組織改編で新しいジャンルへの取り組みを促進
押久保:今回は、現在14ある局・室のうち第一事業局 第一事業戦略部長を務められる瀬尾さんに、講談社のデジタルへの取り組みについてうかがいます。まずは、ご経歴を教えていただけますか?
瀬尾:ジャーナリストに憧れて、大卒では現・日経BP社に入社しました。記者採用だったのに経営企画室の配属になって落ち込んだものの、結果的に新規事業や新媒体を経験できておもしろかったですね。
『日経ビジネス』の記者職などを経て講談社へ転職し、月刊現代やFRIDAY、週刊現代で編集を担当した後、2010年にWebメディア『現代ビジネス』を創刊しました。昨春の組織改編に伴い、今は大きくノンフィクション系のコンテンツを扱う第一事業局において、Webメディアの統括や新しいメディア戦略をつくる部署をマネジメントしています。局内には並列して週刊現代編集部や、新書系を扱う企画部などがあります。
押久保:長らく使われてきた編集局の名称を廃して、事業局制へと組織改編されたことは、我々出版社にはもちろん世間的にもインパクトがありました。これはトップダウンの決定だったのでしょうか?
瀬尾:ええ。同時に30以上あった局・室の数も半分以下に再編しました。当社の野間(省伸社長)ははっきりしていて、我々の事業のコアは今後もコンテンツであり編集中心であるけれど、デジタルやグローバルなど新しいジャンルにも、これまで以上にスピード感を持って攻められるようにすると打ち出したのです。
「出版の再定義」目指し、横断的な事業を可能に
押久保:ノンフィクションという括りの第一事業局の中には、紙メディアもWebメディアも含まれていますが、横断的な発想や取り組みを促進していこうと?
瀬尾:そうですね。紙かWebかというメディアの壁を超えるだけでなく、編集、広告、販売という3事業部制も廃して局内にそれぞれ含む形としたので、その連携も強化します。そもそも出版はいい本や記事を作って終わりではありません。これらの連携は今後もっと重要になるでしょう。さらに、人材も垣根を超えて交流して、多様な事業モデルを考えないといけない。ひとことで言えば「出版の再定義」が必要でした。
押久保:それを狙ったのが、事業局制だと。
瀬尾:ええ。実際、僕は今Webメディアを見ながら新規メディアを模索し、NewsPicksを運営するユーザベースなどベンチャーへの投資の窓口、さらに五輪関係のビジネスも管轄している。幅が広すぎますね(笑)。
押久保:本当ですね(笑)。でも、その幅広さをうかがうと、確かに時代に即した再編だったのだろうと感じます。
瀬尾:出版=紙の本を売る商売と狭く捉えると、もしかしたら今後は厳しいかもしれませんが、当社は出版そのものには未来があると考えています。もちろん、僕も同じです。
もう、いい本をつくれば、ほっといても売れる時代ではありません。広告モデルが中心のデジタル媒体はもちろん、書籍編集者だって、これからはコンテンツの創出とマーケティングを一体に設計しないといけない。その点で、再編は非常にいい形でなじみつつあると思います。