課題は2,400万人を超えるカード会員のデータ管理
三井住友カードは、日本国内屈指の老舗のカード会社であり、会員数は2,400万人を超える。カード会員に商品やサービスを企画し利用してもらうことを主軸にした会員事業、百貨店や各地の店舗でクレジットカードを使えるようにインフラを整える加盟店事業、金融事業のシステムやコールセンターなどの受託を請け負う受託事業の3つが、事業の柱だ。
会員事業は多数の会員に支えられ、その規模を支えるべく多くの事業部が存在する。これまで、膨大なボリュームの顧客分析データが事業部単位で管理されてきた。
「明確な課題として、私たちからのメールマガジンの定期購読を拒否する数が年々増えていることがあります。残念なことに、カード会社からのインフォメーションに対する期待度が下がっている事実が見えていました。その背景には、私たちからお客様へのアプローチが、企業事由のタイミングで“伝えたいことを伝える”という一方的なスタンスだったことがあります」(佐々木氏)
はじめの一歩は、お客様の望むコミュニケーションを徹底的に洗い出すこと
企業中心的なメッセージの配信という姿勢が生んだ、会員からのメルマガ受信拒否という現実。重く受け止めながらも、会社としては、その数を上回る新規会員獲得があれば、メルマガ購読者は増えるという現実もあった。
しかし、カード会社のLTVは、カードを持つことができる18歳以上から、利用を続ける限り、生涯にわたった非常に長いスパンで捉えるべきものだ。
「今後も続く少子高齢化という状況と、厳しい競合会社との環境において、求められるのは“お客様に寄り添ったコミュニケーション”ではないか? と考えました」(佐々木氏)
Web基盤を通じてさまざまな顧客とつながり、コミュニケーションを行っているネットビジネス事業部が中心となって経営層も巻き込み、全面的な顧客コミュニケーションの見直しへと舵を切り始める。
「お客様からすれば同じ三井住友カードからのメッセージなのに、私たちからは事業部単位でメールを送っていた結果、中には1カ月で一人のお客様に何通もメールが届くという例も出ていました。昨今、さまざまな企業がOne to Oneコミュニケーションを謳い、私たちなりに念頭に置いたプロモーションをやっていた結果が真逆の事態でした。この点を猛省し、根本的な改善へと踏み出しました」(佐々木氏)
こうして、Salesforce Marketing Cloud(以下、Marketing Cloud)の活用も含めたコミュニケーション改革が始まった。まずネットビジネス事業部で行ったことは、「お客様の興味・関心」と「三井住友カードが伝えたいこと」の両方が重なり合っている箇所にフォーカス、その箇所の情報を求めているお客様に届けられる体制、システムの構築だ。
「本来、お客様が望むコミュニケーションについて、現場で感じるアイデアを徹底的に洗い出しました。社内では、お客様と直接接点を持つ事業部、たとえば日々お客様とやり取りをしているコールセンター部門や、カードが不在で戻ってきた際に処理を行う事務部門など全社横断的に協力を依頼し、全部で500以上のアイデアが集まりました。そこから、整理を進め、約半数近くのアイデアから優先順位を決めてコミュニケーションの変革に着手しました」(辻本氏)
三井住友カードが提供する「お客様の当たり前」を支えるテクノロジーとは?
現場からアイディアを集め、お客さまが困ったり悩む前に情報を提供する。あらたなコミュニケーションへと変革を進める三井住友カード。同社を強力にサポートするMarketing Cloudは、具体的にどのように機能しているのでしょうか?
