ネイティブ広告が誕生した理由
野下:最後はネイティブ広告についてです。ネイティブ広告に関しては、JIAAのネイティブ広告研究会やIABも定義していますが、基本的には「デザインや内容、フォーマットが、媒体の記事・コンテンツの形式と一体化し、ユーザーの情報利用体験を妨げない広告」としています。まずネイティブ広告が注目されるようになった背景について、菅原さんにご説明をお願いします。
菅原:これまでのバナー広告は、読者からの注目を集めようとするあまり、記事の中で悪目立ちするようになりました。すると読者が、邪魔なバナーを意識の外に追いやるようになってきたんです。こうした状況に対するカウンターとして、広告業界と媒体社が一体となり「記事を読むように広告も読んでもらう」ことを真剣に考えるようになりました。このように、従来のバナーに対するアンチテーゼがネイティブ広告の出発点です。
西井:広告主にとって、スマートフォン広告に最適なネイティブ広告はとても貴重な存在です。スマホでバナー広告を展開しても、ほとんどが画面が小さいことによるミスクリックのため、内容が読まれないからです。その点、インフィード型のネイティブ広告はミスクリックも減りますし、読者にも広告と認識しながら読んでもらえる。これはとてもありがたいですね。
板澤:リクルートジョブズも、スマートフォンでの広告手段にインフィード広告を積極的に活用しています。特に、若いターゲットを獲得する手段としてネイティブ広告が持つ可能性は大きい。具体的にはツイッター広告のほか、広い意味でのネイティブ広告として、LINEのスタンプ「パン田一郎」も展開しています。またパン田一郎の公式アカウントには約1600万の友達がいて、一部のユーザーからはプッシュ通知のオプトインをいただいています。
良いネイティブ広告とは何か?
野下:パネリストの皆様が考える「良いネイティブ広告」とは何でしょうか?
菅原:ネイティブ広告の良いところは、「自分にとって有用な情報なのか、そうでないのか」をユーザー自身が判断し、読むか読まないかを決められる点にあります。ただ問題は、その内容ですね。もし普通の記事の中に、いきなり製品の仕様やスペックだけが「記事」として入ってきたら、読み手は違和感を抱くでしょう。海外では、見かけだけでなく内容もネイティブにしようという動きが高まってきているので、今後は日本でもこうした動きが加速するでしょう。
西井:「オーガニックな記事か広告か」という区分でなく、ユーザーにとって役立つ情報であれば、それがベストだと思います。たとえば僕は、一ユーザーとしてリスティング広告はとても便利だと思っています。自分が調べたいことが、SEMの結果として表示されても、それが役立つ情報ならまったく問題ありません。
問題は、今も出たように「違和感をなくす」こと。たとえばFacebook広告も最初は違和感がありましたが、今はクリエイティブが洗練され、見た目も内容も違和感のない広告が増えました。すると効果も上がりやすくなるので、ますます違和感がなくなり、ネイティブに役立つ情報が増える。時代がその流れに来ていると思います。
板澤:LINEスタンプ/公式アカウントのパン田一郎が目指しているのは「企業が提供しているサービスと認知されながら、それでも使われる存在」です。パン田一郎と会話をしたことのあるユーザーは、アカウントに対する一定の信頼を得られているため、パン田一郎からのプッシュ通知の反応が非常によくなるという発見がありました。
同じように反応が良い施策、ツイッター広告で獲得効率を上げている「激レアバイト」の告知です。これは「宇宙飛行士の体験ができるバイト」など珍しいバイトを募集するもので、広告とコンテンツの中間を狙った企画です。これがツイッター広告で非常に受けるんですね。
野下:ありがとうございます。会場の方から何か質問はございますか?
会場:ネイティブ広告のコンバージョンは、どう考えれば良いでしょうか。
板澤:最終成果を何に結びつけるかですが、良い中間地点を作っておくことが必要でしょう。たとえば先に述べた激レアバイトの場合、まず面白くて滅多にない激レアバイトにエントリーをしてもらい、その中から正規バイトへの申し込みがどこまでできるかが鍵になります。ビジネス目標としては正規バイトへの申し込みですが、そこへ至るまでの中間地点を指標としてうまく併用すると良いのではないでしょうか。
菅原:もう1つの考え方としては、拡散力ですね。具体的には、シェアやリツイートをどれだけしてもらえるかをコンバージョンと捉える考え方です。つまり、ネイティブ広告を見た人が、自分の周辺にいる人にどれだけ勧めるか、つまり「未来の顧客」をどれだけ連れてくるのか、そういう指標で考えるのもいいと思います。
西井:ネイティブ広告は、購買意欲があまりないユーザーの意欲を喚起させるという意味で、バナー広告と位置付けは同じように考えています。バナーは人目を惹くことでそれを喚起させようとしましたが、ネイティブ広告はそれを自然な形で作っていく。自然だから購買意欲を喚起させるという作り方を目指しましょう。
野下:本日は調査資料の内容を下敷きにしたパネルディスカッションを行いましたが、日進月歩で変化が起こる業界だからこそ、俯瞰した視点で動向を把握することが今後ますます重要になるのではないでしょうか。本調査資料は業界全体の把握、知識の整理に役立つ内容になっておりますので、ご興味持たれた方はぜひご一読ください。本日はありがとうございました。