メルカリなども導入するメール配信サービス
デジタルマーケティングにおいて、黎明期から現在まで欠かせないチャネルとして活用されてきているメール。そのメールもスマートフォンの登場をはじめとする様々な変化を受け、常に最新のノウハウが模索されている。
その中で2017年12月13日、クラウドベースのメール配信サービスを提供するSendGridがサンフランシスコ、ロンドンなど世界各地で開催しているイベント「Send With Confidence」を日本の代理店である構造計画研究所と共同で、初めて日本で開催した。
まず登壇したのは、SendGridにてパートナーシップ全般を担当するBrian Albers(ブライアン・アルバース)氏。最初に同氏は、5万8,000社の企業が同社のサービスを使っていることを明らかにした。
「現在デジタルビジネスを展開する多くの企業が弊社のサービスを活用しています。日本でもメルカリやチャットワーク、ビズリーチなどの企業が導入しています」(ブライアン氏)
調査で明らかになった、メールに求められる4つの要素
続いて、ブライアン氏はSendGridがEgg Strategyという企業とともに行った調査データをもとに、メールに必要な要素を解説した。今回の調査対象は、19歳以下のGeneration Z、20歳から36歳のMillennials、37歳から52歳のGeneration Xの3つにカテゴリー分けされている。
この3つのカテゴリーすべてに当てはまることとしてブライアン氏は、「メールが生活の中において、なくてはならないものである」ことを挙げた。最低月に1回でもメールを開くという人はどの世代でも80%から90%いた。また、調査対象の3分の2はメールが必要だと答えており、生活の中でとても重要なチャネルであることは明らかだ。
では、メールに必要な要素とはなんだろうか。ブライアン氏は以下の4つを挙げる。
・デザイン
・内容
・文脈化
・グローバリゼーション
まずデザインに関して「特に重要」だとブライアン氏は語る。アクションを引き起こし、メールのコンバージョン率を高める上で、デザインが重要であることは、読者にも明らかだろう。文言やフォント、画像など様々な要素でクリックを引き出せるかどうかが変わってくる。もちろん、その上でA/Bテストは欠かせない。
続いて、内容についてブライアン氏は、件名の短さが重要だと語る。
「調査の結果、件名が短ければ短く、シンプルであればあるほど効果があるということがわかりました。米国の場合は、3単語が最も良いという結果になりました。日本の場合は漢字のような複雑な文字を使用するので、あまりに多いと開封率に悪影響があるかもしれません」(ブライアン氏)
これに加えて、プリヘッダーと呼ばれるメールの冒頭部分で伝えるメッセージも大きく開封率に影響を及ぼすこと、読み手に行ってほしいアクションを明確にしておくことが重要だとした。
文脈化とグローバリゼーションのポイントが明らかに
3つ目の要素である「文脈化」、これはどういうことなのだろうか。これに関しブライアン氏は「相手が興味を持つ情報にパーソナライズしていく」こととした。
「相手の名前を呼び、相手が何を売りたいか、何を買いたいかといったことを理解した上で最適なメッセージを配信していくことが重要です」(ブライアン氏)
そして、文脈化が徹底されている事例としてe-bayの事例が紹介された。同社のメールでは、顧客の行動に基づき、顧客が望む製品を常にリアルタイムで提案するレコメンドメールを実現している。
最後のグローバリゼーションに関して同氏は、「多言語対応以外にも、各国の法令に違反しないよう、対応していくことが重要」とした。さらに様々なISPの違いに関しても知っておく重要性を唱え、次に登壇したSendGridにてメール配信に関するコンサルタントを務めるSeth Charles(セス・チャールズ)氏にバトンタッチした。
日本特有のISPに求められる対応
最初にセス氏は、SendGridの現状について話した。
「SendGridは1ヵ月に約370億ものメールを送信しています。ISPのシェアを見ると、最も多いのはGmail。その次にYahoo!、マイクロソフト、その他と続いています。私たちは各社と緊密なパートナーシップを組んでいます」(セス氏)
同氏は続けて、日本でのメールの受信環境にフォーカスを当てたデータを紹介していった。まず、明らかになったのはデバイス別の利用状況で、モバイルが58.51%、デスクトップが41.49%。またモバイルの過去30日間のデータでは、68%はiPhone上で見られており、16%はandroid上で見られていた。
次に日本のISPについての調査結果を明らかにした。日本ではYahoo! JAPANやドコモ、au、ソフトバンクへの送信がやはり多い。そしてメールの到達率をもとに、各ISPにおける特徴をセス氏は語った。
「ドコモは他のISPと比べてバウンス、ブロック率が高いという結果になりました。要因としては、ファイルサイズの容量オーバーやHTMLの構文エラーが多いので、それらの点には気を配りましょう。ソフトバンクに関しては、98.2%という高い到達率である一方、開封率が0.5%と非常に低かったため、何らかのフィルタリングが働いている可能性が考えられます」(セス氏)
同氏は到達率を高める工夫として、夜間のメール送信は避ける、各ISPのサーバー状況を鑑みて送信するタイミングを決めるといったことを提案した。
