マーケティングとITの融合はなぜ進むのか
2016年2月に電通が発表した「2015年 日本の広告費」によると、インターネット広告費はこの4年間ずっと伸び続けている。このように広告のデジタルシフトが進む中、広告効果の検証や分析はもちろん、広告配信そのものの仕組みや、そのほかのマーケティング施策においてもテクノロジーは欠かせない存在になった。「マーケターにもITやデジタル知識が必要」といわれるのはこのためだ。これはIT部門も同じで「IT部門もマーケティング知識が必要」になってきているのだ。
SupershipでCMOを務める菅原健一氏は、企業のITを統括するCIO、マーケティング責任者であるCMOに向けて、次のように提言する。
「これまでITとマーケティングは別物と捉えられていましたが、ここ数年、特に海外企業では『マーケティング全体の意思決定にデータを活用しよう』という勢いが強くなっています。これをデータドリブンマーケティング(Data Driven Marketing:以下、DDM)と呼びます。この流れは今後、さらに強くなるでしょう。もはやITは切り離せないものとして、CIOとCMO両方のノウハウや知見を合わせることが必要です」(菅原氏)
データドリブンマーケティングとデジタルマーケティングの違い
講演テーマであるDDMだが、菅原氏によると「DDMは、デジタルマーケティングや広告配信の話と誤解されやすい」という。デジタルマーケティングやデジタル広告配信は、施策そのものにデジタルを使うことだが、菅原氏がいうDDMの“データドリブン”とは「意思決定にデータを活用する/データを使った意思決定をする」という意味だ。そして、この意思決定の回数を増やすことで、経営に大きなインパクトを与えるという。
データドリブンに関しては、64%のグローバル企業のトップが「競争を勝ち抜くためにデータは欠かせない」と述べているそうだ。そして、データドリブンを実践している企業とそうでない企業を比較すると、前者の利益率は後者の6倍にも上るという。経験や勘ではなく、数字をベースに予測することで、より正確な予測が可能になるからだ。
では、どのようにDDMを実践していくか。菅原氏は、「DDMで最も大切なポイントは、『いかに意思決定の数を増やすか』という点です」と述べる。
実は、DDMには“ある法則”がある。それは「コンセプトを正しく理解して実践すれば、予測の精度は右肩上がりになる」という法則だ。
菅原氏によると、この法則は「半導体集積回路のトランジスタ数は、およそ2年ごとに倍になる」という「ムーアの法則」と似ているという。半導体とは、データを処理する頭脳のようなもので、トランジスタ数が上がるほどデータの処理能力は高まる。コンピュータはつい最近までこの法則に則って指数関数的に進化し、現在は爆発的なデータ量を瞬時に処理できるまでに性能が向上した。
これと同じで、DDMを実践してデータが増えれば増えるほど、できることの範囲は広がる。仮にある店舗では、来店者数のカウントや、カメラを使った画像認識で、来店者の年代や性別を推測してそのデータを蓄積しているとしよう。これに天気情報を組み合わせれば、雨の日や晴れの日の来店傾向や顧客層が見えてくる。同じように、データがあれば「社名の検索回数」と「来店者数」の相関関係や、そのほか別の傾向もわかってくる可能性がある。また、データを使って意思決定し、そのフィードバックを得ることで、予測精度はますます上がる。DDMが経営者の関心を呼ぶのは、このためだ。