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大元隆志のマーケター訪問記

「ネットフリックス上陸は脅威ではない」エイベックスが仕掛けるdTVの次なる戦略

500万人超ユーザー拡大は目論み通り/サブスクリプションモデルの限界

――dビデオへと進化し、狙い通りユーザー数は右肩上がりになっているわけですが、2013年の560万ユーザーをピークに500万前後で推移していましたよね。

村本:はい。ただ、それも計算通りでしたね。当初の計画では開始から3年で350万加入者が目標でした。なので目標は達成していたのですが、dビデオの主戦場はスマホやタブレットです。「こういう小さなデバイスで楽しむ映像コンテンツとはどういうものなのか」「日常生活でどんなふうに動画で楽しんでいるのか」「スマホを利用している年代は?」といった事項を掛け合わせていくと、500万人がこのマーケットの限界であると算出し、ここで踊り場が来ることはdビデオ企画時に予想していました。実際に500万ユーザーに到達して、上限に達したことを実感しましたね。そしてdTVの準備を始めたのが、ちょうどその頃、今から1年半程前です。

――BeeTV時代が200万人の壁、dビデオ時代には500万人の壁を予測されていたわけですが、新たにdTVへと進化することで、次の目標値は?

村本:もちろん1,000万人です。

――そのための具体的な施策はあるのでしょうか。

村本:dビデオのイメージを超えることですね。ワーディングの問題等も含めて、自らが脱皮しないといけません。dビデオと言ってしまうと、ビデオなんですよね。ビデオという表現は映像がとても好きな方にはそれで良いけれど、それでは市場が限られてしまっていました。dTVの目指す次のステージでは、大きな画面で、エンターティメントを楽しんでもらえる世界観を創っていきます。

――そのための武器がdTVターミナルですね。一般的にはSTB(Set Top Box/セットトップボックス)と呼ばれる物ですが、わざわざdターミナルという名称を付けたことにも狙いがあるのでしょうか。

村本:そうです。“dTVのSTBやセットトップボックス”と呼ぶと、一般のお客様には抵抗があるんじゃないかと思って。

――dTVでは、ザッピングとかテレビの視聴スタイルを随分研究されているように思いますが、これはdTVがいかに家庭に受け入れられるかを研究した結果でしょうか。

村本:そうです。BeeTV、dビデオと同じように、dTVについても、徹底的なユーザー調査を行いました。一般のお客様が「どういうスタイルでテレビを見ているのか」「昨日見た番組を『見た理由』は何がきっかけだったのか」といったことを、何度も何度もこれでもかっていう位聞いてまわったんです。すると、SVOD(Subscription Video on Deman/定額制動画配信)の限界が見えてきたんですよ。

――と、いいますと?

村本:ユーザーは「見たい番組を選べない」んですよ。これは、どこのSVOD事業者の方もうすうす気付いてるんじゃないかと思うんですけど、dビデオの視聴傾向を見ていると、サービス利用当初から3か月位は夢中になってコンテンツを見てるんです。ところが夢中になっている時期を過ぎると、途端に視聴数が減少するんですよ。

 これって「見たいコンテンツが尽きた」か「選ぶことに疲れちゃう」んですよね、きっと。こういう「疲れた」状態のユーザー放置しておくと、何れ解約していく、これがSVODというサービスの特徴だと掴んだんです。でも、テレビを見てて疲れるっていう人はそんなに居ないじゃないですか。テレビを見ている人たちを調査して見えたことは、ただなんとなく流れていた、チャンネルを変えた時に偶然見たという人が多かったんですよね。「コンテンツ選びで疲れない」テレビの視聴スタイルを取り入れる、それがSVODの改善点になると考えたんです。

――なるほど。だから見たい番組を「選ばなくていい」ように、ザッピング等のテレビのインターフェースを再現したんですね。リーンバックでリラックスして観れるのがテレビ放送の良さですからね。

村本:そう、よっぽど好きなコンテンツは別ですが、何時何分から何が放送されているかなんて、忙しい社会人の頭の中にはそもそもインプットされていないし、「ほとんどコンテンツはユーザーに選ばれない」というところから、dTVのサービス設計を開始しました。

――おっしゃるとおりですね。

村本:でも、テレビの画面に何か映っているとついつい見ちゃう。で、面白かったら観るし、面白くなかったらチャンネルを変える。そして、そこを起点として何かを探したり、過去の番組を探し始める。人間の当たり前の行動なんですけどね。

 dTVのサービスの特徴は、従来型のSVODのようにユーザーがコンテンツを選ぶことはできますけれど、基本的には「流しっぱなし」で見てもらえる。というか、それがテレビも含めた動画コンテンツを実際に見ている人たちの実態なんではないかというのが私たちの仮説なんです。人々の日常があって、サービスはそれに寄り添わないと、ユーザーは離れていくと考えていますから。

――動画配信事業者の競争って「何万本見放題」という数の競争に進んでいるように見えていましたが、あれで加入する人は確かにいるんでしょうけど、現実にはそんな数を全て見切ることはできないし、不毛な競争だと思ってたんですが、dTVの発想はとても面白いですね。

村本:提供側の心理としては「大量に品揃えすれば満足するだろう」「これだけ揃えれば、どれかは見てくれるだろう」と思いがちなんです。所がユーザー側は「大量に揃えられると」むしろ、選べなくなってしまう。弊社は心理学や、行動観察を非常に緻密に行うんですが、過去の調査やサービスでの経験から、「消費者の選べなくなる心理」を理解していました。

 そもそも、ライセンスコンテンツの品揃え等での差別化は、そのうちどこも同じようなラインナップになって差別化できなくなると見ています。そして、結局どれだけ揃えても見られるコンテンツはだいたい同じになるのではないかと。dTVはそうなることを見越して、UI/UXを開発し、新しい視聴スタイルの提案で差別化したいと考えています。

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データから見えない部分を読み取り、コンテンツをつくる

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この記事の著者

大元 隆志(オオモト タカシ)

伊藤忠テクノソリューションズ株式会社 クラウドインテグレーションビジネス推進部 エキスパートエンジニア
国士舘大学 経営学部 非常勤講師

通信事業者のインフラ設計、提案、企画を12年経験。現在はCASBソリューションのセールス開発・プリセールスを担当する一方で、国士舘大学 経営学部にて学生向けに企業におけるクラウド、モバイル利活用について講座を担当する。最新のIT動向や技術動向分析が高く評価され、ヤフーニュース、IT Leaders、ITmediaマーケティング等IT系メディアで多くの記事を執筆。所...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2015/05/07 10:00 https://markezine.jp/article/detail/22383

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