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「ナンセンス」なアトリビューションから脱却せよ/成功の秘訣は仮説に基づいた評価モデルの組み立てにあり

 本連載では、長年にわたり企業のデジタルマーケティングの支援を行ってきたビービットが、テーマごとにマーケターが陥りやすい落とし穴や解決策について、これまで培ってきた知見を共有していきます。第2回目のテーマは「アトリビューション」。マーケターの間では徐々に定着してきたキーワードですが、実際に取り組むとなると「難しそうだ、手間とコストがかかりすぎるのでは……」と躊躇しているマーケターも多いのではないでしょうか。今回は同社の三宅史生氏が、アトリビューションの概念からつまずきがちなポイント、そして成功事例まで解説していきます。

“アトリビューション”ブームとは何だったのか?

 私は2006年からデジタルマーケティングに携わっていますが、アトリビューションがマーケティング業界で脚光を浴びるようになったのは、2011年後半のことです。以来、さまざまなアトリビューションの分析手法やツールが世に提供され、にわかに“アトリビューション”ブームが巻き起こりました。

株式会社ビービット ソフトウェア事業部 責任者 三宅史生氏

 しかし、ブームはそう長く続きませんでした。Google トレンドで「アトリビューション」というキーワードの検索傾向を調べてみると、“アトリビューション”ブームがピークを迎えた2012年に比べて、2014年の検索ボリュームはおよそ半分にまで減少していることがわかります。結局、アトリビューションは一過性のブームに終わり、企業の間に根付くことができませんでした。

 一時は高い注目を集めたアトリビューションが徐々に関心を持たれなくなったのは、企業が期待しているほどの高い効果を上げることができなかったことが最も大きな要因です。ビービットはデジタルマーケティングについてのコンサルティングも行っており、年間数百というお客様とお会いしますが、自分たちでアトリビューション分析を実施し、成果を上げているというお客様はほとんど聞いたことがありません。

 なぜ、企業はアトリビューション分析で成果を上げることができなかったのか。それは、ほとんどが「ナンセンス」なアトリビューションに終始しているからに他なりません。

まかりとおる「ナンセンス」なアトリビューション

 本来、アトリビューションに期待されていたことは、広告をはじめとしたユーザーが接触した全てのメディアを把握し、コンバージョンへの貢献度を明らかにすることであったはず。しかし、マーケティングの現場では、実際のユーザーの接触行動とはかけはなれた議論がされている現状があります。

事例に見る、アトリビューション分析でつまずくポイント

 その典型的な例として、とある外資系メーカーのケースを紹介しましょう。このメーカーでは、新商品の発売に合わせたキャンペーンを実施するにあたり、3PAS(第三者配信)経由での広告配信を行いました。そこで、顧客セグメントを複数に分け、かなり複雑な接触シナリオを設計し、バナーや動画コンテンツなどのクリエイティブを数十パターンも用意したのです。

3PAS(第三者配信):広告主や広告代理店などが、メディアではなく自らのアドサーバーにより広告配信を管理すること。

 しかし、いざ広告配信をしてみると、コンバージョンしたユーザーのほとんどが、最初の接触でコンバージョンしていたことが明らかになりました。つまり、複雑なシナリオも、複数のクリエイティブも、コンバージョンにはほとんど貢献していなかったのです。また、DSPの配信費に加えて、3PASには追加の費用がかかりますが、その分の費用対効果をどうするかも不透明なままでした。この外資系メーカーのアトリビューション施策がチグハグな結果に終わった要因は、ユーザーの行動を分析し、適切なカスタマージャーニーのシナリオを仮説立てた上で施策に挑めなかったことにあります

 また、自社のコミュニケーションに適した評価モデルを考えず、「ラストクリックモデル」「ファーストクリックモデル」「等配分モデル」「線形モデル」といった一般的な評価モデルを選んでしまうことも、アトリビューション分析が失敗に終わる典型例です。

