米小売業界の“聖戦”
オムニチャネルを考えていくと、どんな企業も実店舗の売場と自社ECサイトなどのダイレクトチャネルでどのように顧客を囲い込み、購買までつなげていくかという命題に突き当たります。オンライン、オフラインを問わず消費者との接点をいかに多面的に構築し、顧客動向を分析し、スピーディにサービスを提供できるか。自社のアセットに適合したかたちで競争力のあるプラットフォームを築くことが必須となってきます。
米国では、オムニチャネル戦略の必然的な流れとして、いずれ必ずお互いの領域を食い合うであろうウォルマートとアマゾンの戦いが注目を集めてきました。売上規模では、2014年1月期で4763億ドルという天文学的数字を誇るウォルマートに対し、アマゾンは 678億ドル(2013年通期)と7倍の開きがあります。ただし、ことECに限れば、ウォルマートはまだ100億ドル。両社の成長率から見れば、2024年ごろにアマゾンが総売上でもウォルマートを抜き去るという予測も出ていました。
しかし、米小売業界紙"Internet Retailer"の調査によると、直近の1年で比較した場合、アマゾンの売上高成長率20%に対し、ウォルマートのEC売上は30%を記録しており、オンライン部門の成長率に限れば、ウォルマートが上回っています。
こうした状況の中、当初はウォルマートの店頭でもKindleが販売されるなど、ある種の“棲み分け”がなされているように見える部分もあったのですが、2012年9月には「競合の製品を売る理由はない」として販売を中止し、いよいよ「待ったなし」の開戦が宣言されたかのような状況になってきています。
オンラインとオフラインの垣根がなくなっていく今、両社がどのような戦術でこの戦いに挑んでいるのかを見ていきたいと思います。
ついに「聖域」も侵食し始めたアマゾン
アマゾンは2014年4月4日、音声認識で買物リストが自動的に作成されるDashというデバイスを発表しました。リモコン型の小さなデバイスで、音声入力だけでなく、商品のバーコードを読み込むこともできます。興味深いのは、このプロダクトが当面、生鮮・食品などの即日・翌日配送サービスであるAmazon Freshでしか使えないという点です。
Amazon Freshは同社が水面下で温めてきた生鮮食品や日用品の会員制の宅配サービスで、おひざ元であるシアトルでは2006年からスタートしていました。パン、野菜、冷凍食品、惣菜、飲料はもちろん、地元の食材店の商品、日用品やベビー用品、Amazon.comの取扱い商品も注文可能。35ドル以上は配送料無料で、午前10時までに注文すると即日配達。午後10時までに注文すると翌朝届けてくれます。
生鮮食品の扱いには、冷蔵などのコスト負担が大きく利益が出にくいため、試行錯誤に時間がかかっていたようですが、ロサンゼルスに続いて、昨年12月にはサンフランシスコにも拡大、2014年中にさらにエリアを拡張する方針のようです。
Amazon Freshを利用するには年間299ドルの会費が必要で、従来からある会員向け配送サービス「Amazon プライム」のアップグレード版とも言えます。アマゾンは定額課金することにより迅速な配送を約束するAmazon プライムの提供開始により、他EC業者との圧倒的な差別化をはかり、収益基盤を拡大してきました。
オンライン書店としてスタートしたアマゾンにとって、書籍以上に日用必需品である食品を押さえることが消費を押さえることになるとの認識は早くからあったようです。
Kindleに続く新たなデバイス「Dash」を中心に、デバイスと会員システム、ロジスティクスが一体となったプラットフォームを築きあげ、既存の実店舗からの顧客争奪をさらに激化させようというジェフ・ベゾズの意図が見て取れます。