データドリブンマーケティングをどう展開するか
ターゲティング像を詳細に描き出すことのメリットは、一人ひとりのニーズが把握できることだ。菅原氏は、一例として飲料メーカーのマーケティング戦略立案を挙げ、次のように解説する。
メーカーは従来、高級路線や低価格などの価格帯でブランドを作り、ブランドごとに広告戦略を立てていた。ブランドに合うクリエイティブやメッセージを作り、ブランドイメージに合った媒体に広告を出す。
これに対しDDMでは、DMPにあるデータを駆使して、ターゲットとなるユーザー像を描く。たとえば「Aさん」という人を特定したら、Aさんが抱えるニーズを把握し、訴求軸を決め、最適なブランドの広告をAさんに出す。菅原氏の例でいえば、メタボを気にしているAさんは、「最近体重が気になる」というメッセージに反応しやすいので、カロリーオフブランドの飲料の広告を出すという具合だ。

このように、データを使ってターゲット層を決める取り組みは、広告配信だけでなく、ブランド戦略にも役立つ。そこで「ストレスを解消したい」というニーズが得られたのなら、そのニーズに応えるため、商品開発やブランド展開を考えるなど、やるべきことが見えてくるし、そこに向けての意思決定の機会も増える。菅原氏は「DDMは、デジタル広告のためにだけあるのではありません」という。
DDMの適用範囲は、これだけではない。菅原氏は、「たとえばトップセールスマンのノウハウをデータとして蓄積していけば、そのノウハウを社内に展開することも可能です」と具体例を挙げる。トップセールスマンのノウハウをデータとして蓄積し、分析していけば、応対の仕方や会話の流れなどの成功パターンが見えてくる。そうしたシナリオを社員で共有し、同じシナリオをなぞってPDCAを回していけば、より洗練された成功パターンが確立し、社内全体でそのシナリオを共有できる。
意思決定の数を増やせば、予測精度はより高まる
もう1つ、DDMの重要なポイントがある。それはリアルタイム性だ。
たとえばデジタル広告の配信は、現在自動入札の仕組みが取り入れられている。自動入札とは、データに基づきターゲット層が見ていると予測されるページの広告枠をリアルタイムに入札して買い付ける仕組みのこと。リアルタイムに広告枠の買い付けを行えるため、レスポンスの良い時に大きく投資し、反応が小さくなったら投資を減らすという柔軟な対応ができるようになる。これがスポットのテレビCMであれば、出稿の1カ月前に申し込みが必要であり、フィードバックが得られるまでにさらに1カ月かかってしまう。これでは市場スピードに到底追いつけない。
しかも、意思決定の回数が多くなるほど、フィードバックが蓄積される。なので予測精度が上がり、得られるリターンもまた高くなるわけだ。
菅原氏は、「このように、64%の経営者が必須とするDDMですが、実践に向けては、『意思決定する機会(数)を増やす』『分析環境を整える』『リアルタイム性の実現』『大容量データの収集』『共通プラットフォームと顧客IDの統一』といった5つの挑戦が必要です。その挑戦に、ITの力は欠かせません。ぜひDDMの実践に向け、マーケティングと綿密な体制作りを図ってください」と締めくくった。