これからのマーケティングに求められる文脈価値
商品のコモディティ化が進み、機能・スペックなどによる差別化が難しくなる中で、文脈価値(顧客によって定義され、経験を通じて得られる価値)を重視したマーケティングが進んでいます。例えば、あなたがデジタルビデオカメラのマーケティング担当だとしたら、ホームページで何を訴求するでしょう。「スマートフォンと違って4K画質で撮れる」「他商品と比べて最小、最軽量」「手ブレしない新機能」などの機能的価値を候補にあげるのではないでしょうか?
さて、ここで見て欲しいのがアクションカメラGoProのサイトにある、「活動別お買い物」というメニューです。そこには、カヌー、サーフィン、自転車、音楽などのアクション別に、撮影できるイメージと商品が紹介されています。つまり、GoProを買えば、どのような映像を撮れるのかを疑似的に体験できるようになっているわけです。
生活者がモノ消費からコト(体験)を消費するスタイルに変化していく中で、ビデオカメラというモノではなく、どのような文脈の中で顧客が利用すると価値が最大になるのか、という文脈価値を強く意識した訴求をしています。
では、商品が国語辞典ならばどうやって訴求しますか? 「掲載語彙数」「文字の大きさ、見やすさ」でしょうか。小学館の大辞泉は「生きている」国語辞典として、価値を伝えています。
「人生」「仕事」「心」「旅」など10の言葉の意味を「あなたの言葉を辞書に載せよう」というサイトで生活者から募集し、応募された語釈を編集部が選定のうえ、デジタル大辞泉に掲載しているのです。実際に、2014年に掲載された言葉としては次のものがあげられます。通常の辞書ではありえない、しかし、その語彙を見つけると辞書を見ることが楽しくなるような言葉たちです。
- 【青春】成人が後悔し、中年が懐かしみ、老人が忘れるもの。
- 【結婚】「自由な不安」が「不自由な安心」に変わること。
約30万語という膨大な掲載語彙数に比べれば、10語の言葉はほんの一部に過ぎません。しかし、生活の中で無意識に使っている言葉には様々な思いが詰まっていることを、この施策を見た人は感じることができます。Wikipediaは、一部のプロフェッショナルがつくる一般的な辞書ではなく集合知によってつくられています。言葉の正しい意味を知るという意味では大辞泉と同じように共創で作られています。一方、この大辞泉は、生活者一人ひとりの人生観や創造性によって言葉の意味や定義を思い思いに披露して行く、それに共感をするという(言葉の正しい意味を理解するという一般的な辞書の価値とは違う)文脈の価値を創造しています。
価値共創のためのサービス・ドミナント・ロジック
製造業など、これまでモノを売ることで価値を創出してきた企業は、顧客の新たな体験をどのようにつくればよいでしょうか? その考え方に、サービス・ドミナント・ロジック(以下、S-Dロジック)というものがあります。
S-Dロジックとは、顧客にとっての価値をモノかサービスかで考えるのではなく、「モノもサービスも」包括的に捉え、企業が顧客と共に価値を創造する「価値共創」の視点からマーケティングを行う考え方です。例えば、あるウェアラブルメーカーは現在、利用シーンを顧客とともに考え、アプリケーションを共創することで、ウェアラブル機器を売るだけでなく、ウェアラブル機器を使うことで体験できる文脈価値をつくりだす支援をしています。一方、先ほど取り上げた大辞泉は生活者から語釈を集め、辞書をつくる工程を生活者と共創することで文脈価値を作り出しています。