。また、テレビのインターネット接続率から考えても、ハイブリッドキャストの提供によって、従来のデータ放送が打ち切られることはないとしている。
過去30日間の番組表が利用できる
ハイブリッドキャストにはもうひとつ興味深い機能がある。それは、過去30日間の番組表が利用できること。現在、デジタル放送が受信できるテレビで使われている電子番組表(EPG:Electronic Program Guide)は、8日先の情報しか見ることができない。しかし、ハイブリッドキャストでは過去30日間の番組表も見ることができる。
サービス開始当初は、NHKの情報サイト「NHKオンライン」で提供している番組情報が表示され、再放送の予定をチェックすることも可能だ。将来的には、ここにNHKオンデマンドのリンクなども入れることも検討しているという。
ネットでテレビ番組について言及する際、すでに放送が終わっている場合も多いが、過去の番組表はそうしたクチコミの起点にもなる。そのほかにも、テレビの情報を幅広く楽しむためにさまざまな活用が期待できる。
ハイブリッドキャストが可能にする世界
ハイブリッドキャストが採用したHTML5は、パソコン用ブラウザをはじめ、テレビやカーナビなどでも使えるW3Cの標準規格。NHKはこれをもとに、「IPTVフォーラム」の中でハイブリッドキャストの技術仕様をまとめていった。W3Cではインターネットについての議論が中心であることから、放送に必要な要素の検討については国内の放送事業者に意見を聞きながら進めているという。欧米でも、テレビと通信を連携させる試みはあるが、HTML5との連携は日本ほど進んでいない。NHKでは今後、海外と連携しながら機能拡張したいとしている。
ハイブリッドキャストは単なる「表現力が向上したデータ放送」にとどまらず、テレビとスマートデバイスを連携させた新たなサービスの可能性を秘めている。説明会の最後では、ハイブリッドキャストが3年後にどのような世界を実現するのかを描いたイメージ動画が披露された。そこでは、スマートフォンやタブレットから専用アプリを利用してテレビを操作したり、テレビのコンテンツをスマートデバイスと連携させることによって、視聴者の生活により密着したテレビの楽しみ方が描かれていた。
たとえば、スタジオ収録された番組の背景を、ボタンひとつで自分の好きなデザインにカスタマイズする。タブレット上で動作するクッキングアプリを使ってレシピをタブレットに表示し、足りない材料を売っているお店を探して注文する。学習番組の双方向機能もこれまで以上に多彩になり、番組ライブラリから視聴者のレベルにあったおすすめの番組が紹介される。さらに興味深いのは、CMで気になった商品をチェックして購入するシーンが描かれていたこと。これについては、NHKが将来ECを始めるという意味ではなく、民放が参入した場合にはこのような活用も可能だという補足がなされた。
ハイブリッドキャストはNHKだけにとどまらず、ネットとの融合を模索するテレビ局各社が採用することで、さらに広がり、進化していくことになりそうだ。
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