ビュースル―コンバージョンの価値を再考すべき

 この他にも、ビュースル―も曖昧さが残ったまま議論されています。前回の記事で、「コンテンツマーケティングの成果を、アトリビューション分析と同じ仕組みで見える化する」と書きましたが、コンテンツマーケティングの文脈では、コンテンツをしっかり読んでもらうことを成果として重要視しています。一方、アトリビューション分析になると、一度ブラウザにバナー広告が表示されると、たとえバナーがクリックされていなくてもビュースルーコンバージョンとして効果とみなします。

 つまり、広告なのかコンテンツなのかによって評価の基準を変えてしまうのは、まさにナンセンスな話です。そうではなく、成果に結びつくものは評価し、結びつかないものは評価しないという基準を明確にすることが、デジタルマーケティングで成果をあげていく上で重要になります。

テクノロジーに頼って楽をしようとしてはダメ

 結局のところ、デジタルマーケティングのテクノロジーに頼ってしまい、自分で思考することを止めてしまっているマーケターが多いのではないでしょうか。マーケティングでは、ユーザーの仮説を立てることが最も重要なのに、テクノロジーがすべて解決し、テクノロジーだけですべて上手くいくと思い過ごしているのです。

 例えば、リマーケティングなどで、特定のユーザー層や特定のサイト内行動をピンポイントでターゲティングしている場合、ターゲティングすることで満足してしまうことがよくあります。そのようなケースでは、ターゲットに向けたクリエイティブやメッセージを用意していないことが多く、これではコンバージョン数もCTRも上がりません。そして結局、リスティングによるリターゲティングが有効だという話になってしまっています。

 テクノロジーのみに頼るのではなく、ユーザー行動の仮説を考えることが、全てのデジタルマーケティング施策において成果を上げるためのカギです。そしてさらに、アトリビューションの取り組みでは、ユーザーの仮説にもとづいて評価モデルを組み立てることが、実を結ぶもう1つの鍵となります。

新規獲得30%アップ&コスト10%削減を同時に実現!アパレルEC企業の成功事例

 仮説に基づき独自の評価モデルによるアトリビューション分析を行うことで、高い成果を上げた企業の事例を紹介します。某アパレルEC企業では、メインの顧客層が50~60代で、それ以外の顧客層の獲得を課題としていました。そこで、新規獲得を目的としたキャンペーンを実施。獲得コストを10%削減しながら新規獲得を30%アップ、さらに売上も20%向上させることができました。

 具体的には、過去180日間の顧客の広告接触データを取得し、その一人ひとりのデータを見ることで、独自の評価ルールを導き出し、各広告の間接効果を算出。さらに、月次のアトリビューション分析に加えて、週次で数値を見て獲得状況を把握し、PDCAを細かく回しました。また、今回の施策の目的は新規顧客の認知拡大であったため、コンバージョンが新規顧客か、既存顧客かを把握することが分析の際の要でした。それは、顧客IDの属性データを分析ツールで取得し、自社の購入履歴データベースと紐付けることで、新規顧客のみのデータ分析を実現しました。

 同社が行ったのは、真っ当なマーケティングです。顧客一人ひとりの行動データを分析して、媒体優先度を仮説立てし、それに応じてアトリビューションの評価モデルを組み立て、PDCAを回していくことで、わずか半年でこれだけのインパクトのある成果を出すことは可能なのです。

情報サイトの成果の評価を実施した通信教育会社の事例

 今度は、とある通信教育会社の事例を見ていきましょう。この会社では、2012年からアトリビューション分析に取り組んでおり、さらに自社で運営する情報サイトを通じたコンテンツマーケティングにも実施しています。

 この情報サイトは月間のPV数は多く、サイトへの集客という面では成功していました。しかし、コンテンツが潜在顧客を狙ったものであるため、集めたユーザーをECサイトへとその場で誘導することはほとんどできず、運用コストに見合うビジネス上の貢献を示せないでいたのです。そこで、潜在顧客向けのコンテンツを評価するには、長期でユーザー行動を把握する必要があると考え、情報サイトの成果の評価を実施しました。

