実店舗を持つ会社がオムニチャネルに目覚めはじめた
ここ数年で急速に「オムニチャネル」に対しての関心が高まり、実践する企業も増えてきた印象がある。モデレータの編集部 安成の問い掛けに応え、MarkeZineで『大元隆志のマーケター訪問記』を連載中の伊藤忠テクノソリューションズの大元氏は、取材を通じて「オムニチャネル」への関心の高まりを実感すると語る。さらに以前はコンサルティング会社などに戦略立案を委ねていたものが、近年では企業自身で立案し、実現のためのシステム構築パートナーとしてSIerに相談するというケースが増えてきたというのだ。中でも実店舗を持つ企業が、ECサイト強化に熱意を持って取り組んでいる印象があるという。
若者に人気の高いテナントが入る「パルコ」も、オムニチャネル施策に積極的に取り組む代表的な企業のひとつだ。パルコの島袋氏はICT活用からオムニチャネル、Eコマースまで全体戦略を立て、実務も行なうなど、「まさにオムニチャネルを目指して奮闘中」と語る。
その兄弟的存在であり、老舗の百貨店として大型店舗を構える「大丸松坂屋百貨店」もオムニチャネル化を模索中だという。担当者の洞本氏は、2010年に大丸と松坂屋が合併した際に、ECを除いたデジタルマーケティングの担当となり、公式キャラクター「さくらパンダ」を使ったイベントや、LINEスタンプなどのバズ・マーケティングの施策、会員80万人を擁するモバイル特化型メール使ったO2O企画などにも取り組んできた。しかし、施策に取り組むうち違和感を感じたという。
「顧客にとってオンラインは一部の接触ポイントに過ぎず、もっとリアルとの融合が必要なのではないかと感じていました。日々口にしていたところ、『では、君がやりたまえ』ということになり、この3月からEC以外の部分、販売促進・広告宣伝・デジタルマーケティング・広報・店頭接客サービスなど、をトータルに担当することになりました」と洞本氏。今後は、マーケティング・コミュニケーション領域全般のトータルプランニングを担い、「リアル店舗・オンライン(EC)問わず、顧客の来店を促進して、売上を立てる」ことがミッションになるという。
気がつけばオムニチャネル、後追いのオムニチャネル
そもそもオムニチャネルとはどのような定義なのだろうか。顧客接点と購買行動の関係性から、店舗で商品を見て店舗で購入する「シングルチャネル」、店舗・通販・ネットのいずれでも購入可能な「マルチチャネル」に対し、様々なチャネルを利用する顧客の消費行動に対応するといった、“顧客視点”で考えるマーケティング戦略を「オムニチャネル」と定義する、と大元氏は解説する。そして、「2つのタイプがある」と大元氏は指摘する。
まずは「気が付けばオムニチャネル派」だ。無印良品やメイシーズなどは、ブロードバンドが普及した2006~2008年頃にはECサイトを立ち上げ、SNSの浸透とともにSNS上にチャネルを開設し、ここ数年のスマートフォン普及でアプリを提供するなど、技術/生活者/時代の変化に対応していたら、自然とオムニチャネル対応になっていたというわけだ。
一方、近年になってはじめて取り組み始めた「後追いオムニチャネル派」も少なくない。とはいえ、ECサイト運営担当者もおらず、ネット上に顧客基盤もない、にも関わらず、とりあえず形から入って、失敗してしまう……。大元氏はその様子を「ビッグデータブームと構造は似ている」と指摘する。
「データがないのに形だけ真似ようとしても失敗するように、オムニチャネルも一足飛びではうまくいきません。効果を出すには、堅実に継続する必要があるのです。だからこそ、まずは自社の現状を的確に把握することが不可欠です」(大元氏)
ここで大元氏は、無印良品とメイシーズの特徴を紹介。いずれも多数の店舗を持ち、知名度があり、ネットリテラシーの高い若年層を多く顧客としている。さらに無印良品の場合は、時間をかけてネット顧客も獲得しており、いまや数百万人規模のリストを持っている。つまり、こうした状況にない場合は、両社とは異なるオムニチャネル戦略が必要と考えられる。自社の「顧客」をしっかりと見定め、そこを起点に発想することが重要というわけだ。「上から降ってきたからやるというのでは本末転倒」と大元氏は指摘する。