現在、Marketing Cloudの製品デモ動画を公開中です。記事とあわせてぜひ、ご覧ください!動画はこちらから。
各事業で散在するデータを統合し一元管理する
三井住友カードでは、さまざまなデータウェアハウス(以下、DWH)が存在していた。One to Oneを意識していたとはいえ、データを一元管理できておらず、顧客データが各DWHに分散して管理されていたわけだ。
無論、配信システムも乱立することとなり、メール配信システムだけでもASPやオンプレミスを複数併用し、お客様の接点となるべきツールがまちまちという状態だった。
そこで、2014年から全社的なデジタルコミュニケーションの最適化を目指し、2015年からMarketing Cloudの採用が決定する。狙いは、「お客様データの統合」と、「データの一元管理をしながら、お客様にとって最適な方法(Web、メール、SMS、アプリ)でのコミュニケーション」の実行である。
「これまで、私たちのもとで散在して蓄積されてきたデータを統合し、一元管理すること。しかもセキュアに実行できるMarketing Cloudによって、具体的にお客様に寄り添うためのエンジンを手に入れることができました」と佐々木氏。次は顧客視点でのコミュニケーションを重ねた先に、各事業部が成し遂げたいKPIの達成も約束される、という循環へとつなげたいと語る。
では、顧客にとって最適なコミュニケーションとはどのようなものか。辻本氏は次のように語る。
「一人ひとりのお客様に寄り添うという原点に立ち返り、顧客接点を根本的に見直すことから始めました。たとえば、新規カードを発送したお客様にカードの不在不着が起きたとします。お客様は配送業者からの不在通知にも気づけず、私たちの元にカードが返ってくるケースがこれまでも一定数は発生しています。
本来手元にあるはずのものがなかなか届かないので、お客様に不愉快な思いをさせてしまっています。またカードが不着になったまま解約になった場合の逸失利益を考えれば、これだけでも相当な額の損失が発生します。そこで、Marketing Cloudによって不着をトリガーにしてメールを送ることを可能にし、カードが不着になっていることにお客様が気づけるようにしました」(辻本氏)
緻密なカスタマージャーニーマップを作成し、事業改革に活用
並行して三井住友カードが行ったのは、一つひとつの事象に対して、従来のコミュニケーションを再設計することだった。かなり緻密なカスタマージャーニーマップを作成しているという。
「私たちの場合、お客様がカードを申し込んでからカードを受け取り、初回利用を経て、利用回数を重ねていただきながらエンゲージメントを深めていくという流れが想定できます。さらに、カードを更新していただきながら、ロイヤリティ化するという一連の横軸(LTV)を損なわず、一人ひとりのお客様と常に良質良好な関係性を築き上げていきたい。そのためにも、各フェーズで考えられる出来事・アクシデントを顧客目線で可視化していきました」(佐々木氏)
本記事で公開しているのは、あくまで一接点のカスタマージャーニーマップのイメージであるが、各フェーズで細かく想定していることがわかる。たとえば、顧客行動を軸に想定を変えることに、まさしく“一人ひとり”に着目しようとする、三井住友カードの意思が表れている。
こうした全社的な動きへと加速できたのは、各部署に意識改革への理解を求めたと同時に、経営サイドの経営課題認識も、非常に近い感覚だったことが大きな追い風になったという。
「経営層からも、顧客エクスペリエンス(Customer eXperience:CX)の追求というキーワードが出てきていました。顧客エクスペリエンスを徹底的に追求しながら、収益も伸ばしていこう、と。こうした経営層からのメッセージが、現場から生まれた危機管理意識と一致したことで、全社的にCX重視の企業マインドが醸成されていきました」(佐々木氏)
三井住友カードが提供する「お客様の当たり前」を支えるテクノロジーとは?
現場からアイディアを集め、お客さまが困ったり悩む前に情報を提供する。あらたなコミュニケーションへと変革を進める三井住友カード。同社を強力にサポートするMarketing Cloudは、具体的にどのように機能しているのでしょうか?
