「お客様」は誰を指すのか、顧客を立体的に捉える方法
なぜ今、BtoBマーケティングにおいて顧客の「先」を見る必要があるのか?富家氏が問いを投げかけることから講演はスタートした。
パナソニック コネクトでマーケティングを推進する関口氏は、BtoB企業が陥りやすい問題として3つの解像度問題を提起した。業務プロセスが整理されるにつれ、「顧客」「自社」「競合」の解像度が下がっていく現象だ。
たとえば顧客は、直接やり取りする窓口担当者だけをお客様と捉えてしまい、その先のエンドユーザーである従業員まで見えていない。エンドユーザーが求めるものは何か?という視点が抜けて競合分析は機能比較で終わり、自社の強みの定義すら社内でバラバラなことも多い。
「マーケティングがリードを獲得し、インサイドセールスが顧客へアプローチする。こういった業務プロセスの細分化が悪いわけではありません。しかし、顧客から得た情報を社内で共有する仕組みがないと、情報はサイロ化してしまいます」(関口氏)
では、顧客を正しく捉えるにはどうすればいいか。富家氏が尋ねると、関口氏はBtoBの場合は顧客を単一の人物や部署ではなく、複数のステークホルダーで構成されるDMU(意思決定ユニット)として立体的に見る必要があると強調した。
医薬品会社におけるPC採用を例に挙げると、IT部門が選定・運用を行い、その先に実際に使うエンドユーザーがいる。調達部門は「コストを下げてほしい」と言い、CTOなどの意思決定者からは「今までのやり方を全部見直したい」という声が上がっているかもしれない。

「ペルソナやICP(理想的な顧客プロフィール)は有効なツールです。しかし、マーケターの理想論で描かれることも多く、実在しない顧客像が一人歩きするリスクもあります。DMUを活用して顧客を整理し、現実と乖離していないか解像度高く見ていく必要があるでしょう」(関口氏)
コクヨが実践する、顧客の本音を引き出すアプローチとは
DMUで顧客を立体的に捉える重要性は理解できた。では、実際の現場ではどう顧客理解を進め、本音を引き出せばいいだろうか。コクヨでBtoB事業のプロモーション部門の責任者を務める小川氏は、オフィス移転という具体的な場面を通じてその実践を語った。
コクヨにとって大きなビジネスチャンスの一つが、顧客のオフィス移転だ。平均7〜9年に1度しか発生しないこのタイミングは、家具から内装工事まで一括受注できる可能性を持つ。しかし、顧客視点で見るとまったく異なる景色が広がっているという。
「オフィス移転の担当者は移転の経験がなく、ニーズや悩み以前に、そもそも進め方すらわからないケースが多いです」(小川氏)
移転は会社にとって一大プロジェクトだ。経営層は何億円もの投資を最大限に活かしたいと考える。一方で、現場の社員は慣れ親しんだ働き方を変えることへの抵抗感を持っている。手探りの中でプレッシャーも強い複雑な状況の中にいるプロジェクト担当者に対して、いかにアプローチするかが問われる。
富家氏は「『オフィス移転を検討している人』と一括りにするのではなく、各ステークホルダーがどんな心情や切迫感を抱えているかまで想像することが重要」と整理した。
経験もノウハウもなく、何に悩めばいいかもわからない顧客に「課題は何ですか」と正面から聞いても、本音はなかなか出てこない。そこでコクヨが実践するのが、実際にオフィス空間に足を運んでもらうアプローチだ。体験を通じて課題の解像度を共に上げていく。そこで引き出される本音は、オフィス家具の話にとどまらないことも多い。
「採用力を高めたい、離職率を下げたい、部門間のコミュニケーション不足で新サービスの企画が進まない、といった経営課題まで出てくることがあります」(小川氏)
オフィス移転という入り口から、経営の核心にある課題へと対話が深まっていく。顧客自身も気づいていない本音を引き出せるのが、「体験」という場の力だ。
