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第106号(2024年10月号)
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Twitterプロモーションの最新動向を追う(AD)

科学的アプローチに基づく映画『バイオハザード:ザ・ファイナル』のTwitter活用

 人気ゲームを原作にした実写映画シリーズ最終章『バイオハザード:ザ・ファイナル』は初登場No.1、3週連続興行収入No.1を達成した。10代を中心に支持され、公開1週目の鑑賞意欲の調査では、15歳から19歳男性および、20代男性における鑑賞意欲のスコアは他の作品に比べ2倍以上の結果となった。このようなヒットの背景には緻密なデータ分析を基に、リアルイベントや屋外広告などとTwitterを連動させることによって、ターゲットの中で自然で継続的な盛り上がりを形成するための戦術があった。詳しい取り組みを取材した。

3週連続興行収入No.1達成!大ヒット映画のプロモーション施策

 映画『バイオハザード』シリーズといえば、人気ゲームが原作の実写映画。2002年から15年にわたって熱烈な支持を受け続けた作品の6作目にして、最終章となったのが2016年12月に公開された『バイオハザード:ザ・ファイナル』だ。お正月映画市場において、初登場No.1、3週連続興行収入No.1を達成した。

 この結果に至った背景には作品の人気も然ることながら、マーケターのチャレンジなしには語れない。データ分析を基にターゲット層を絞り、彼らに刺さるよう様々な施策を仕掛けた。具体的には、Twitter上でライブ配信が可能なPeriscope(ペリスコープ)やツイートの自動返信、様々なフォーマットのクリエイティブを使ったTwitterのキャンペーンを、リアルイベントでのパブリシティや屋外広告などと連動させ、継続的な話題化を促し、プロモーションを成功へ導いたという。今回、取り組みの詳細を紹介したい。

左から株式会社ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント 映画 マーケティング部 エグゼクティブディレクター 堀内啓氏、同部 高松悠希氏、GEM Partners 株式会社 シニアディレクター 星野有香氏
左から株式会社ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント 映画 マーケティング部
エグゼクティブディレクター 堀内啓氏、同部 高松悠希氏
GEM Partners株式会社 シニアディレクター 星野有香氏

 堀内氏は、ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント(以下、ソニー・ピクチャーズ)にてデジタル、クリエイティブ、メディアバイイングを統括している。高松氏は今作を含めて、同社のデジタルマーケティングのプランニングから実施までを担当している。

 GEM Partnersは、映画に特化したデータ分析および、それに基づくデジタルマーケティング事業を展開する。星野氏は今回、過去作品や競合作品を分析することで得られた知見を基に、マーケティング施策における助言を行った。

お正月映画市場で勝負した理由

 年末年始のいわゆる「お正月映画」は観客動員数が増えるタイミングだ。当然、他社も主力作品を送り出してくる。それでも、『バイオハザード:ザ・ファイナル』の公開は2016年12月23日に設定された。勝負をかけた理由は何か? 堀内氏は次のように語る。

 「映画『バイオハザード』は今回で6作目。トータルで15年続いていますが、過去の動員データを分析すると、どの作品も必ずメインの客層は10代と中高年の男性。常に10代男性の支持を受けている作品ということがわかります。一方で、年末年始に公開されるであろう競合作品シリーズの過去の動員層を調べると、10代の男性をメインターゲットとする作品が非常に少なかった。これは大きな決め手の1つになりました」(堀内氏)

 また、GEM Partners社提供のデータを基に、映画館で映画を鑑賞する本数が年間1~2本程度のライト層が興味関心を持ちやすいというインサイトを掴んだ。上記を踏まえた上で、今回の施策のメインターゲットを10代ライト層に設定した。堀内氏はそのメインターゲットにリーチするための最適なプロモーション施策の基盤として、10代に最も強いメディアであるTwitterを選んだ。

