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「動画はリーチからのエンゲージメントを」 アサヒビールと講談社が語る、コンテンツ起点のマーケティング

 ブランドセーフティやYouTubeボイコットなど、2017年は動画広告をはじめWebメディアやコンテンツのあり方を巡る関心が大きく高まっている。そうした中、動画広告を含むデジタルマーケティングベンダー製品の比較プラットフォーム「Funnel1」の運営者、田中洋一氏の呼びかけで、大手企業のメディア運営者による鼎談が実現した。Webメディア『CAMPANELLA(カンパネラ)』を運営するアサヒビール、デジタル事業を推進する出版社・講談社のそれぞれのキーパーソンと、MarkeZine編集長の押久保が、これからのコンテンツ制作について熱く語り合った。

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企業や商品を前面に出さないメディア運営

アサヒビール株式会社 経営企画本部 デジタル戦略部 担当副部長 馬場 崇暢氏(写真左)、株式会社講談社 第一事業局 局次長 兼 ライツ・メディアビジネス局 局次長 長崎 亘宏氏

MarkeZine編集長 押久保剛(写真左)、
アサヒビール株式会社 経営企画本部 デジタル戦略部 担当副部長 馬場崇暢氏(同中央)、
株式会社講談社 第一事業局 局次長 兼 ライツ・メディアビジネス局 局次長 長崎亘宏氏(同左)

押久保:デジタル領域における現状の取り組みについて、最初にお二方のそれぞれの状況を教えてください。

講談社・長崎亘宏氏(以下長崎):私自身は広告会社勤務だった時代も含めてずっとメディアビジネスを歩んできています。

 弊社第一事業局のメディアとしては、『週刊現代』、『FRIDAY』のようなプリントメディアの他に、Webメディア『現代ビジネス』、『ゲキサカ』、『COURRiER JAPON』、『FORZA STYLE』といった男性向けメディアが属しています。私はその広告部門とWebメディアの編集部門を統括する立場にいます。

押久保:御社は早くから先行してデジタルの取り組みに注力されていますよね。

長崎:デジタル分野においては、コンテンツ販売に力を入れて、先行投資をしてきました。特に女性向けコミックにおいては紙よりもデジタルの読者が上回るところまできています。広告収入型のメディアはそれを追いかける形で注力しています。

 ここ近年は、雑誌という母体を持たないデジタルファーストメディアに舵を切っています。その最たるものが6月末にローンチ予定の女性向け新メディアです。

 これは従来のキュレーションメディアと一線を画した「コンピレーションメディア」を標榜し、講談社とデジタルガレージの合弁会社「株式会社 DK Media」が運営します。(※関連記事:『講談社×デジタルガレージ、女性向け「コンピレーションメディア」を2017年前半に提供』、『デジタルガレージと講談社、雑誌コンテンツとAI技術を組み合わせたメディア「HOLICS」を開設』)

 弊社も含めたメディア各社からコンテンツを募り、データとAIを活用してそれらを客観的に評価する仕組みを使い、ユーザーごとに個別最適化したコンテンツを配信するプラットフォームです。

押久保:馬場さんは、アサヒビールの担当者として、日経BP社と『CAMPANELLA(カンパネラ)』というアサヒビールのオウンドメディアを立ち上げられた方です。(関連記事:ABテスト?いやいや、うちのABは“アルコールブレスト”!アサヒビール×日経BP共同メディア誕生秘話』)

アサヒビール・馬場崇暢氏(以下馬場):日経BP社とパートナーシップを結んでWebメディアを運営しています。私自身、現在も引き続き担当しています。スタンスは立ち上げ当時から一貫していて、「お酒業界やお酒そのものを盛り上げるためのメディア」です。

 ひとまずアサヒビールという企業や商品は脇に置いて、お酒市場の活性化に陰ながら貢献することを目指しており、「お酒好きになったユーザーが最終的にアサヒビールを好きになってほしい」という方針で運営しています。

ブランディングやニーズを創造するためのメディアが必要不可欠

押久保:一般的にオウンドメディアは、事業会社特有の課題もあり、運営を継続するのが難しいと言われていますが、初期の目標を貫きながら続けてこられている理由はどこにあるのでしょうか?

