動画制作とトレーディングデスクのリーディングカンパニーが連携
――先日、エスワンオーインタラクティブ(以下、s1o)とCandeeの両社は戦略的業務提携を発表されました(詳細はこちら)。今回は、それによって実現するという「最適化し続ける制作」についてうかがっていきたいと思います。まずはそれぞれの事業をご紹介いただけますでしょうか。
髙瀬:s1oはネット広告運用業務に特化したトレーディングデスク業務を展開しています。ネット広告キャンペーンの設計からレポーティングまでをワンストップで提供しており、アウトソース/インハウス双方に対応しながら企業のプロモーションをサポートしています。
大川:Candeeは映像の企画制作会社で、現在はメディア、広告、タレントマネジメントの3本柱で事業を展開しています。2015年に設立した会社ですが、当初からLINEの動画配信アプリ「LINE LIVE」でオリジナル番組を多数制作してきたので、最近は「ライブ配信といえばCandee」といっていただくことが多いですね。
――Candeeは社内にスタジオをお持ちだとうかがいました。
大川:はい。キャスティングもしているので、番組制作ではタレントのキャスティングから撮影、配信まですべて手がけています。今回の業務提携で発表した「最適化し続ける制作」というコンセプトは、自社スタジオやクリエイティブのスタッフ体制が整っているから可能な部分も大きいですね。
秒単位で視聴状況を追う“モーメントトラッキング”
――早速ですが、動画クリエイティブを「最適化し続ける」というのは具体的にどういうことなのか、詳しく教えていただけますか?
大川:現状だと、動画広告のクリエイティブは、完全に仕上げて納品するのが通例ですよね。業界では“完パケ納品”などと言いますが、そもそも僕はここに以前から疑問がありました。
本来ネット広告は運用できるのが大きな利点です。バナー広告なら配信後の反応を見て、クリエイティブを作り変えてどんどん効果を高めていきます。動画広告のクリエイティブもそうあるべきだと思うんです。そこで、簡単に再撮影ができるように、そもそも再現可能性が高い環境で撮影して、特定のシーンだけを撮り直せるようにしました。
――最初から複数パターンのクリエイティブを制作して配信し、配信結果を見て絞り込む手法は聞きますが、クリエイティブそのものに手を入れていくという発想はなかったと思います。動画広告を配信したあとの反応データの蓄積や、分析・フィードバックはs1oが担当されるということでしょうか。
高瀬:はい、その役割分担で動画クリエイティブの最適化に挑んでいます。複数パターンで効果を試したり、あるいは撮影済みの動画を多少編集したりする程度なら今も行われていますが、そもそも動画の視聴は「25%視聴」「50%視聴」「完全視聴」くらいのざっくりとした切り分けでしか分析されていないのが現状です。
動画視聴行動を秒単位でトラッキングして、どういったシーンで離脱したのか、とか、何秒後まで視聴したユーザーは視聴後にどのような行動をとるのか、などと細かく把握し、改善に向けての仮説を構築してクリエイティブをチューニングしていく。リスティングやバナー広告の運用と同じ発想ですね。
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視聴データと視聴後の行動データを元にPDCAを回す
――まさに、それができると動画クリエイティブも「運用している」といえますね。なぜ、そういう発想に至ったのですか?
大川:動画広告は他のネット広告と違って、ユーザーに一定時間を割いてもらう必要がありますよね。完全視聴を前提にその後のキャンペーンプランニングが作られていますし、完全視聴してからLPに飛んだ人のほうが、途中に動画を離脱してLPに飛んだ人よりも、LPでの滞在時間が長い、といったデータもあります。でも、実際は離脱してLPに飛ぶ人は少数派で、ほとんどが離脱してそのまま関係のないページを見に行ってしまうわけです。
それなら、どんな動画広告なら完全視聴してもらえるかというお題にもっと真剣に取り組んだほうがいい。「3本流して反応がいい1本だけ残す」という大雑把な最適化ではなくて、もっと細かくて深い最適化を、僕らならできる。s1oという強力なパートナーも得られたので、じゃあやるしかない、と!(笑)
――両者が提携し、Candeeの再撮影や再編集のノウハウと、s1oによる視聴データや視聴後のデータ分析を組み合わせることで、クリエイティブについて高精度のPDCAサイクルを回せるわけですね。
高瀬:そうなんです。我々も、動画広告のクリエイティブ改善にはもっとできることがあるはずという課題意識は同じでしたし、実際に企業からも「配信終了後に分析しても次の施策に活かせない」といった声を多く聞いていました。
テレビCMと同様に動画広告もプログラマティック化
――ちなみに、これまではどういったプロセスで配信・分析が進んでいたのでしょうか?
