コカ・コーラがもらえる年賀状企画に申し込み殺到
友澤:思い出の年代の音楽を楽しめるキャンペーン「Share a Coke and a Song」や、当社も参加させていただいた「コカ・コーラ ハッピーギフトカード年賀状」など、日本コカ・コーラさんは昨年も前例がない企画で話題を巻き起こしていました。今回は、そうした企画の根底にある考えをうかがえればと思います。
足立:よろしくお願いします。ヤフーさんには、新しい施策をいち早く試したいという当社の意向をいつも汲(く)んでもらっています。
MarkeZine編集部(以下、MZ):「コカ・コーラ ハッピーギフトカード年賀状」は、用意した2万枚があっという間になくなったそうですね。
足立:ええ、特設サイト「Yahoo! JAPAN年賀状」上で受け付けを開始して、10時間ほどで2万枚がなくなりました。当社とヤフー、日本郵便とのコラボレーションで、ICチップ付きの年賀状を受け取った相手がキャッシュレスの自動販売機でコカ・コーラをもらうことができる、という企画でした。
友澤:これは、コカ・コーラの2013年ウィンターキャンペーンの一環だったんですよね。
足立:そうですね。昨年は「ハッピーをあげよう。」をテーマに、広告やソーシャルメディア、キャンペーンなどを通して冬の楽しいひとときを盛り上げていきました。「ハッピーをあげよう。」というコンセプトのもと、国民的行事である年賀状の企画は非常に大きなバズを生みました。オンライン(Yahoo! JAPAN年賀状)で申し込み、受け取った相手は自販機に行くという、新しいOtoOが実現できたかなと、手応えを感じています。
日本初「影広告」で期待感を高め、最大限のリーチを獲得
MZ:サンタクロースやポーラーベアをキービジュアルに、マス広告や交通広告も多く出される一方、Yahoo! JAPANではトップページ上で「影広告」が展開されました。これも話題になりましたが、具体的にどんな企画だったのですか?
友澤:トップページのセンターバナーの上下に、クリスマスツリーやキャラバントラックの影をはみ出させて関心を引き、キャンペーンページへと誘導しました。これはYahoo! JAPANとしても史上初となる広告で、12月に展開した広告ではCTRが最高値となり、SNS上でも大量に拡散されました。
こうした新しいフォーマットの広告は、特にテクノロジーの面では十分にテストをしてもリスクはあるので、躊躇(ちゅうちょ)する企業も多いんです。そのなかで、例えば今回の影広告を採用する決め手は何だったのでしょうか?
足立:ユーザーが見たことのない影付きでトラックが走る様子は、期待感を高める効果が十分にあると考えました。日本初、というのも大きかったですね。
この施策の目的は、「ハッピーをあげよう。」というコンセプトの認知拡大の中でも特に、ウェブ動画の再生を促すことと、全国津々浦々走っていたキャラバントラックをデジタル上で動かすことでした。毎年恒例のキャラバントラックは「ハッピーを届ける」ということで、実際にトラックを発見できる人が限られるので、Yahoo! JAPANのようなたくさんの人の目に触れる場で最大限のリーチを図りたいと考えました。
コンテンツと広告が融合する着地点を探る
MZ:影広告は、技術的にはもちろんですが、どこまでを広告とするのかといったYahoo! JAPANとしての議論もありそうですね。
友澤:その点は、トップページを担当するチームと営業担当とで相当に話し合いました。やはり、ユーザーあってのメディアなので、広告として凝りすぎてうるさく感じられるのは避けないといけませんし。
足立:保守的なメディアが多いなかで、あれは特に思い切った取り組みでしたよね。企画が斬新だから、われわれのブランドチームも「おもしろい、ぜひ」と共感できる。でも、社内でいろいろと調整いただいているんだろうと思っていますよ。
友澤:確かに、コンテンツサイドと広告のクリエイティブとのせめぎ合いで、どこに着地点を持ってくるかという調整には気を配りましたね。でも、そういう議論があるからコンテンツと広告が最適な形で融合し、結果的におもしろいと思われたりクリックされたりして、広告としての完遂率が高くなる。今後のリッチアドは、こうあるべきだと思っています。
僕らは新しい広告フォーマットを自社で試すこともできますが、やはり企業と組んで世の中の反響も含めて事例をつくっていきたい気持ちがあるので、積極的に取り組んでいただけてありがたいです。
チャレンジを後押しするコカ・コーラの“70・20・10”
友澤:僕らは媒体側でありながら、広告主でもあるので、僕ですら前例がない施策は社内の説得が難しいと感じることがあるんです。その点、日本においてもグローバルで見ても、コカ・コーラは話題性があってチャレンジングな施策を次々と実施しています。そうした予測のつかないものに対する予算を取るのは、難しくないのでしょうか?
