自動運転が変える車内外空間の未来
1ページ目の後半で、車内空間が劇的に変貌するだろう点に言及したが、メルセデス・ベンツは自動運転のコンセプトムービーの中で「移動するリビング・スペースへ」という象徴的なメッセージを発している。

このコンセプトムービーやイメージの中で、テーブルやドアがタッチ・ディスプレイとなっている様子が確認できる。かなり直接的な形ではあるが、車内空間がメディア空間となるイメージが具体的に想起できるだろう。また、このシーンから発展させてAR/VRと融合した体験が提供されていくことも容易に想像できる。AR/VRが自動運転と相まって一気に普及していく可能性もある。
さらに、当連載の第6回で解説したAIアシスタントも親和性が高い。車内空間に特化したAIアシスタントがプリインストールされた形で提供されるとともに、3rdParty製のAIアシスタントも多々提供されるだろう。車内外の情報を統合的に扱い、目的地や移動中の周辺情報の提示、観光案内のような機能を提供するようなAIアシスタントになるだろうか。
自動車×AIアシスタントの領域では、すでにかなり具体的な取り組みが一部で進んでおり、ゼネラル・モーターズとIBMは「Onstar Go」と呼ばれるプラットフォームを2017年に提供する予定だと発表している※4。具体的な体験のイメージとしては「燃料不足で走行を取りやめ、燃料ポンプを始動させてダッシュボードから支払いをする、出先でコーヒーを注文する、個人の性格やリアルタイムの場所に合わせたニュースや車内エンターテイメントを入手する、など」だと言う。高い完成度でこれが提供されれば、かなり先進的な事例となるだろう。
※4 IBM社ニュースリリース「OnStarとWatsonの出会い」
広告やマーケティングへの影響
また、車内空間に限らず、屋外広告/デジタル・サイネージも変わると思われる。自動運転が実現し普及したときに、(元)ドライバーを含む搭乗者が車外にどれだけ注意を払うのか、あるいは車内空間に閉じたメディア空間として成立していくのか。それ次第で屋外広告の価値は変動するだろうが、いずれにしても、通信端末あるいはIoTデバイスとしての自動車と接続することによって、デジタル・サイネージは急速に高度化していくものと想定される。
今後、車内外の空間をシームレスに接続する新しいマーケティング手法なども開発されるだろう。すでに言及したARやAIアシスタント、デジタル・サイネージなどを相互連携して一体感のあるストーリーやメッセージを訴求していくような手法も生まれると考えられるし、それを高度に洗練して提供できればこれまでにないユーザ体験が創出可能となる。
2020年、オリンピックイヤーにレベル3が実現されているとすれば、数年後には自動運転車が街中を走っているのだ。この領域における広告事業やマーケティングソリューション提供の各社による競争も、そう遠くない未来に激化していくだろう。
(DAC プロダクト開発本部 第一データ解析部 部長 さつま)