ふたりが出会ったきっかけは
―おふたりは、同じサイバーエージェントグループに所属しています。ときには情報交換をすることもあるのでしょうか。
谷井:最初は、私から矢口さんに連絡を取ったのがきっかけです。それまで携帯ゲームの開発でレベル設計やロジックを自分で決めていましたが、レベルデザインの考え方は自己流。カードゲームが主流になっていき、果たしてこの設計で良いのかと思ったときに相談できる相手が社内にいなかった。その頃、市場では『神撃のバハムート』が圧倒的にインパクトを与えていて、Cygamesのあるスゴい人がパラメータ設計を行っているという噂を社内で聞きつけたのです(笑)。そして、自分が設計した内容について意見を頂けないかと思い連絡しました。

矢口:連絡を受けて「じゃお会いしようかな」と(笑)。基本的にそういう話は断りません。いろいろお話してみて、少しでも仕事に有意義につながればと思いました。
谷井: 私の場合はゲーム開発の経験を経て、レベルデザインをする立場になって四苦八苦していたのに、矢口さんがいきなり作ったのが『神撃のバハムート』。初めてレベルデザインを担当したゲームがバハムートってすごいですよね(笑)。

美しいビジュアルのカードRPG。友達と協力して騎士団を結成して最強を目指す。
2011年9月にサービスを開始し、2012年12月に全世界で登録者数が1000万人を突破した。
矢口:そもそも、バハムート自体がCygamesの初作品。自分がゲーム業界に入ったのはCygamesの取締役だった友人に声をかけられたことがきっかけですから結果的にそうなりました。
―レベルデザインは素人がいきなりできる仕事ではないように思うのですが。大学でなにか研究をされていたのでしょうか。
矢口:大学はゲームとは全然関係のない物理を、大学院では生物を専攻しました。もともと理系なので数字に抵抗はないですし、なによりゲームが好き。バハムートを作るにあたっては、ほかのゲームを知るために実際にプレイして分析しました。カードデータを見ながら分析して、これはどういう意図で作ってるんだろうとか、どうなってるんだろうっていうのを考えながら、じゃあこれを自社のゲームにどうやって当てはめていこうかと。

―仕事としてゲームをやるときに注意している点はありますか?
谷井:ゲームをやって、ただ「面白かった」ではなく、開発者がどういう意図でこの数値を決めているのか、なぜこのタイミングでこのイベントが起きるのかを考えながらやらなければいけない。おそらく矢口さんはそういう目線でずっとゲームをやっていたんだと思うんです。
矢口:まずは自分が楽しんでから、その後に自分が何で楽しかったんだろうって考える。そもそもパラメータというか、レベルデザインっていうのは、ユーザーに何をさせたいかという、その目的を示しているところがあると思っているんです。それが楽しさにつながってくる。
ちょっとしたタイミングで変わってしまう「ゲームの楽しさ」
―ひとことで「楽しさ」といっても、それを数値で設計していく作業と、プレイ中のワクワク感とはかなり距離があると思うのですが。
矢口:一般的なRPGとかでよく言われることなのですが、敵と出会う確率ってあるじゃないですか。たとえばドラクエなんかはそれが絶妙だと言われてますけど、エンカウント率(敵に会うタイミング等)がちょっとずれただけでバランスが崩壊すると言われているくらい微妙なものなんです。敵に会うタイミングが多少ずれるだけで、ゲームの楽しさが変わってくる。

会わなすぎてもつまらないし、会いすぎてもつまらない。適度な遭遇率。そういうのが楽しさに関わってきます。自分がデバックしたときに、「これちょっと敵に会い過ぎでツライよね」とか、そういう感覚的なところを基準にしながら作業をしていきます。
―よく言われる「クソゲー」というのは、そのゲームバランスが最悪だということなのでしょうか。
矢口:ちょっとした数値の差でそうなってしまうのです。敵に会いすぎるゲーム(エンカウントしすぎるゲーム)もそれなりに批判を受けるだろうし、会わなすぎると今度はレベルが上がらなかったりして、ボスのバランスが変わってくる。エンカウント率とボスとのバランスって結構重要だなと思っています。
―バハムートのときには、実際にゲームをプレイしながらカード1枚1枚分析したのですか?
矢口:そうです。まず、自分がプレイして仕様を知る。有名なゲームの場合はWikipediaなどを見ればパラメータが載ってますし。もちろんカードデータとゲームの仕組み、仕様によってまた価値が全然変わってくるので、それを踏まえながらの作業になります。