 実際のユーザー行動をローデータで見たところ、情報サイトのコンテンツを見たユーザーが、その数ヶ月後に自然検索などで販促サイトへ流入し、申し込みに至っているケースが多いことが明らかになりました。つまり、自然検索経由での購入に、情報サイトは貢献していることが見えてきたのです。そこで、この顧客の行動パターンに応じて、情報サイトの貢献度の低いコンテンツを見直すといった施策を実施することで、潜在顧客向けのコンテンツの評価をさらに高めていくことができました。

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ローデータから、顧客の実際の動きを読み取る重要性

 先に挙げたアパレルEC企業の事例でも、通信教育会社の事例でも、アトリビューションで成功する企業に共通するのは、顧客一人ひとりの接触履歴をローデータで見ているということです。弊社でも、ユーザー行動のローデータを上手く集計し、活用することを提唱しています。一人ひとりのローデータを見ていくことで、いつどこから接触し、どんな行動をして、どこで指名検索をして、最後はどういう理由で申し込んでいるかがおおよそ推測でき、仮説が立てられます。

 「すべてのローデータを一個ずつ見るのは現実的ではない」と思われるかもしれません。もちろん、すべてのユーザーのローデータに目を通す必要はありません。20~30人のデータを見るだけで、いくつかの行動パターンが明らかになります。そしてその行動パターンでセグメントをして、どれだけのボリュームがある行動なのかを分析します。そうすることで、成果のあった施策をフラットに評価することができるのです。

 この時、注意すべきなのは、ユーザー接触のローデータが取得できない状況があるということです。アトリビューション分析のツールを選ぶ際には、すべてのユーザー接触を計測し、ローデータとして取得できるかを確認して選定すべきでしょう。また、同じ「Yahoo! JAPAN」という媒体でも、「ヤフージャパン」「ヤフー」「Yahoo」といったように、表記が統一されていなければ集計できないという問題もあります。これは分析ツールに広告メニューのマスタ管理機能が備わっていれば、表記ゆれを防ぐことができますので、分析前にローデータ整形の手間があるかどうかも、ツール選びの重要なポイントです。

 ビービットの仮説検証型の広告効果測定ツール「ウェブアンテナ」では、ユーザー接触のローデータを取得でき、さらにそのデータを手軽に分析するコミュニケーション仮説の検証機能を提供しています。この機能は、ウェブでのコミュニケーションを上手く行っている弊社のお客様のナレッジを集約し実装したもので、柔軟な切り口で事前に立てたコミュニケーションプランを分析・評価することが可能です。効果測定ツールのポイントとして前述した、すべてのユーザー接触のローデータの取得や、ネーミング管理の仕組みも備えています。

アトリビューション分析成功の秘訣=ユーザー行動の理解

 私たちビービットは、ユーザー本位の発想がデジタルマーケティング成功のカギだと考えています。ユーザー不在の数字の議論はナンセンスで、徹底的なユーザー志向で深くユーザーを理解することが重要です。ユーザー本位のコミュニケーションを行っていくためには、一人ひとりの行動を見て、その裏側にあるシナリオを読み取る必要があります。

 これまでアトリビューションをうまく分析し活用できている企業が少ないのは、“アトリビューション”という言葉やツールに振り回されてきたことが大きな理由でした。アトリビューションは目的ではなく、あくまで仮説の検証手段に過ぎません。アトリビューションで検証すべき仮説とは、コンバージョンするまでのユーザー一人ひとりのコミュニケーション・シナリオです。ローデータからユーザー一人ひとりのオンライン上の行動を読み取るという最も基本的で、そして最も有効な第一歩を踏み出すことで、これまでの「ナンセンス」なアトリビューションから脱却し、ビジネス成果を上げることができるのです。

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この記事の著者

大山 貴弘(オオヤマ タカヒロ)

ライター・編集者。1976年、香川県生まれ。出版社勤務、制作プロダクションを経てフリーライターに。IT系メディアを中心に、ビジネス誌や音楽媒体などで取材・ライティングを手掛ける。ホームページはこちら。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

【AD】本記事の内容は記事掲載開始時点のものです 企画・制作 株式会社翔泳社

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MarkeZine(マーケジン)
2015/09/03 10:11 https://markezine.jp/article/detail/22926