総合小売業が狙う顧客の圧倒的抱え込み
伊藤氏は、コンビニやGMSといった総合小売業のオムニチャネル化について「『最も便利だから』という理由で選んでくれる顧客を、いかに早く、そして多く獲得できるかがポイントになる」と語る。例えば米ウォルマートは、競合を圧倒する価格戦略でプラットフォーム効果を発揮、市場を寡占しているが、このようなポジションを狙っているのがアマゾンやセブンイレブンだという。
アマゾンは、ボタンを押せば決まった商品が届く注文端末「アマゾンダッシュボタン」を開発。一方セブンイレブンは、高齢者を中心ターゲットとする宅配弁当「セブンミール」を浸透させ、現代の“三河屋”網を構築しようとしている。「日用品は大した値段差がないならば、一番便利な"いつものところ"で買うものです。ここはインフラがモノを言う領域なので、各社整備を急いでいます」。

また、専門品や買い回り品、ファッションなど趣味性の強い商材がメインになる複合商業施設では「『楽しくこだわりたい』というニーズに応えられるかがカギになる」。その点で、実店舗で顧客にサービスを提供できることは大きなメリットになるという。
例えば、ファッション領域ではEC参入も進んではいるが、実はEC化率やその成長スピードは低い水準にある。これは、こだわりのものを買うときには、やはりECだけでは解決できないことが多いことを背景としており「今後この領域で勝っていくためにはこだわりに応えたり、楽しい購買体験を提供するといった実店舗が元来得意としてきた領域を、デジタルで拡張していくといったアプローチが必要になると思います」と解説する。
「カエルパルコ」の好調 先進企業はすでに成果を上げている
これを実現するにはデジタルと店舗両方の知見に基づく新しい発想が必要だ。実店舗を活かした取り組みとして伊藤氏が「新しいSC像をつくり始めている」と好例に挙げるのが、パルコの新サービス「カエルパルコ」。かつて運営していたECサイトをすっぱり閉鎖し、代わりに「実店舗の商品を各ショップ店員が撮影→サイトにアップ→売れたら店員が梱包、配送」という、似て非なるサービスを開始した。この「カエルパルコ」は非常に好調で、全体売上の2−3割を占める店舗も出てきているという。購入者は店の商圏によらないので、結果的に商圏の拡大にもつながっている 。

同時に、プロモーション費用もテレビCM中心からSNSやLINE、さらにIngressなどへシフトし、個別コミュニケーションに注力。クレジットカードに代わる顧客理解策としてスマホアプリ「ポケットパルコ」を立ち上げて、従来SCが不得意としてきたCRMにも取り組んでいる。「元々複合商業施設の雄であった百貨店も、トップ自らがそれぞれの進む方向性を強く打ち出し、存在意義の再定義を始めています」。

やるべきことは業種・業態・会社ごとに全く異なるうえに、独占性が高い市場のため、事例などはほとんど意味をなさない。一方、本質的に必要なことを見極めて、いち早く取り組みを始めている企業は成果を上げ始めている。 「他社で成功したからといって自社でも効果があるかはわからない。また短期的にうまくいっても後手に回っていてはWinner Takes Allの世界では形勢はどんどん不利になっていく。支援する我々レオニスも、オムニチャネルの本質を見極め、お客様にとって本当に必要なことを提言し続けられるよう、日々研究を重ねていきたいと思います」と伊藤氏は講演を結んだ。