若年層ユーザーの利用、8割がスマートフォンに
友澤:本連載ではここ数回、ビデオ広告をいろいろな切り口で取り上げていますが、今回は「効果検証のフレームワーク」をテーマにしました。ビデオ広告自体、やっとフォーマットが出そろったところで、まだ効果検証の事例は少ないのですが、私のリクルート時代の同僚でもあるリクルートジョブズの板澤さんを迎えて実例をご紹介いただきます。まずは現在の業務内容と、そこでの課題をうかがえますか?
板澤:リクルートジョブズは、アルバイト・パート関連情報を中心に求人情報サイトやフリーペーパーを展開しています。私は各媒体のウェブマーケティングとテレビCMを中心とした宣伝業務、それからビッグデータの分析やサイトの最適化なども行っています。
ここ数年の課題でいうと、「タウンワーク」「フロム・エー」では特に若いユーザーが多いので、デバイスの変化が著しいことですね。パソコンからスマートフォンへとシェアが毎月数%ずつ動く時期を経て、今ようやく落ち着いてスマホが8割くらいになっています。
友澤:おそらく他社だと、今がまさにシフトしている時期なんでしょうね。ウェブの効果測定についても、CPCやCPA一辺倒の時代を経て、今では認知が注目され始めています。それは考えてみれば、広告の本質なんですが、インターネットではずっとコンバージョン重視で進化してきた流れがあるので、これからですよね。
スマートフォンでの視聴を前提としたリッチアドは不可欠
板澤:確かに、私がリクルートで仕事を始めた8年ほど前は“CPA文化”と言ってもいいほどでしたが、評価指標としては分かりやすくても、アトリビューション効果(コンバージョンに至るまでに接触した各広告の貢献度合い)を加味しないところは物足りなく感じていました。
友澤:その部分を、ずいぶん前から研究されていたそうですが、現状ではどのような見解ですか?
板澤:アトリビューション効果は算出しにくいですが、難しいロジックと運用を組んでしまうと運用がなかなか定着しないという課題があるので、行きついた先は基本的には純粋想起率のモニタリングと、定期的にアトリビューション効果を計算し、各広告のラストクリック目標CPAに反映するという運用です。
純粋想起率やコンバージョンに至るまでの各段階での認知効果は、僕らが「ナビゲーショナルクエリー」と呼んでいる、インターネットユーザーが能動的に検索してくれる部分に影響してくるので、重要ですね。ビデオ広告は、この純粋想起率や認知効果をある程度高める効果があると考えて導入しています。
友澤:「タウンワーク」と「フロム・エー」では、テレビCMと併用されていますよね。
板澤:そうですね。ビデオ広告は、若年層のテレビ視聴率が下がる中で、テレビでは届かない層にリーチする意図がまずあります。それと、スマートフォンでの動画利用自体の広がりを考えると、単体でも欠かせません。GyaO! やYouTubeが積極的に利用されているので、スマートフォンでの視聴を前提としたリッチアドとしても捉えられると考えています。
視聴完遂率“サバイバルレート”が9割!「バイト女性の駐車テク」
友澤:「タウンワーク」は香取慎吾さんを起用した“バイト日本代表!”のシリーズ、「フロム・エー」はキャラクター“パン田一郎”くんのシリーズがそれぞれテレビCMで放映されていますが、ウェブ用の映像はどのように制作していますか?
板澤:単純におもしろければ話題になるのではと思ったのですが、おもしろくても話題の切り口が分からないとSNSに上がらないんですね。試行錯誤を重ねて、どういう文脈で視聴されたいのかというコンセプトを明確にすることが大事だと気付きました。
昨年タウンワークでは「タウンワーク バイト日本代表チャレンジ!」として、すごい技を持っているアルバイトスタッフの取材動画を制作しました。その中で、駐車テクニックを取材した動画がSNSで話題になり、「バイト女性ドライバーの神ワザ駐車テク」というタイトルでYahoo!映像トピックスに取り上げられて、アクセスが大きく伸びました。
友澤:このときは、どんな指標を見ていたのですか?
板澤:アクセス数などのほか、友澤さん用語でいう“サバイバルレート”、動画の視聴完遂を見ました。驚いたのは、これが9割を超えていたことです。Yahoo!映像トピックスに取り上げられると、キャッチーなタイトルやリード文で映像へのコンテキストが付与されるので、検索して動画にたどり着くよりも関心高く視聴されると分かったため、これ以降はYahoo!映像トピックスへの掲載を意識するようになりました。
“突っ込まれ”キャラを生かして視聴完遂単価2円台
友澤:直近では、かなりいろいろな種類のビデオ広告や映像コンテンツをアップされていますよね。どのような方向性で展開しているんですか?
