iPhone 6のNFC搭載が話題に
先日行われたAppleの発表会では、「iPhone 6」と「Apple Watch」に加えて「Apple Pay」というNFC(近距離無線通信技術)を用いた決済サービスが発表されました。特にApple Payは大きな驚きと期待を持って迎えられ、発表されるやいなや、我々オムニチャネル界隈の絶好の議論のネタとなっています。
しかし、発表会の熱から冷めてよくよく考えてみると、それほど目新しい話じゃないのでは?という疑問を持つようになりました。それもそのはず、"One-touch checkout(これからはタッチだけで決済ができます)というApple Payのキャッチフレーズは、日本に住む我々にとっては既視感がありすぎるものだからです。
日本ではFeliCaを用いたおサイフケータイが登場して、はや10年。むしろiPhoneでおサイフケータイ機能が使えないことをストレスに感じる人がいるほど普及が進んでいます。今回のApple Payの仕組みも、ざっくり言ってしまえばFeliCaと大差はありません。むしろユーザー視点では、指紋認証などのセキュリティステップが入る分、使いづらさを感じてしまいます。ましてやそのベースとなっているNFCという技術は、もはや懐かしさすら感じる"枯れた技術"です。
この記事が公開されるころには決済の観点から見たApple Payについての解説があふれていることと思うので、本稿では少し観点を変えて、"枯れた技術"に焦点を当てながら「なぜ、AppleがNFCを採用したのか」を考察していきたいと思います。
オムニチャネルの技術は枯れたくらいがちょうどいい
Appleが決済サービスを検討する際、昨年発表したiBeacon(iOSの位置情報サービスを拡張するテクノロジー。iBeaconの設置場所に近づいたり離れたりすると、iOSデバイスからアプリに通知する)をはじめ、当然いくつかの選択肢を持っていたはずです。そのなかでNFCを採用したのはその技術特性に加え、"枯れた技術"であるという点が大きかったと想像されます。
よく、技術やサービスには普及に至るまでに"キャズム(chasm:亀裂、溝)"があると言われます。新技術に関心の高い人たちだけでなく、一般層へと広く受け入れられるために超えなければならない"溝"のことです。オムニチャネル関連の施策は、サービスのキャズムに挑戦する前に「ユーザー端末」「実店舗」「店員」という三者においてスムースに実施できることが条件となるため、キャズム超えが通常よりも数段厳しい領域であると言えます
新しい技術に着目したオムニチャネル系の施策がほとんど普及しないのは、ここにその理由があると考えるべきでしょう(キャズムはただでさえ超えるのが大変なのに、その挑戦の前に3つも超えないといけないなんて想像するだけで恐ろしくなります)。
私はこのキャズムを超えるための最も有効な手段が、あえて「枯れた技術を使うこと」だと考えています。
新しい技術は基本的に三者のいずれにとっても新しく、当該技術を利用したサービスはその技術自体のキャズムに加え、三者それぞれに固有のキャズムに挑戦しなければなりません。しかし枯れた技術はすでに一定の普及率を持っているため、キャズム超えの難易度を下げる効果があるのです。
今回、Apple Payというサービスで言えば「NFCをiPhoneに搭載する」という提供形式を取ることでユーザー(=ユーザー端末の普及率)と店員(=店員のサービス理解度)をクリアする目処をたてることができ、「いかに実店舗に普及させるか」という一点に経営資源を集中させることができるわけです。