高瀬:たとえば、複数の動画広告を配信し、視聴完了のタイミングとリンク先の行動で良し悪しを判断して絞り込むというやり方があります。当然、リサーチも入れてブランドリフト値も把握し、評価に組み込んでいました。
ただ、それだけだと、個々の動画素材の具体的に何が良かったのか、あるいは悪かったのかがわかりません。視聴完了率と質問票で得た定性情報しか判断材料がないので、次にどういう動画にすればいいのか明確にはつかみきれないのです。
――そこで今回両社が新たに提案する配信・分析プロセスはどのようなものになりますか。
高瀬:今後は、最初に数本配信した段階でユーザーの行動を細かくトラッキングし、それを元に仮説を立てて素材のつくり替えを行います。視聴データでオーディエンスを細分化して、次の施策につなげることも可能です。
最初に制作するのは数本で、徐々に素材を作り変えていくというのもポイントです。いきなり100本作って回せるほどの資金的な体力があればいいですが、そうもいかないので。
――なるほど、今回の取り組みは、企業にとって費用対効果が高まる施策でもあるわけですね。
高瀬:ええ。バナー広告のプログラマティック取引と同じイメージで、いち広告フォーマットを動画として捉える、という考え方です。
プログラマティックという点では、今では同じ映像の広告であるテレビCMも、どんどんデータドリブンに取引できるようになっています。米国ではアドレッサブルTVが主流になりつつありますし、日本でも直近で日本ケーブルテレビ連盟が利用世帯すべてに共通IDを付与するという発表がありました。さらに、体の向きや表情で、どういう環境で視聴しているかを推測する研究も進んでいます。
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コスト最適化とともにスピードも速く
高瀬:もともとは細かくデータ取得できなかったテレビがそこまで進歩しているんだから、Webの動画広告はもっとデータドリブンに改善できると思うんです。
最近ではテレビCMと動画広告の最適な組み合わせや予算の再配分を模索する企業も増えています。Web動画広告を運用して得られた要素をテレビCMに展開することもできますし、弊社ではテレビCMの効果の可視化にも取り組んでいるので、様々な形で課題解決に貢献できるかと思います。
大川:「最適化し続ける制作」に話を戻しますと、この取組はコストを減らすだけではなく、スピードもぐっと速めます。冒頭でお話したように、動画広告は映像作品の文化が背景にあるからか“完パケ納品”が基本で、納品や少しの作り変えにもとにかく時間がかかるのが常でした。でも、それではスピードが速いネット広告との連携は困難です。その点も解消できるはずです。
――完パケ納品ではなく、「最適化し続ける制作」だと、課金のあり方はどのようになるのでしょうか。
大川:制作稼動する月あたりの課金や、ある程度の修正本数を込みにした制作費を設定するなど、柔軟に対応していくつもりです。
――「最適化し続ける制作」はどういったマーケティング状況に特におすすめでしょうか?
高瀬:どちらかというと、ブランディング施策よりは、マーケティングファネルの中程から下部への落とし込みに適していると考えています。
制作から分析までワンストップで企業ニーズに応える
――どちらかというと、コンバージョンに近いほうですね。
高瀬:ええ。当然、優れたアイデアで大きなバズを狙う動画や、撮影にすごく凝った動画はこれまで通り機能すると思います。でも、それはファネルでいうと上部、アウェアネスの部分で有効なことが多いですよね。我々はご指摘のようにコンバージョンに近い部分や、ブランディングよりはダイレクト系をまずは想定しています。
ただ、アウェアネスを狙う企業にも「秒単位で反応を見て素材を切り替えたい」という要望はあるので、視野に入れていますし、寄与できると思いますね。
――ありがとうございました。では最後に今後の展望と、意気込みをぜひ聞かせてください。
高瀬:今まさにテストケースが進行中なので、近いうちに効果を含めて事例を発表するつもりです。もう少し大きな視点でいうと、当社としては、最終的に動画広告の新しい効果指標を提案したいですね。秒単位の視聴データとその先のアクションをひもづけて、動画広告の効果を高めるのに役立つ指標を探っていきます。
大川:これだけ動画広告が主流になると、ヒットした動画の共通点をデータ的に分析していくことも可能なはずなので、実制作に活かせるファクトを蓄積していきます。当社は、新しいメディアやインフラを活かして、この時代ならではのカルチャーとスターを創造することを目指しているので、今回の取り組みを通して企業の事業に貢献しながら、広告を含めた動画の分野をもっと活性化させたいですね。
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