数値で表しにくいブランド構築にデジタルをどう使うか
デジタルマーケティングは今や、いち手法の域を超え、デジタル時代に合わせてマーケティング全体をシフトすべきだとの議論が起こっている。だが、細かな成果を数値で追えるのが特長でもあるデジタルマーケティングは、ブランド広告主がこれまでマスマーケティングを中心に取り組んできたブランディングの概念と対立することも多い。
本セッションのスピーカーには、まだ定石も正解もない両概念の融合に、まさに現在進行形で取り組む飲食業界から3者を迎えた。議題は、失敗事例とその教訓、手応えを感じている施策、そして効果測定だ。
3者ともデジタルマーケティングに携わるが、トリドールホールディングスの大洞マキ氏はマーケティング部、日清食品ホールディングスの東鶴千代氏は宣伝部にそれぞれ所属し、デジタル専門の部署はないという。トリドールでは、3年前から始めたという丸亀製麺のテレビCMの企画や、全国の店頭のPOPなど販促ツール、デジタル施策まですべてをマーケティング部で手がけている。日清では各事業会社をホールディングスの宣伝部が横断し、商品ごとに一人の担当者がテレビからデジタルメディアの運用までを担う体制を敷いている。
一方、日本コカ・コーラの平尾卓也氏はデジタル担当として、IMC iマーケティングというデジタル専門部署に所属するが、「デジタルマーケティングという言葉はあえて使っていない。代わりに『MARKETING IN A DIGITAL WORLD』という言葉を掲げ、デジタル時代にどういったマーケティングをしていくかという方向性を共有している」(平尾氏)という。
表現を変えても信念は変えない
最初のテーマは、失敗事例とその教訓。答えづらいテーマではあるが、東氏は率直に昨年4月のカップヌードルのキャンペーンを挙げる。テレビCMにネットからの賛否両論が巻き起こる中、お詫びを出した上でかなり早い段階で放送を取りやめた。「メッセージを伝えるために、クリエイティブに一定のインパクトを求める中で、テレビを観る方とネットを楽しむ方との温度差を見誤ったことは深く反省した」と東氏。
ただ、シリーズとしては撤回せず、同じ枠組みの中で表現を変更して続行。社内でも協議した結果、 “尖ったものが未来をつくる”という信念は譲らずに、まっすぐ伝えていこうと収束した。以降、ポジとネガの捉え方を事前に議論すべきだという認識になったという。
この事例も起点こそテレビCMだが、ネガティブ感情が顕在化して一気に広がるのは、SNSが浸透した時代の典型的なネット炎上だろう。むしろ目にする人がマスなだけに、CMの炎上事例は事欠かない。だが、これを単純に恐れると“尖った”表現が抑えられ、人の印象に残りづらくなり、結果として伝えたいメッセージが伝わらないことにもつながる。
コカ・コーラの場合、グローバルでブランドファーストの思想が徹底しており、ブランドに対して施策のアイデアが少しでもそぐわないとなると取り下げるという。「石橋を叩きすぎて“割ってしまう”こともよくある」と平尾氏。そうして築き上げられるブランドもたしかにあるが、どこまで表現のチャレンジをするべきかは、インパクトとSNSの目の間で企業がジレンマを抱えている課題のひとつだ。