 「もちろん大前提として、10代に対しコミュニケーションを展開するならばTwitterは不可欠と認識していました。より数値としての裏付けをとることができたのが2016年8月に行った最初のプロモーションです。他のメディアに比べてTwitter上での盛り上がりが群を抜いていました。Twitterの拡散性の高さは無視できないと改めて実感しましたね」(星野氏)

 しかし、局所的な話題化だけでは公開日まで作品の鑑賞意欲を維持することが難しい。12月の公開日まで盛り上がりを継続するためには様々な仕掛けが必要だ。

 「媒体特性に沿って、拡散性・季節性・リアルとの連動という軸を選定し、施策を立案しました」と高松氏は語る。では、具体的にどのようなことをしたのだろうか?

リアルイベント×Twitterで10代ライト層における話題化を狙う

 具体的に、時系列で施策の流れを見ていきたい。

“バイオの日”に予告開始、世界最速で映像解禁

 「以前から日本において8月10日は“バイオの日”としてファンの間で認知されています。この日の盛り上がりを最大化すべく、グローバルにおけるマーケティング立ち上げを日本の“バイオの日”に合わせることができないか、本社に交渉しました」(高松氏)

 8月10日にTwitter上で緊急告知としてツイートを展開し、同予告ツイートをリツイートしてくれた利用者に、デジタルインセンティブがダウンロードできるURLを自動返信するフォロー&リツイートキャンペーンを14日まで実施。

さらに、17日に世界で初めてビジュアルを解禁し、Twitterで拡散するとともに、渋谷でリアルイベントを開催した。“バイオの日”に盛り上がりを作り、映像解禁までその盛り上がりを維持したわけだ。なお、本フォロー&リツイートキャンペーンの結果として、実施期間5日で11万ダウンロードを達成、またイベントに関する話題も多くツイートされた。

日本独自の戦略――10代人気タレント×Twitter

 本作では、日本で10代に人気のタレント:ローラがキャスティングされており、大きな話題となった。本来、グローバルでクリエイティブが統一されるケースが多い中、市場での影響度を鑑みて、日本独自のキャンペーン戦略を打ち立てることの重要性を本国に訴えた。今回ローラをハロウィンキャンペーンにおける広告のメインビジュアルに据えたが、それが実現した理由もそこにある。

 本キャンペーンでは、10月24日に白いドレスを着た『バイオハザード』とはかけ離れたイメージのローラをメインビジュアルに据えた屋外広告を展開。それを10月31日にゾンビのメイクをしたバージョンに貼り替えるというものであった。突如様変わりした屋外広告は人々にインパクトを与えた。

 この時、Twitter上でも連動して自動返信キャンペーンを実施。キャンペーンツイートをリツイートしてくれた利用者に対し、ゾンビバージョンのクリエイティブがハロウィン当日に届くという仕掛けだ。映画宣伝トラッキングレポート「CATS(Cinema Analytical Tracking Survey/キャッツ)※1」によると、リアルキャンペーンとTwitterの連動によって、同作の鑑賞意欲が大きく伸長する結果が出たという。

※1 GEM Partners社提供

ワールドプレミアをリアルタイムコンテンツ×プロモトレンドで盛り上げ

 海外映画の公開順は製作国(本作品においては米国)より後ろになることが通例だが、今作はマーケットの重要性を鑑み、特別に全世界に先駆けて日本で最初に公開されることとなった。それに伴い、映画PRにおける最大のイベントであるワールドプレミアを12月13日に日本で開催することが可能となった。

 『バイオハザード:ザ・ファイナル』最大のイベントともいえる同日、Twitter上でプロモトレンドを実施した。特筆すべきは、1日をイベント前・中・後の3段階に分け、各フェーズで異なったコンテンツをプロモトレンド上で提供したことである。

 まず、日本語吹き替え版主題歌であるL'Arc-en-Ciel「Don’t be Afraid」のミュージックビデオをフルバージョンで1日限定公開。イベント前の夕方までに1万を超えるリツイートを記録し、初動で注目を集めることに成功した。

