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大元隆志のマーケター訪問記

「ネットフリックス上陸は脅威ではない」エイベックスが仕掛けるdTVの次なる戦略

データから見えない部分を読み取り、コンテンツをつくる

――ただ、「流しっぱなし」だと、単なる複数コンテンツの繰り返し再生なので、いつかは飽きるのでは?

村本:実は、この「流しぱなし」の裏の仕組みは「編成型」なんです。弊社側で1時間に一本新しいコンテンツを手動で増やしています。ですから、「流しっぱなし」でも同じコンテンツが繰り返し流れているというわけではありません。

――まるで本当にテレビ局みたいですね。番組表等もリリースされるのでしょうか。

村本:それは、今準備中ですね。

――ユーザーが見たい物を探せない、そういう問題を解決するために視聴傾向を解析してレコメンドするという方法もあると思います。ネットフリックスはこのレコメンドが優れているから評価されているという側面がありますが、dTVもレコメンドに力を入れているのでしょうか。

村本:「あなたにお勧め」というチャンネルではレコメンドエンジンが選んだコンテンツが表示されます。1,000以上のタグや再生時間から、レコメンドするようにしています。ただ、レコメンドって視聴履歴をもとに「好み」をお勧めするわけなんですが、下手をすると「好み」の中に人を押しこめていっちゃうんですよね。そうすると、人はいずれ「飽きる」んですよ。

 だから、「飽きた」時のために、ザッピングをすれば「編成型」のコンテンツが表示されて、新たな「好み」に出会えるという形を取っているんですね。これはもう、従来のユーザーにコンテンツを選んで貰うSVODというスタイルから、自分たち自体が脱皮したい。そういう想いを形にしましたね。

――色々お話を聞いていると、従来のVOD(Video on Demand)、つまりコンテンツがたくさんあって、見たい時に見れますよというのとはレベルが違うサービスのように思えてきました。むしろ、テレビの進化はこうあるべきというお手本のようにさえ感じます。もともとインタビュー項目に「競合と考えている企業はどこか?」という質問を入れさせて頂いてのですが、競合と考えている企業はありますか。

村本:「生活者の時間を奪う」という観点で、アプリやゲーム、テレビも含めて全てと競争していく時代だと考えていますね。動画配信市場の中で競合というのは意識していません。

――なるほど。動画配信の他のプレイヤーに限定するといかがでしょうか。

村本:うーん、実は他社さんがどんなサービスを提供しているかというのは、ほとんど見ない会社なんですね(笑)。他社さんのサービスと比較しだしたら、企画の発想が提供者側の視点にスイッチしてしまいますよね。私たちはそこを見るよりも、「自分たちのお客様が何に興味を持っているのか」「どういう時間の使い方をしているのか」「どんな風にテレビを見ているのか」といったことを徹底的に調べていますね。

――緻密な分析を行われてサービスを設計されてきたわけですが、オリジナルコンテンツを作る時も視聴ログをヒントに作るのでしょうか。

村本:いや、むしろオリジナルコンテンツは「提案型」なんですよね。お客様のニーズを聞いてるだけだと同じ所にとどまっちゃうんですよ。これが受けてるからこれをやればいいんだってやり続けると、飽きられるんですよね。だから変化球を投げるということを結構やっていますね。

 BeeTV時代に「キスxKissxキス」という、いわゆる女性の妄想系というジャンル、キスシーンだけを見せる10分間のショートコンテンツを作ったら大ヒットしたんですね。これをどうして作ったかというと、視聴率がどうとかいうデータではなくて、女性が寝る前にどんな気持ちになっているだろうかとか、女性心理からコンテンツを作っていったんです。寝る前にコンテンツを見る傾向がある、短時間で見られるコンテンツが好まれている、そういう部分はデータを参考にしますが、それを形にするのはクリエイティブが一番大切ですね。

――データからは見えない部分を読み取って、コンテンツを作っていくんですね。

村本:そうですね、そこは弊社がコンテンツを作る会社だからだと思いますね。ユーザーは好きな物はご覧になるし、数字もあがるんですよ。でも、それを続けてると作り手も「データを見てればいいんだ」ってなっちゃう。でも、それって今いるお客様の視聴データでしかないから。未来のお客様を獲得するっていうことを考えると、新しい物に挑戦するっていうことは凄い大事だと思うんですよ。

――なるほど、dTVのオリジナルコンテンツというのは、今いるお客様のためではなく、将来お客様になっていただく人に向けたコンテンツなんですね。

村本:そうですね、こんなのもあるよ、こんなのもどうですかっていう、提案も含んでいる。そういうことですね。

――ネットフリックス上陸で良く言われることの1つに、オリジナドラマに潤沢な予算が割り当てられてドラマの製作費があがり、ドラマがもっと面白くなるとか言われています。製作費が上がれば面白いコンテンツは作れるんでしょうか。

村本:そんなことはないですね。例えばアメリカのドラマでは1話あたり一億円の制作コストをかけることもあると言わたりしますが、だからといって全てのコンテンツがヒットしているわけではないですよね。凄いお金をかけて鳴り物入りで始まったドラマも途中で打ち切りになったりするじゃないですか。

 私たち自身も、過去にフィーチャーフォンで見るドラマのために1話にかなりの金額をかけて作ったことがあるんですが、それほどヒットしなかったことも(笑)。コストを掛ければ一定のクオリティを担保することはできますが、ヒットするかどうかは別の話ですね。

――プラットフォームとクリエイターと考えた場合に、プラットフォーム側が利益を搾取しすぎてクリエイターに還元されないということもあると思いますが、この点についてはどうお考えですか。

村本:私たちは印税分配方式という方法を採用していて視聴専有時間に応じてクリエイターに利益が分配されるようになっています。例えば6年前に作成されたコンテンツであっても今見られていれば、分配されるんですね。音楽と同じ方式なんですが、私たちが始めた頃には動画の世界にはこういう仕組みがなかったんで、始めました。

 これには想いがあって、私たちエイベックス自体がクリエイター集団ですから、クリエイターにしっかりお金が回る仕組みを作りたいという気持ちが強いんですね。これから先、デバイスや動画配信のサービスはどんどん進化していくでしょうし、2020年にはどうなっているかなんて誰にも想像できないわけです。ただ、デバイスや技術が進化しても、クリエイターが重要であることには変わりない。クリエイターが食べていける、輝ける場所が有る限り、この市場は必ず成長していくと信じています。

――貴重なお話、ありがとうございました。

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この記事の著者

大元 隆志(オオモト タカシ)

伊藤忠テクノソリューションズ株式会社 クラウドインテグレーションビジネス推進部 エキスパートエンジニア
国士舘大学 経営学部 非常勤講師

通信事業者のインフラ設計、提案、企画を12年経験。現在はCASBソリューションのセールス開発・プリセールスを担当する一方で、国士舘大学 経営学部にて学生向けに企業におけるクラウド、モバイル利活用について講座を担当する。最新のIT動向や技術動向分析が高く評価され、ヤフーニュース、IT Leaders、ITmediaマーケティング等IT系メディアで多くの記事を執筆。所...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2015/05/07 10:00 https://markezine.jp/article/detail/22383

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