馬場:CAMPANELLAは2017年7月で丸3年を迎えます。正直に申し上げますと、今も試行錯誤しながら運営しています(笑)。KPIはこの3年の中で細かく変えながら、「ユーザーが何をどう求めているのか」や、「ユーザーの行動などの見える化」ができるように、努力を続けています。

 ユニークユーザーなどの数字を追いかけたり、逆に自重した上での効果を見たり。たとえば、若くてお酒を飲まない層にコンテンツを提供する場合、本当に態度変容が起きるのか、といったことや、ユーザーの心のありようがどのように変わるかを、独自調査も踏まえて検討を重ねています。

押久保: 3年以上継続されているのは、素晴らしいですね。

アサヒビールが運営するWebメディア『CAMPANELLA(カンパネラ)』

アサヒビールが日経BPとパートナーシップを結んで運営するWebメディア『CAMPANELLA(カンパネラ)』

長崎:私もCAMPANELLAにはとても興味がありました。素晴らしい取り組みだと思うのは、生活者目線のオウンドメディアであることです。従来のような刈り取りやターゲティングに終始するではなく、ブランディングでありニーズの創造を実践していますよね。

 求められるコンテンツがあり、その先にアサヒビールブランドがある、といったCAMPANELLAのような文脈のメディアが、もっとWebには必要だと思います。動画を例に出すと、これまでの日本の動画広告はテレビCMベースがまだまだ多く、まだまだ“ネットっぽい動画”が少ない現実がありました。

 CAMPANELLAでも配信されているハウツー動画や、各メディアの世界観で作るタイアップ動画のように、もっと多種多様な動画がWebメディアに登場するとおもしろいのではないでしょうか。

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「放送としての動画」と「通信としての動画」

押久保:CAMPANELLAが体現している、単純にリーチやコンバージョンといったわかりやすい獲得系の指標ばかりを目指さないメディアスタンスは、特に最近ようやくデジタルの世界全体でも見られ出した印象です

長崎:ご指摘の通りです。一つはネット広告市場において、ある原点回帰が起きています。

 広告主の動画広告がどの媒体で配信されるか、逆の立場でいうとメディアにどんな広告素材が配信されるか、といったブランドセーフティに対する議論が活発化していますが、旧来メディアなら、適切な環境整備や広告審査などは当たり前にやっていました。影響力を増したネット広告にとっても避けては通れないことです。

 動画広告について言えば、「放送とネット配信の違いは何なのか?」という議論もこれまで以上に活発になると思います。ユーザー視点ではテレビとスマートデバイスの利用実態の把握が重要。そして、広告主視点ではテレビCMとWeb動画広告の効果について、リーチとしては「パリティ=同等」に評価する見方と、その質を見極める評価が併走するでしょう。垣根がなくなるにつれ双方の広告価値がしっかり語られる必要がありますね。

押久保:たとえば、テレビCMに対する一回の接触価値とオンライン動画の接触について同じコンディションの中で評価できるか、といった話ですね。

長崎:はい。その一方で、同じネット配信でも「テレビ局とWebメディアはやっぱり違う」という側面があります。ブランドセーフティや広告審査への意識、動画の視聴環境、広告とコンテンツの編成ノウハウなどにおける差異です。

 このような話題は海外では非常にホットで、先日行われた「ADVERTISING WEEK ASIA」のプログラムにおいても、動画プラットフォームとテレビ局との戦いとして話題になりました。テレビ局も各方面と資本提携して巨大なデジタルプラットフォームへの対抗策を講じていますが、規模の拡大に加えて、「質」による差別化も目指しています。

 北米の大手テレビ局は「テレビプレミアムコンテンツのブランド寄与度合い」の可視化にやっきになっています。彼らのコンテンツに挿入されたテレビCM(または動画広告)が生み出す認知獲得やブランドリフト効果について、YouTube、Facebookなどで表示される動画広告のそれらとどう異なるのか、という調査に力を入れています。

 このあたりが解き明かされると、メディアへの評価が変わりますし、動画広告への向き合い方も変わるはずです。

市場の伸び代は“エンゲージメント”にあり

押久保:ここまでの話を、事業会社という立場からだとどう考えますか?