 イベント中はレッドカーペットの様子をPeriscopeでライブ配信に切り替え、現場の臨場感を伝えた。さらに、イベント終了後にはライブ配信した動画のハイライトを編集して配信し、好評を博した。イベント後の動画は当日30万回再生され、最終的には55万回まで伸びた。

参考リンク

https://twitter.com/biomovieJP/status/808325558392078337

https://twitter.com/biomovieJP/status/808325558392078337

https://twitter.com/biomovieJP/status/808325558392078337

最新フォーマットで公開カウントダウン

 ワールドプレミアで醸成した熱量を維持するために、一般公開直前の12月19日~23日には、当時最新フォーマットであった正方形動画を使ったカウントダウンを実施。オーガニック投稿にも関わらず、公開当日の動画は9,000リツイートにのぼった(編集部注:Twitterで正方形動画の広告フォーマットが公式に提供開始されたのは2017年から。今回はベータ版を活用)。

徹底的なローカライゼーション:年賀状に発想を得たサステイニング・キャンペーン

 「Twitterの季節性を活かした施策の1つとして、ミラ・ジョヴォヴィッチ演じるアリスから年賀状のようなお正月の挨拶が来たら面白いだろうと考えました。映画業界にとってクリエイティブは重要な資産ですから、簡単にパロディはさせてもらえません。本社に日本の年賀状文化やTwitterにおける季節イベントの重要性を説明し、この企画の許可をもらえるよう説得しました。8月からの施策の積み重ねによって数字に裏付けされた効果が示せたことも、許諾を得られた一因だと思います」(高松氏)

 上記交渉により、屋外ポスターとTwitterが連動した大規模なお正月施策が実施されることとなった。具体的にはTOHOシネマズ新宿に掲出していた約20mのミラ・ジョヴォヴィッチのビジュアルを、大晦日の夜に日本用にローカライズした賀正バージョンに張り替え、Twitter上でも同じビジュアルを活用し、 対象のツイートをリツイートした利用者に向けて、年明けに自動返信ツイートで、賀正メッセージを送った。

ローカライズ×モーメントを意識したクリエイティブが成功の鍵

 一連のプロモーションにおいて、CATSレポートを振り返ると、Twitterがターゲット層の認知や興味、意欲、ファーストチョイス率のアップに貢献していることがわかったという。

 「Twitterとバイオハザードの親和性が高いと確信したのは、8月10日の“バイオの日”。21万エンゲージメントを記録しました。それを受けて、Twitter中心に施策を組み立てていったのです。

 各キャンペーンごとに最適化したクリエイティブを作ったことも成功のポイントだと思います。トレーラーを流し続けるケースが多い中、これだけ多様なクリエイティブを作成し配信する事例も少ないと思います。結果、バイオハザード関連ツイート数を見てみると、圧倒的な成果をあげられたことがわかりました」(星野氏)

 さらに、映画公開1週目の鑑賞意欲を調査したところ、15歳から19歳男性および、20代男性における鑑賞意欲・ファーストチョイス※2は他の作品に比べ2倍以上の結果となった。

 ※2ファーストチョイス:映画観賞者人口の中で、本作を最も映画館で観たいと回答した人の割合(鑑賞意欲がある、即ち「絶対に映画館で観る」と回答した作品が複数ある場合は、その中から1つ選択)。

成功の秘訣はTwitterのギミック×良質なコンテンツ

 今回の施策を提案・サポートしたTwitterの竹嶋氏と木和田氏は、ソニー・ピクチャーズの施策の成功ポイントを“斬新さ・季節性・即時性”の3つだと語る。

左からTwitter Japan株式会社 Twitter Client Solutions メディア&エンターテイメント業界担当 クライアントパートナー竹嶋朋子氏、同クライアントアカウントマネージャー 木和田奈々子氏
左からTwitter Japan株式会社 Twitter Client Solutions メディア&エンターテイメント業界担当
クライアントパートナー竹嶋朋子氏、同クライアントアカウントマネージャー 木和田奈々子氏

