VASTがもたらす動画広告評価の潤沢な情報
前述のとおり、VASTは動画広告の再生数やクリック数に関するデータの扱い方まで定めている。つまり、広告主が広告効果を計測するために必要な動画広告の再生数・クリック数の追跡ができるわけだ。具体的には、次のようなデータを収集できる。
●動画広告のインプレッション数
●動画広告の再生数
●動画広告が中間点まで再生された回数
●動画広告が最後まで再生された回数
●動画広告が一時停止/再開された回数
●動画広告がミュート/ミュート解除された回数
●動画広告のクリック数
従来の広告にはない再生時間・一時停止・ミュートといったイベントをどう評価するべきか、新しい評価方法が必要になるかもしれないが、動画広告の効果を評価するのに十分な情報を得られるようになっている。
狭義の「動画広告」だけでなく、さまざまな種類の広告をサポート
また「動画広告」と一口に言っても、さまざまな種類の広告がある。VASTがサポートする動画広告の種類は次のとおりだ。
(1)リニア広告
リニア広告の代表的なものは、プレロール広告(動画本編の再生前に流す動画広告)、ポストロール広告(動画本編の再生後に流す動画広告)、ミッドロール広告(動画本編を中断して流す動画広告)の3つ。
(2)ノンリニア広告
2つ目のノンリニア広告は、動画本編の再生中に、動画にオーバーレイして(被せて)表示するタイプのバナー広告やテキスト広告のことだ。
(3)コンパニオン広告
コンパニオン広告(動画ポッド)とは、動画プレーヤーの周辺に表示するバナー広告やテキスト広告のことだ。
動画広告をよりリッチに。多彩な表現を可能にするAPI「VPAID」
VASTについて、最低限押さえておきたい基本事項はこんなところだろう。VASTだけでも普通に動画広告を配信することは可能だが、「VPAID」(Video Player-Ad Interface Definition)というAPIを使えば、「動画上から いいね!/Tweetさせる」「いくつかの動画の中から、好きな動画を選んで再生させる」といったもっとリッチな表現も可能になる。
VPAIDは動画プレーヤーとリッチメディア広告の間の双方向通信を可能にするAPI規格だ。VPAID 2.0では「ActionScript」「Silverlight」「JavaScript」の実装が規定されているが、「ActionScript」でSWFファイルを作るケースがほとんどだ。VAST経由で取得したSWFファイルを動画プレーヤーに被せる形でリッチメディア広告を表示し、視聴者のアクションに合わせて動画プレーヤーとの双方向通信を行うことになる。動画プレーヤーが「VAST対応だがVPAID非対応」の場合、VPAIDの部分を除いて通常のVAST対応の動画広告をアドサーバーから配信することもできる。
また、SWF上でユーザーがどんな操作をしたのか、イベント数を計測する機能も備えている。VPAID API規格についての理解は必要だが、SWFの作成ということで、ActionScript/Flashに慣れているエンジニア/デザイナーなら、比較的短期間で使いこなせるようになるだろう。
VPAIDを駆使して手間を掛けた分、確実に見返りを得られるという裏付けもある。Sizmek(サイズミック、旧:MediaMind)社の調査によると、VASTで配信した動画広告のCTRは2.84%。これだけでも十分に満足できる数値だが、VPAID採用の動画広告では、インタラクション率(動画広告に被せたSWFを操作する割合)は9.57%にもなる。中には、インタラクション率500%(1インプレッション当たり5回の操作が発生)という成果が出たキャンペーンもあったという。
さらに、動画広告が最後まで視聴される割合も、通常の動画を含むリッチメディア広告では57.87%のところ、VASTのみの動画広告では66.21%、VPAIDを組み合わせた動画広告ではそれを若干上回る68.14%となった。VPAIDを使ってよりリッチな動画広告を配信すれば、ユーザーがより興味を持って視聴してくれるようになることが分かる。
動画広告が普及しているアメリカでは、既にVPAIDを駆使したリッチな動画広告が登場し始めているので、次ページでいくつか紹介していこう。