バリューコマースサミット 2017開催 アフィリエイトもスマホシフト
2017年3月10日、六本木のグランドハイアットにて「バリューコマースサミット 2017」が開催された。同社サービスを利用している広告主、法人・個人のアフィリエイトサイト運営者などが一堂に会し、華々しい雰囲気の中で催された同イベントでは、まず代表取締役社長の香川仁氏が登壇。
同社の2016年度売上が過去最高を更新したことなどが報告されたほか、成果報酬金額でスマートフォンの比率がついに50%を超えたことが明かされ、アフィリエイト業界にも確実にスマホシフトの潮流が表れていることを感じさせる内容であった。
その後、執行役員でありCSOの長谷川拓氏、アフィリエイト本部長伊藤孝司氏が続いて登壇し、EC市場の伸び、同社が展開するマーケティングオートメーションツール「R∞(アール・エイト)」を活用したCRM事業の展開や、今後の同社の展望についてなどが語られた。
MA、EC、メディアのプロによるパネルディスカッション。テーマは「マーケティングとEC」
続いて、イベントはパネルディスカッションに移行。バリューコマース執行役員である加來幹久氏、親会社のヤフーのショッピングカンパニー長で、同社取締役でもある小澤隆生氏を迎え、マーケティング専門メディア「MarkeZine」編集長の押久保剛がモデレーターを担い、進行した。
今回のディスカッションにおけるメインテーマは「マーケティングとEC」に設定され、EC業界の現状や今後の動向、それを受け、進化を続けるマーケティグテクノロジーをいかに活用すべきかが語られた。
押久保(MarkeZine) まずは最近のEC業界の動向について、どのように見ていらっしゃるかお聞かせください。
小澤(ヤフー) ECにかかわるようになって20年が経ちましたが、市場規模は今後もますます拡大していくことは間違いありません。日本全体の経済を見渡しても、これほど急成長している市場はないでしょう。そうなると当然、競争が激しくなります。各社、ポイントを何倍にします、注文から何時間で届けますといったサービス合戦の真っ只中です。これらは主に囲い込みのためであって、採算度外視なところがあるでしょう。いわば「序盤の殴り合い」をやっている状況と言っていいかもしれません。
加來(バリューコマース) インターネットでモノを買うことが当たり前になった今、「EC」という言葉の定義が拡大しているのは感じます。まだEC化できていないモノやサービスが見つかったり、もっと先鋭化したECのありかたが出て来るかもしれない。我々が気づいていない可能性がまだまだ転がっている、チャンスに満ちた時代だとも言えます。
「バケツの穴」をふさぐためのMA。Yahoo!ショッピングでは5,000以上の店舗に導入
競争が激化する中、EC事業の売上や効率アップのために考えられる対策は多々あるが、近年最も注目されているマーケティングツールのひとつが、マーケティングオートメーション(以下、MA)だ。
押久保(MarkeZine) 最近注目のMAについて、バリューコマースさんでは「R∞」を提供されています。それをYahoo!ショッピングのストアさん向けに、「STORE's R∞(ストアーズ・アールエイト)」として展開されていますよね。このお取り組みについてお聞かせください。
小澤(ヤフー) ヤフーはそもそも人がたくさん来るところですから、Yahoo!ショッピングへの出店は銀座の一等地に店をかまえるようなもの。しかし、肝心の商品が少ない、価格が安いわけでもないという残念な状態が長年続いていました。これを「バケツに穴が開いている」と表現しています。いくら水、要するにお客様を流し込んでも、漏れてしまう状態ですね。その穴を数値化するとCVRになると思いますし、水がたまればその中で回遊、すなわちリピートにつながります。
商品や価格についての対策のほか、バケツの穴をふさぐ手段のひとつとして「STORE's R∞」を導入したところ、如実に数字が出たというわけです。すでに5,000店舗以上が「STORE's R∞」を導入しており、経由取扱高は、売上構成比の平均で18%以上にもなります。利用店舗のツール経由でのCVRは、25%以上の効果につながっています。
加來(バリューコマース) とにかく複雑になりがちなMAを、シンプルに提供できたことが勝因ではないかと考えています。中小規模のストアさんにMAを活用したCRM施策をオススメする場合、まずMAとは何かを理解していただくところから始める必要があるため、成果につながるまで時間がかかります。そこで「STORE's R∞」では、サービスやサポートをある程度パッケージング化し、すぐに始められる状態で提供することにしました。