馬場:先ほど運営について「試行錯誤しながら」という言葉を使いましたが、動画に限らずテキストを含めて、自分たちが発信したコンテンツを通じての効果がもっと明確に示せるようになりたいですね。予算を投じて、試行錯誤を重ねてコンテンツを作っているわけですから。

 私たちは、3年間メディア運営を続けていますが、スタンスを変えずに、愚直にコツコツと作っています。今後も、パートナーさんを選びながら誠実に作り、発信することを大切にしていきたいと思っています。

 たとえば、実績のある方に動画や記事といったコンテンツ制作を依頼し、仕上がりの内容にも厳しい目を光らせています。お酒業界に合わない内容や、業界タブーを盛り込んで逆におもしろさを出すような意図のコンテンツも受け付けていません。

 お酒のこと、お酒の業界への理解や尊重をベースにコンテンツを作り、それがユーザーにも私たちの思いとして伝わってほしいのです。

長崎:まさしく生活者、ユーザーのためのコンテンツであるかどうか、ですね。市場の伸び代は、その部分が該当すると思っています。電通の「2016年(平成28年)日本の広告費」では、テレビメディア広告費(地上波テレビ+衛生メディア関連)が約2兆円、ネットの広告費が約1.3兆円と発表されていましたが、テレビ広告主のネットシフトを加速させる動機は獲得ではなくて「生活者を意識したエンゲージメント」だと考えます。

 実際、国内のプログラマティックな広告配信に対する投資は、伸びてはいますが激増しているわけではありません。このままでは、欧米のようにネット広告費がテレビ広告費に並ぶことはないでしょう。

 改めてメディアの定義や責任が問われたのが2016年でした。最近では従来のネット広告サプライヤーの変革に加えて、旧来メディアのデジタルシフトも目につくようになりました。翔泳社さんもそうですし、弊社もそうです。勝負は「エンゲージメント力」。この動きが加速することで、テレビ広告への予算にネット広告が近づくのではないでしょうか。

  そもそも、ファンにしたり、理解促進したりするのはプリントメディアの役割でした。現在もその一部は担いますが、かつてほどダイナミックではありません。いわゆるマーケティングファネルにおける「空洞化した真ん中部分」は、ネットにおいては動画広告とネイティブ広告がその役割を担っていくと思います。

 そういう意味で、イチ生活者の視点で言うと「ブロックするのではなく、見にいきたい」と思わせるような動画が、CAMPANELLAでもいっぱい見られることは、非常に嬉しいことだと思っています。今後も期待したいですね。

馬場:ありがとうございます(笑)。引き続き、ご期待に応えられるようにしたいです。

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「コンタクト起点」ではなく「コンテンツ起点」のプランニングを

押久保:企業のブランディングがイコールでエンゲージメントとなるのかは別途検討が必要にしても、もっと潜在層へのアプローチに企業が予算を投じると、デジタルを巡る様相が一気に変わりそうです。

長崎:この文脈で期待したいことは、様々な広告主によって多種多様なコンテンツが生まれることです。まだまだ動画広告市場のメインは、6秒、15秒、30秒のように決まった短い尺による、リーチ獲得型のコンテンツです。いわゆるコンタクト起点。

 そうではなくて、もっとコンテンツ起点の動画がどんどん出てきてほしいと思っています。CAMPANELLAがC CHANNELさんと組んで作った動画がまさにそうです。あれ、私も好きなんです(笑)。

この夏流行!?女子にオススメ「コーヒー×ウイスキー」カクテルレシピ
CAMPANELLAがC CHANNELと制作した、女性向けカクテルレシピの動画

馬場:嬉しいです(笑)。CAMPANELLAは中年層に強いメディアだったので、もっと女性にも気軽に見てもらえるコンテンツを作りたくて、女性受けしそうな、シズル感が伝わるようなハウツー動画に挑戦しました。

 「ウイスキーをアイスコーヒーで割って、最後にアイスクリームを加えるカクテル」を、C CHANNELの人気公式クリッパーのひよんさんが紹介するという動画です。7月公開にあわせて、夏にぴったりのレシピを提案したところ、狙い通り、女性から多くの反響をいただきました。

