変わらざるを得ない総合広告代理店の業態
横山:過去100年くらいの歴史の中で、総合広告代理店の当初の仕事はスペースブローカーでした。新聞の枠を売る権利を持っていて、それを売り歩いていたということです。その新聞の枠を売るために、三行程度の広告文を書くところからコピーライティングが始まりました。
そして売る広告の枠がテレビになると、テレビCMを作るクリエイティブ制作、テレビCMを作るための調査を行う部署など、枠を売るために周辺のソフトサービスが展開されていき、その結果として今の総合広告代理店の形ができました。
マスメディアの広告枠を売るための構造に、企業の仕組みがなってしまっているのです。「枠から人へ」という観点から言うと、このような総合広告代理店の業態は、変わらざるを得ないでしょう。
菅原:マスメディアの枠を売ることを最適化の基準として、組織が成立しているんですね。
横山:ですので、そもそも広告主の新しいニーズに対応できるか否かは、企業の仕組みという点からも難しいところがあります。
菅原:これまでとても素晴らしい広告を生みだしてきた人たちがいる一方で、ビジネスの源泉はメディアの買い付けにある、これはある意味、不思議なことですよね。本来であれば、今まで以上にデータをもとに仮説を立て、広告のクリエイティブを作り、また広告だけでなくコンテンツも一緒に生みだしたり……その部分を商売にすればいいと思うのですが。
横山:既存の企業の業態や規模を維持しようとするから、難しくなるのでしょう。「メディアの枠を売る」という、これまで築いてきたビジネスモデルを否定することができずに、それを守りながら世の中の流れに対応しようとするので、自己矛盾を起こしてしまうのでしょう。