MAを難しく考え過ぎ。とにかく始めて、PDCAを回すのが先決
Yahoo!ショッピングでの実績が示すとおり、ECのマーケティングにおいてもMA、その先にあるCRMが重要になってくるのは各社共通認識のようだ。しかし、とかく「とっつきにくく難しい」「手間の割に結果が出ない」といったイメージが付きまとうのも事実である。MAを上手に活用するために、EC事業者は何をすべきだろうか。
加來(バリューコマース) 皆さん、難しく考えすぎているかもしれません。以前、「張り切ってセグメントして、キャンペーンを20個作りました」というクライアントがいました。しかし、あまりに細かくセグメントしすぎたため、該当する顧客の出現率が0%という結果になってしまった。実は、こういった失敗例はけっこうあります。難しく考えすぎず、細分しすぎず、「こうなったらいいな」くらいの思いつきからまず始めて、PDCAをいかに速く回すかが重要ではないでしょうか。
小澤(ヤフー) 便利な道具ですから、うまく活用したいですよね。購入後何ヶ月空いているお客様には何割引で訴求、年何回以上購入してくださるお客様にはこれだけのクーポンといった、いつ、どんなマーケティング施策を、誰に行ったらいいかを、コンピューターが自動でやってくれるわけですから。それを考え、実行する店員さんを育てようとしたら、一朝一夕では難しい。導入しない手はないと思いますね。
スマホと名寄せ。ECを変えた2つの技術革新と会員化の流れ
MAのようなツールが出てきた背景には、テクノロジーの進化と、優良顧客との関係をより密なものにしていこうとする、サービス提供側の変化があるようだ。
押久保(MarkeZine) 最近、大手企業の方とお話しすると、MAを始めとしたデジタルマーケティングの活用の幅がすごく広がっていると感じます。
加來(バリューコマース) 一番大きいのは、やはりスマートフォンだと思います。メディアへの接点が従来のテレビや紙媒体からシフトし、デジタルへの接触時間が圧倒的に増えました。その影響で、これまでマーケティング施策は、「デジタル」と「リアル」、2種類のチャネルで別々に考えられてきましたが、それがデジタルを中心にすべきだという方向に進んでいます。
もうひとつ重要なのが、デジタルとリアルをつなげる名寄せができるようになってきたことです。私は過去、100サイト以上の顧客分析を行ってきましたが、やはり2対8の法則は存在します。2~3割のお客様が7~8割の売上を構成しているのは間違いないので、そういった優良会員を見つけ出すことが重要になってきます。その際、ソーシャルを見て来店した、お店でこれを買ったお客様がECサイトに来たといった具合に、デジタルとリアルをつなげて分析できるようになったのは大きいと思います。
小澤(ヤフー) 優良なユーザーの会員化ですよね。Amazonプライムしかり、楽天カードしかり。ECではこの流れが主流になると思います。
「LTVマーケティング元年」の今年。手本にすべきは旅行業界
EC業界の潮流、MAの活用法などさまざまな話題が飛び交った今回のパネルディスカッション。最後に今後の展望について両名の口から語られ、締めくくりとされた。
押久保(MarkeZine) 最後におふたりから、今後のECやマーケティング領域に関してひとことずついただけますか。
加來(バリューコマース) 今年は「LTVマーケティング元年」だと思っています。よく「個」客対応などと言いますが、どんなお客様がロイヤルカスタマーになりそうなのかを見極めることが、今後のEC事業者にとって重要になるでしょう。ロイヤルカスタマーが増えれば、全体のピラミッドは必ず大きくなります。いかに優良顧客としっかり向き合えるかが、ECやデジタルマーケティングを成功に導く鍵になると思います。
小澤(ヤフー) MAはCVRやリピートに効くツールです。これをバランス良く使いこなすことが重要で、いい道具を選べば、結果が伴うことはYahoo!ショッピングで実証済みなわけです。それに関連して、今後のECを占うという意味で、注目したいのは旅行業界です。
ここは最も競争が激しい。なぜなら、物流が無関係だからです。どこから買っても同じなので、お客様はすぐ乗り換える。その分、顧客の奪い合いが熾烈になっています。MAにしてもマーケティングにしても、一番頑張っているのは旅行業界だというのが私の認識です。これらのサイトをよくご覧になっていただくと、勉強になるのではと思います。(了)