メールの到達率を上げるために確認したい3つのポイント
これらのデータをもとに、セス氏は講演の中である言葉を強調していた。それは「闇雲にメールを送り続けない」ということだ。
「海外企業の中には、今後もメールを送り続けていいかどうかを確認するメールを送っているものもあります。メールを送る母数は減ってしまうかもしれませんが、嫌がられるメールを送り続けるよりは、ブランドイメージを保つことができますし、エンゲージメントもそこまで下がらないというデータも出ています」(セス氏)
最後に、同氏はメールの到達率を上げるために確認しておくべきポイントを3つ挙げた。1つ目は、接点の開拓。具体的にはどのようにしてメールアドレスを収集するかといった点が挙げられる。
2つ目は、関係の構築。受信者はどういったメール受信設定をしているのか、その中でどう関係を築き、コンバージョンへと導くのかといったことを考えなければならない。
3つ目は、関係の終結だ。先述したように、闇雲にメールを送るのはデメリットが大きい。そのため、送信者は開封率やメール到達率をもとに、送信リストを整理するのも非常に重要なのだ。
「メールの到達率が悪いのは、この3つのどれかに問題があるからです。当然、複雑に絡み合っているので、一朝一夕で良くなるものではありませんが、1つずつ問題を潰していくことが重要です」(セス氏)
ビズリーチが抱えていたビジネス課題
セス氏の講演後に登壇したのは、ビズリーチ執行役員の関哲氏だ。メール配信にSendGridを活用し、ユーザーのエンゲージメント向上と、質の高いリード創出の両立に取り組んでいる。同氏は最初にビズリーチにおけるビジネスの現状について語った。
「昨今様々な転職サービスが登場し、会員獲得のための広告費が跳ね上がっています。また、企業側の集客コストも抑えたいというニーズもありました。そのため、BtoBマーケティングにコストを投下して、人材不足で困っている企業のリードを獲得し、案件化につなげる取り組みを開始しました」(関氏)
このように、ビズリーチはtoC側、toB側ともに集客コストをなんとか抑えたいというニーズがあったのだ。
メディアマネタイズのため、メールを改善
これらの背景から、ビズリーチでは「BizHint HR」という人事領域の専門メディアを立ち上げた。様々なメディアの採用や育成などに関わる記事をキュレーションして掲載。また、独自コンテンツも用意しており、各コンテンツをメールにてレコメンドしている。
関氏は、前提として同メディアを「ビズリーチの集客のためのオウンドメディアではない」と強調した。あくまでメディアとして中立な立場を意識し、マネタイズも広告収益によって実現しようとしているのだ。
そして、関氏は集客のプロセスを明らかにした。まず、SEOを中心に行い、サイトに集客。その後、記事を通じて会員登録したユーザーに対しメールでコンテンツ配信を行っている。現在3万人を超える経営者や人事が会員となっている。
では、メールの配信状況はどうなっているのか。関氏は「現在会員の8割から9割の方がメールを受け取ることを希望している」と会員が同社のメールに対して好意的であることを明らかにした。この数値の高さがクライアントにも受け、BizHint HRへの広告出稿も増えている。
「既存媒体では、HTMLメールに対応していないため画像が使えない、件名は決め打ちでA/Bテストができない、開封率が計測できないなど、表現の縛りが強い。私たちはそこを打破したいと考えていました」(関氏)
SendGridに決めた3つのポイント
では、なぜビズリーチはSendGridを選んだのか。
「移行の切り替えが容易な点、コストの安さ、信頼できるサポートの3つです。既存サーバーから切り替えるだけで良く、コストも通数が増えれば増えるほど安くなります。サポートも国内正規代理店の構造計画研究所が丁寧にサポートしてくれます」(関氏)
今回イベントの開催にも関わり、ビズリーチのサポートも行っている構造計画研究所は、2013年の12月からSendGridの販売代理を始めており、数多くの企業の導入から運用まで事細かにサポートしてきた実績を持つ。
また、SendGridを導入したことで、分析にもより力を入れることができるようになった。メールアドレス単位で開封・クリック状況が視覚化されている。
「営業やマーケターもダッシュボード上で閲覧できるので、チーム全体で、最適なメールについて分析できる環境が整っています」(関氏)
さらに、画像も使え、A/Bテストもでき、開封率なども追えるため、件名や本文、リンク先など、どこに問題があるかまで分析可能になった。
セッションの最後に関氏は、今後の展望について語った。
「開封やクリック、Webの閲覧ログを分析し、エンゲージメントの見込めないユーザーにはメールを送るのをやめつつ、想定リード数やクリック数が減らない状況をトライ&エラーで積み重ねたいです。そのために必要なデータを着実に蓄積し、営業やエンジニアなど各メンバーが手を煩わせることがない状況を現在作れているのは、SendGridのおかげです」(関氏)
すべての企業にとって、メールは重要なコミュニケーションチャネルだが、改善が上手くいっていない企業も多い。今後、SendGridをはじめとしたツールを活用してメールを効率化し、効果を最大化できるかが、重要になりそうだ。