リアル店舗での快適なショッピングを実現する/パルコのオムニチャネル戦略
それでは、「後追い」になってしまった企業はどうすればいいのか。パルコの島袋氏は「後追いは後追いならではの戦い方があるはず」と息巻く。その思いを胸に2013年に掲げたのが「24時間パルコ」というコンセプトだ。現在の19店舗を中心に、顧客と24時間いつでもつながり、接客できるような仕組み。その実現を真摯に考えているのだという。
顧客とのタッチポイントとして重視しているのが、スマートフォンだ。パルコの顧客は若年層が多く、モバイルとの親和性が高い。そこで「24時間パルコ」の施策として、パルコ公式スマートフォンアプリ「POCKET PARCO」のサービスを開始した。テナントでの実際の接客をイメージし、リアルとネットの両方でのショッピングサポートを意識したという。こうした「顧客とのエンゲージメント施策」は、店頭&Webの商品在庫連動や顧客会員データの統合化より優先度が高いという判断だ。しかし、後者にもゆくゆくは対応していく予定だという。
こうしたプライオリティは、2015年1月にオンラインモール事業から撤退したことにも端的に表れている。ネットのみで完結させるのではなく、ネットを利用しつつもテナントの在庫を利用するなどリアル店舗との融合を図った「カエルパルコ」を2014年5月より開始。当初3店だった参加店舗は8か月で100店に上り、売上も販売店数も順調に増加している。ユーザーにとっては、リアル店舗でのショッピングの「お取り置き」ができるなど快適性が高まり、一方でテナントにとっては、ショップの顧客満足度を高め、売上にもつながる。現在、一部のテナントでは約10%が「カエルパルコ」経由による売上になっているという。
潤沢なタッチポイントを活かした「百貨店のオムニチャネル」/大丸松坂屋の挑戦
さらにリアル店舗の力が強く、顧客の年齢層が高い百貨店はどうなっているのか。洞本氏は百貨店の顧客も「ごく自然にあらゆるチャネルを使い分けている」と分析する。それにも関わらず、時間と距離の制約を容認し、店舗という主要チャネルしか持たないことを“あえて”選んできたことで、百貨店は「販売機会=接点・タッチポイント」の損失を加速させてきたというわけだ。
その遅れを取り戻すには、百貨店という業態の強みを活かした「大丸・松坂屋」独自のオムニチャネルを志向することが大事だという。外商係員、ハウスカードの請求書、DMや新聞折込チラシ、そして最たるものは店舗への来店など、いまだオフラインが圧倒的ではあるが、様々なタッチポイントは大きな強みだ。
そして、新たに開拓したメールやSNSなどのオンラインにおけるタッチポイントも含め、すべての施策の最終ゴールとして「実店舗への誘導」が暗黙のうちに認識されている。しかし、オンラインからのリアルへの送客は効果が見えにくく、評価されにくい。結果としてそれがネット施策の足を引っ張ることにもなりかねない。
洞本氏は「百貨店の制約を解くために、そしてデジタルマーケティングの効果がわかりやすいECの強化が必要」と語る。そこで、グループ会社化していたEC組織を本体に戻し、取り扱いアイテムを増やすなどの施策を行なっているという。中でも店舗で売上の大半を占めるファッション関連商品については、日本の百貨店は大半の商品在庫を管理していないことが障壁となっていたが、「クリック&コレクト」では取引先とデータ連携することでその問題をクリア。ネットで選択した商品を店舗で受け取れるようにもしている。
そしてもう1つ、百貨店のオムニチャネルとして考えるべき課題が「富裕層をターゲットにしたオムニチャネル」だという。すでに外商部で行われているリアルなサービスに加え、プレミアム会員サイト「connaissligne(コネスリーニュ)」などの拡大に取り組んでいく予定だ。