足立:コカ・コーラには、予算配分に関して“70・20・10”という考え方があります。7割はしっかり機能するもの、2割はほぼ有効だと分かっているもの、そして残りの1割は新しい挑戦に使っていい、というものです。
友澤:そうなんですか。その1割があるから、今回のような施策も決断しやすいのですね。
足立:ええ。特に最近は、これをほぼデジタル領域の取り組みに投じています。そうしないと、スマートフォンやタブレットなどのデバイスの進化や、O2O などの手法の進化についていけません。新しいコミュニケーションのインフラやメディアもどんどん出てきますし、購買チャネルやECのプレーヤーも変わっています。変化のスピードが速いこの領域についていき、またリードするには、やはり外から眺めるだけではなく、自分たちで試していく必要があると思っています。
ファンからブランドストーリーが伝わり、次のファンを生む
友澤:御社の企画は単なる商品キャンペーンで終わらず、必ず強いブランドエンゲージメントが築かれているのが印象的です。現在のブランド戦略について、お考えをうかがえますか?
足立:今、当社では「IMC(Integrated Marketing Communication)3.0」というコンセプトのもと、コミュニケーションでは、日常生活においてよく接触するソーシャルとスマートフォンを軸に、彼らの会話の中に入っていくことを重視しています。オウンドメディアとペイドメディアの時代を1.0とすると、アーンドメディアが加わったトリプルメディア戦略の時代は2.0。そこに、「IMC3.0」のもと、自社のさまざまなコミュニケーション資産を活用し、あらゆる生活者接点においてリアルで共感できるブランド体験を提供して、友人同士でシェアしてもらうことを意識しています。
順番としては、O(Owned)・E(Earned)・S(Shared)・P(Paid)の順に考えます。まずは自社メディア、われわれの場合はパッケージや自販機も含みますが、そこからブランド価値を発信していく。それがSNSなどで拡散し、さまざまなチャネルで実際に触れて、世の中に伝わっていく。最後に、コミュニケーションの規模感に合わせて広告メディアを検討します。
友澤:なるほど。各メディアの特徴をそれぞれ生かすだけでなく、流れで考えるのですね。
足立:そうですね。「ストーリーがどう拡散するか」が大事です。ストーリーが広がる過程で、ファンからブランド価値が発信され、ファンが増えていきます。そんな“Fan makes Fan”を起こしたい。われわれが一方的に発信する価値ではなく、ファンから伝わる価値こそ重要だと思っています。
ユーザー動向が統合できると深いインサイトが得られる
友澤:では、「IMC3.0」を進めるにあたって、今年注目しているキーワードや、当社に期待することなどうかがえますか?
足立:御社も発表されていましたが、プレミアムDSPやプライベートDMPなどのビッグデータ活用の重要性が、ますます高まると思っています。例えばYahoo! JAPANには、日本人のオンライン動向のデータが相当に蓄積されていると思いますが、そのデータが広告主やサービスサプライヤーなどの広告主にまで開放されると、できることがぐっと広がるのではないでしょうか。今、当社のポータルサイト「コカ・コーラ パーク」には会員が1280万人くらいいるので、外部データとID連携ができたりすると一気に可能性が開けそうです。
友澤:それは広がりがありそうですね。データ活用というと、日本人はプライバシーの面で過剰に反応する部分がありますが、あくまでユーザーの気持ちを重視したうえでのハッピーなつながり方を、僕らも探っていきたいと思います。
足立:現状のDMPでは、パソコンとスマートフォンのユーザーをばらばらで把握している部分がありますが、それを統合して理解するだけでも、より深くユーザーインサイトを把握できるでしょう。また、オンラインとオフラインを統合できるとさらにいいですね。この夏にはコカ・コーラ パークの大幅なリニューアルも予定しているので、データ関係の最新の技術を取り入れながら、会員に対するブランドエンゲージメントを高めていきたいですね。