長崎:従来のメディアプランニングは「YouTubeで流すには何がよいか?」といった、コンタクトポイントにおけるコンテンツ最適化です。その一方で、コンテンツ起点のプランニングが進めば、配信方法についての多様なチャレンジが可能になります。

 理想はそれらを併走させ、それぞれを最適化すること。個人的にはコンテンツファーストで制作し、マッチするコンタクト手段を見つけていくケースを増やしたいです。あの映像、最後にアイスが溶け出してきて…、伝わってきますよね(笑)。

押久保:まさにシズル感が視聴者を惹きつけているわけですね(笑)。

もっと「編集部」を名乗る事業会社が増えてほしい!

押久保:これからの動画広告市場や、企業が発信するコンテンツについて、最後にお二方から話をうかがいたいです。

長崎:二つお伝えしたいことがあります。一つは、「リーチの概念だと損に思えても、エンゲージメントの概念では得をする」といったことが証明されてほしいですね。

 業界共通のエンゲージメントの指標として、現状よりもさらに踏み込んだ指標の登場が望まれています。よく使われる視聴態度以外に、意識変容について科学的なアプローチをする調査会社も現れました。エンゲージメントの共通指標化が実現すれば、社内折衝に使えたり、ステークホルダーへの説得がしやすくなります。

押久保:テレビのGRP(延べ視聴率)のような、共通のモノサシとなる指標ができると、出稿しやすくなりますからね。

長崎:もう一つは、今やどの事業会社さんもメディア化している、ということです。コンテンツになりうるアセットがある。その企業の商品はもちろん、社員、社屋や工場、地域に根ざした活動など、どれもがストーリーをもっています。それらをコンテンツとして展開するならば、ぜひどの企業も「編集機能」をもってほしいと思います。これまでは宣伝部に「制作機能」を置く例が見られましたが、これからは発想の転換が必要。

 サイボウズさんがオウンドメディア『サイボウズ式』で既に実践していますが、「編集部が作ったコンテンツ」となると、送り手も受け手もマインドセットが変わると思うし、「編集部とならば」と他の企業がコラボしたくなる。様々な企業で内製の動きはありますが、もっと自ら名乗っていいと思います。CAMPANELLAは編集部であり、馬場さんが編集長なんです(笑)。

馬場:恐縮です(笑)。私たちのやりたいことは、コンテンツに接触したユーザーに「お酒にポジティブなマインドを持ってもらう」ことです。今後も、ユーザーごとに態度変容できるコンテンツを見つけていきたいですね。

 コンテンツ制作で気をつけていることは、まず企業色を出さない、というのが大前提としてあります。CAMPANELLAでは、賛否両論のあるコンテンツが特に反響が高い傾向にありますが、企業色を出さないCAMPANELLAという座組みだからこそ、このようなコンテンツを積極的に発信できます。

 このような視点で動画や記事というコンテンツを配信しながら、それを見たユーザーのアクションをヒントとして、デバイスの先にいるユーザー動向の可視化につなげたいですね。

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この記事の著者

押久保 剛(編集部)(オシクボ タケシ)

メディア編集部門 執行役員 / 統括編集長立教大学社会学部社会学科を卒業後、2002年に翔泳社へ入社。広告営業、書籍編集・制作を経て、2006年スタートの『MarkeZine(マーケジン)』立ち上げに参画。2011年4月にMarkeZineの3代目編集長、2019年4月よりメディア部門 メディア編集...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

遠藤 義浩(エンドウ ヨシヒロ)

 フリーランスの編集者/ライター。奈良県生まれ、東京都在住。雑誌『Web Designing』(マイナビ出版)の常駐編集者などを経てフリーに。Web、デジタルマーケティング分野の媒体での編集/執筆、オウンドメディアのコンテンツ制作などに携わる。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

【AD】本記事の内容は記事掲載開始時点のものです 企画・制作 株式会社翔泳社

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MarkeZine(マーケジン)
2017/09/19 17:03 https://markezine.jp/article/detail/26651