 第一に、頻繁にリリースされる新しいフォーマットやプロダクトの面白さをいち早く掴み、適切なコンテンツを投下することで、Twitter利用者の目を引き、アテンションを獲得することが出来た。第二に、高松氏も述べていたように、季節性を意識したクリエイティブを用意し世の中のイベント・盛り上がりに寄り添い、利用者に単に広告としてではなく自分事化して受け入れてもらうことに成功した。

 第三に、作品の最新情報をTwitter上で最初に公開することで、Twitter利用者のニーズに合ったコミュニケーションを展開することができた。「Twitterの利用者は、情報感度が大変高く、最新の情報を求めてTwitterを見ています。今回もあらゆるリスクを加味した上で、それでも情報の即時性がTwitter上で非常に重要なファクターであることをご理解いただき、プロモトレンドに伴う施策の実施をご決断頂きました。ソニー・ピクチャーズ様が媒体特性を深く理解してくださったからこその成功だと思います」(木和田氏)

 竹嶋氏は「斬新さ・季節性・即時性の三点は我々としてもキャンペーン設計におけるポイントであることは常にお伝えしている内容ではあります。しかし、これを実行に移すのはハードルが高いのが正直なところです。今回の提案もクライアントさまのご理解なしには実現できないものでしたが、一緒に取り組んでいただけたことに深く感謝しております」と述べた。

 今回の取り組みを、堀内氏と高松氏は次のように振り返る。

「今回のマーケティング戦略において、まずデータに裏打ちされたインサイトを基にターゲット層を導き出し、作品にとって最もマーケタビリティが高い時期に映画公開日を定めることが重要でした。その上で、ターゲットに則したビークルで最も適したマーケティングコミュニケーションを展開しました。

 たとえば、バイオハザードのような大作では、屋外広告を全国の様々なエリアで展開するプロモーションは定石の1つです。しかし今回の例では、敢えて都心に集中した屋外広告展開を行いました。オンライン上で拡散するよう綿密に設計したクリエイティブを一箇所に集中して展開することで、Twitter上での拡散がより大きくなり、全国的にも高い広告効果が得られると考えたためです。

 8月11日には同じく10~20代男性を重要なターゲットに捉えた『スパイダーマン:ホームカミング』が公開されます。そのプロモーションにも今回の施策の成果を活かしつつ、さらに新しい施策にチャレンジしていきたいと考えています」(堀内氏)

 「デジタル上の広告施策を考える上で重要なのは、広告のギミックのみに頼って考えてはいけないということです。Twitterでは新しい広告商品やフォーマットがどんどん出てきますが、たとえばギミックそのものがどんなに面白くても、ただそれを利用するだけでは効果的な施策は生まれません。

 利用者にとって価値のある情報と、それを届ける最適な広告フォーマットが組み合わさることで、初めて高い相乗効果が生まれると考えています。利用者にとって価値のある情報でなければ、どんな広告フォーマットを使っても高い効果は得られません。次に担当する映画『スパイダーマン:ホームカミング』もおいても10代は貴重なターゲットですので、Twitterの媒体特性を活かした施策にはさらに力を入れていきます」(高松氏)

 8月公開のスパイダーマンではどのようなプロモーション施策が展開されるのか。ソニー・ピクチャーズ✕Twitterの次なる一手にも引き続き注目していきたい。

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この記事の著者

東城 ノエル(トウジョウ ノエル)

フリーランスエディター・ライター
出版社での雑誌編集を経て、大手化粧品メーカーで編集ライター&ECサイト立ち上げなどを経験して独立。現在は、Webや雑誌を中心に執筆中。美容、旅行、アート、女性の働き方、子育て関連も守備範囲。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

【AD】本記事の内容は記事掲載開始時点のものです 企画・制作 株式会社翔泳社

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MarkeZine(マーケジン)
2017/06/30 11:00 https://markezine.jp/article/detail/26535