板澤:ひとつは、ソーシャルで人気の方々とのコラボです。Flash動画で有名な「鷹の爪団」や、すでにファンがついている複数のYouTuber(YouTube上にオリジナル動画を継続して公開し、広告収入を得ているユーザー)とコラボして、オリジナルの映像コンテンツを制作しています。こちらはさまざまな切り口で注目してもらい、話題化を図っています。
もうひとつは、テレビCM素材をより若年層のターゲットに絞り、かつソーシャルに適した形に加工して、ビデオ広告として流すことです。こちらは、どのような文脈で話題になるかを想定して加工しています。例えばパン田一郎の“突っ込まれキャラ”を強調したりすると、ターゲットの反応を多く得られました。
友澤:ビデオ広告による純粋想起率や認知の向上を考えると、こうした場合のゴールはクリックではなく、視聴完遂率になってきますね。
板澤:そうですね、ビデオ広告ではあまりクリックは重視していません。先のパン田一郎のビデオ広告をGyaO! インストリームアドに流した結果では、やはり広告後に本来見たいコンテンツが控えているため、視聴完遂率がパソコンで86%、スマートデバイスで81%にも上り驚きました。その単価も2円台と安かったですね、あまり言いたくありませんが(笑)。
さらにここでは効果測定として、アトリビューション効果測定と、アンケートも行いました。
リマーケティングリストを活用してアトリビューション測定
友澤:それぞれ、詳しく教えてもらえますか?
板澤:アトリビューション効果はYouTubeのインストリーム広告と、リマーケティングリストを活用して測定しました。ビデオ広告の視聴者と非視聴者が、それぞれ「アルバイト」を検索したときにリスティング広告を表示してクリック率を取ると、非視聴者に比べて視聴者のクリック率は32.5%高いという顕著な差が見られました。これにより、ビデオ広告が明らかにその後のアクションに貢献していることが分かりました。
アンケートは、シングルソースパネルによる視聴前後の調査です。態度変容をアンケートで聞き、また同意の上でウェブ上の行動ログを取りました。結果、純粋想起率は非視聴者より視聴者が2.9%高く、サイト利用率も3.9%高くなりました。
友澤:なるほど。ビデオ広告は、まずは広告自体を視聴してもらうものですが、ビデオ広告を最後まで見た後にもっと見たくなれば、広告をクリックしてもらえるので、クリックをゴールにしないで、視聴完遂をゴールにするというアプローチが望ましいですよね。
ちなみに「ヤフオク!」でも、ブランド認知率は高いので純粋想起を獲得したいという状況にあって、その観点からビデオ広告を使い、効果検証をしたんですよね。
板澤:「フロム・エー」などと同じですね。検索する瞬間に思い出してもらいたい、という。
友澤:そうです。言い換えればマインドシェアですが、これまではテレビCMで獲得していたのが、デジタル文脈だとビデオ広告になるんだろうと。
効果測定のスキームを引き続き模索 課題は制作費
友澤:テレビCMも出稿したので、各接触者のリーチの重なりや、純粋想起率の違いなどを測定したところ、デジタルのみでリーチした人もしっかり純粋想起率が高くなっていました。
Yahoo! JAPAN インスクロールアドとテレビCM両方で広告認知されている部分はより記憶に残すことができ、重なっていない部分はインスクロールでしかアプローチできていない層なので、組み合わせることで、効果的に広告出稿ができると思います。
純粋想起率はアンケートで取りましたが、リアルタイムではないのが弱点ですよね。どんな組み合わせで効果を見るべきか、ノウハウをためながら探る必要があると思っています。
板澤:そうですね。それと、ビデオ広告は意外と成熟したマーケットに対して効果があるな、というのもやってみて感じました。新たな認知獲得より、純粋想起のリフトに注目しています。それはテレビの世界ではずっと探られてきたことですが、デジタルだとどうなのかを考える段階なのかもしれません。
友澤:商材の向き不向きもありますが、効果測定やクリエイティブが課題になって着手できずにいる企業は多いと思うので、今回の事例は参考になりました。純粋想起率を高めることに繋がる、視聴完遂されるビデオ広告の文脈を考えるというのも、大切ですね。
今回お話いただいたような、ビデオ広告の効果をどう評価していくかというのは、今後のマーケットにとって重要なポイントになると思います。最後に、今後の課題や展望を教えていただけますか?
板澤:課題は、大きくは制作費ですね。ターゲティングも細かくできるようになっているので、動画を作り分けたいのですが、そこはコストと手間次第なので、最適な方法を模索していきます。
細かくは、例えばYouTuberとのコラボも今回はさまざまな方と組みましたが、次からはキャラクターと作風がマッチする方と内容をもっと掘り下げてみたい。今後も映像を見てもらう文脈を考えていきたいです。