現在、Marketing Cloudの製品デモ動画を公開中です。記事とあわせてぜひ、ご覧ください!動画はこちらから。
配信の最適化が生んだ、メール開封率2〜3倍の向上
Marketing Cloud導入や全社的なCXへの意識改革を背景に、2016年7月から部署横断的に発足したマーケティング部とネットビジネス事業部が中心となり、CXの最適化に向けた具体的なアクションが始まっている。
現時点ですでに、Marketing Cloudの成果としてメール開封率の大幅な改善が挙げられる。従来、メール開封率は平均20%弱であったのが、2〜3倍に向上したという。
「お客様の行動をトリガーにしてメールが配信できるからこそです。一人ひとりのお客様に対して因果関係を考慮しながら、今までより1カ月前のアナウンスのほうがいいのか、それとも1週間前なのか、2日前なのかなど、最善の配信タイミングを模索するようにしています」(辻本氏)
もちろん、この成果は各事業部の理解があってこそだ。ネットビジネス事業部が心がけているのが、各部署とKPIへのスタンスを共有することだ。顧客満足度を高めることだけに専心せず、高めながら事業収益を追求する。経営層からのメッセージとも通じる姿勢だ。
「こうした取り組みは、決して短期的にすぐ効果が出るものではありません。長期的に追い求めながら、お客様側から“なんだか、三井住友カードはいい感じだね”“気が利いているカードだね”といった気持ちが少しずつ醸成されて、結果として事業収益の向上につながっていくものです。だからこそ、各事業部と密接に連携しながら、じっくりと取り組んでいきます」(佐々木氏)
今後も「お客様の当たり前」を追求する
ここまでを通じて印象深いのは、顧客視点で“当たり前にできること”を追求している点だ。
「顧客エクスペリエンスと聞くと、中には感動体験や、予想だにしないサプライズといったスペシャリティを想像する人も多いかもしれません。ですが、私たちは“お客様が不満を感じることなくカードを利用できること”という日常性、ノーマルの提供に徹しています」と佐々木氏。いわゆる「当たり前」を提供すること、ここにカード会社としてのプロフェッショナルな意識、矜持を垣間みる。
「数字の追求を優先するとはじかれていたお客様ニーズに応えていくことが、会社の未来を支えると考えています。行動履歴を見て、Webでのアクションから事前にお客様の動きを察知し通知できるような、お客様にとって最適なあり方に、今後も挑み続けます」(佐々木氏)
「2016年7月から具体的なアクションを開始しました。まだまだ小ロットでの展開ですが、目に見えた効果が出ているので、もっと社内にも効果を示しながら、CXの追求が生む効用を浸透させたいです。また、WEBだけでなく、コールセンター部門との連携も重要であり、お客様が選択するどのチャネルでも一貫したコミュニケーションができる基盤を早く整えていきたい」(辻本氏)
佐々木氏、辻本氏はこれからの挑戦に意欲を見せる。企業一丸となってCXの追求を進める三井住友カードが、顧客とどのような関係を作っていくのか。また、Marketing Cloudはどのようなサポートをするのか。これからの展開が楽しみだ。
カスタマージャーニー研究プロジェクトチームのコメント
加藤: 2,400万人もの会員を有する三井住友カード様が、「全社で顧客エクスペリエンスを最適化」する方向に舵を切るのは、簡単な道ではありません。本事例から学べることとは、テクノロジー活用の前に、顧客に向き合ってコミュニケーションを根本から考え直すという顧客理念が、経営層よりしっかりと共有されている点です。
さらに、理念を形にできているのは、ネットビジネス事業部の全社横断的なプロジェクトを遂行する力強いリーダーシップがあるからこそだと思います。マーケターは、シナリオ作りのアプローチはもちろん、社内における「マーケターとしてのリーダーシップ」のあり方を本インタビューから学ぶことができます。
押久保::国民的人気番組『サザエさん』に登場する三河屋さん。サザエさんが三河屋さんを贔屓にしているのは一目瞭然です。その理由は注文した商品を宅配してくれるという当たり前のことに加え、サザエさんの好みや思考を先取りした「気が利く」提案や会話があるからだと思います。デジタルを介したエンゲージメントの理想形とは、「気が利くね」という当たり前かつ心地よいコミュニケーションの実現と言えるのではないでしょうか。
カスタマージャーニー研究プロジェクトとは?
「カスタマージャーニー」、顧客の一連のブランド体験を旅に例えた言葉。デジタルやリアルの接点が交差し、顧客の行動が複雑化する中、「真の顧客視点」に立って、マーケティングを実践する重要性が増してきました。
カスタマージャーニーに基づいたマーケティングの必要性は、その認知が進む一方で、「きちんと“顧客視点に基づいたシナリオ”を作成し、運用できている企業はまだまだ少ない」多くのマーケターに意見を聞くと、そのように認識されています。
今回、押久保率いるMarkeZine編集部とセールスフォース・ドットコム マーケティングディレクターとして、各企業とジャーニーを研究してきた加藤希尊氏を中心に、共同でカスタマージャーニー研究プロジェクトを立ち上げました。本プロジェクトでは、「顧客視点のマーケティング」における成功例を取り上げ、様々なアプローチ方法をご紹介していきます。その他の成功例はこちら。
三井住友カードが提供する「お客様の当たり前」を支えるテクノロジーとは?
現場からアイディアを集め、お客さまが困ったり悩む前に情報を提供する。あらたなコミュニケーションへと変革を進める三井住友カード。同社を強力にサポートするMarketing Cloudは、具体的にどのように機能しているのでしょうか?
現在、Marketing Cloudの製品デモ動画を公開中です。記事とあわせてぜひ、ご覧ください!動画はこちらから。