SHOEISHA iD

※旧SEメンバーシップ会員の方は、同じ登録情報(メールアドレス&パスワード)でログインいただけます

おすすめのイベント

おすすめの講座

おすすめのウェビナー

マーケティングは“経営ごと” に。業界キーパーソンへの独自取材、注目テーマやトレンドを解説する特集など、オリジナルの最新マーケティング情報を毎月お届け。

『MarkeZine』(雑誌)

第100号(2024年4月号)
特集「24社に聞く、経営構想におけるマーケティング」

MarkeZineプレミアム for チーム/チーム プラス 加入の方は、誌面がウェブでも読めます

業界キーパーソンと探る注目キーワード大研究(AD)

広告会社は担当者のスキル任せから抜け出せるか?トランスコスモスとヤフーが考案した「広告運用の仕様書」

 リスティング広告の現場で、新しいツールの導入・活用が進んでいる。ヤフーとトランスコスモスは、ヤフーのリスティング広告(検索連動型広告)「スポンサードサーチ」の配信に関する仕様に基づき、5つの指標からすべてのアカウントの運用実績を把握することができる独自のツール「スポンサードサーチアカウント診断書(以下、SSアカウント診断書)」を考案。運用や拡販の自動化および実績アップに役立てているという。ヤフーの北川氏、トランスコスモスの磯島氏、小椋氏に、この共同プロジェクトについて話を伺った。

媒体社・広告会社・広告主の間に「広告運用の共通言語」を

(左)ヤフー株式会社 北川祥三氏(中央)トランスコスモス株式会社 磯島大舗氏(右)トランスコスモス株式会社 小椋弘貴氏
(左)ヤフー株式会社 北川祥三氏
(中央)トランスコスモス株式会社 磯島大舗氏
(右)トランスコスモス株式会社 小椋弘貴氏

――本日は、ヤフーとトランスコスモス両社で考案された「SSアカウント診断書」についてお話を伺っていきます。初めに自己紹介を兼ねて、皆さんがご担当されている業務を教えて下さい。

北川:北川と申します。私は、ヤフーの広告事業部門で広告会社向けの営業として、トランスコスモス様を担当させていただいております。

磯島:トランスコスモスの磯島です。我々は社内のプロジェクトで、ヤフーの広告商品の拡販に取り組んでおりまして、私はそのプロジェクトリーダーを務めています。また、リスティング広告の運用を手掛けるプランナーのマネジメントに加え、お客様の広告運用のディレクションもしています。

小椋:トランスコスモスの小椋と申します。私は、不動産・人材の分野を専門にリスティング広告の運用を担当しています。加えて、ヤフーの拡販プロジェクトでは、ツールの考案も進めています。

――「SSアカウント診断書」では、「スポンサードサーチ」を運用する際に、現状や実績を把握することができると伺っていますが、より具体的にどのようなツールなのかを教えて下さい。

小椋:「SSアカウント診断書」の大きな特徴は、「スポンサードサーチ」の運用状況を5つの指標で把握できることにあります。具体的には、Impシェア(予算)/オプション導入率/Uクリエイティブ率/Uクエリ率/Uキーワード率の5項目を、それぞれS~Eの6段階でスコア化し、五角形のグラフで表示します。

 また「SSアカウント診断書」は、「スポンサードサーチ」の配信に関する仕様に基づいて考案されているので、この五角形が綺麗な形になるように運用することで、広告効果の最大化を図ることができます。基本的には、我々が運用する際に活用するツールですね。

「SSアカウント診断書」で表示される5つの指標

  1. Impシェア:掲載機会に対して、広告表示を行えている割合
  2. オプション導入率:必要な広告オプションが導入されている割合
  3. Uクリエイティブ率:キーワードやリンク先URLごとに適したユニークな(重複しない)クリエイティブを設定できている割合
  4. Uクエリ率:検索クエリによるアカウントへの広告リクエストがユニークである割合
  5. Uキーワード率:入稿キーワードの文字列がユニークである割合
「SSアカウント診断書」のイメージ
「SSアカウント診断書」のイメージ

北川:今回の共同考案では、ヤフーと広告会社の間で定量的な指標として“広告運用の共通言語”になり得るようなツールの考案を目指しました。「広告が最適な構成になっているか」「配信の機会損失が起こっていないか」の2つが一目でわかるようになっており、“広告運用のヘルスチェックができる”ようなツールをイメージしているので“診断書”と呼んでいます。

広告運用を担当者のスキルに任せて良いのか?

――共同考案に至った背景には、広告運用に関してどのような課題があったのですか?

小椋:一般的にリスティング広告の運用現場では、最適な構成かどうかを判断する定義が、広告会社やプランナーに任せられています。社内では、プランナーのスキルやノウハウによって、運用に属人性が出てきてしまうことが問題視されていました

北川:良くも悪くもリスティング広告は、広告会社と運用を手掛けるプランナーの“個性”や“カラー”が出やすい傾向がありますよね。

――媒体社であるヤフーが「スポンサードサーチ」の配信に関する仕様を説明してツールの考案に取り組んだのは、なぜですか?

北川:実は弊社では、リスティング広告の事業に限らず、ヤフー全体で最適な運用を標準化するプロジェクトを進めています。その一環として、トランスコスモス様と一緒に、運用の成功事例を作っていきたいと考えています。

 加えて、「スポンサードサーチ」の設計をわかりやすくする目的もありました。リスティング広告には、検索クエリに最適な広告を表示したいというニーズがありますが、これは広告の構成に左右されます。

 具体的には、広告表示リクエストに対して、アカウント内のオークション参加(入札)重複を防ぐ構造に沿って設計することが大切です。そうすることで、インプレッションの絶対値を伸ばすとともに、CTRやCVRの向上を図ることができます

コンバージョン数は平均24%UP! 標準化により運用品質が向上

――「SSアカウント診断書」を考案し、トランスコスモス社内で導入したことで、どのような変化がありましたか?

磯島:やはり、広告の運用品質が向上されたことが大きな変化でしょう。たとえば、5つの指標の中に「Uクリエイティブ率」という項目があります。これは、検索されたキーワードに対して適切な広告を表示できているかを測る指標です。

 極端な例ですが、「ハンバーグ」「エビフライ」という2つの検索キーワードの両方に「ハンバーグ」の広告を表示しても意味がないですよね。ハンバーグにはハンバーグ、エビフライにはエビフライの広告を表示する必要があります。

 そして、そのためには広告のクリエイティブを一つひとつ精緻に変えなければいけません。これまでもプランナーに広告クリエイティブを綿密化するように指導していましたが、プランナーそれぞれで運用への考え方やフローが違うこともあり、どうしても個人差が出てしまうという課題がありました

 ですが「SSアカウント診断書」で五角形のグラフに表すと、各々五角形が綺麗な形になるように取り組むようになりました。これは、Uクリエイティブ率が100%になるよう改善したら、弊社の運用アカウントでコンバージョン数が平均24%アップしたという事実があるように、5つの指標に基づいて運用することで成果向上に結びつくことをプランナーが実感できているからでしょう。

広告運用の現場でも進む自動化

――「SSアカウント診断書」を導入・活用されて、媒体社であるヤフー、広告会社のトランスコスモス、そして広告主にそれぞれにはどのようなメリットがありましたか?

小椋:弊社の事例では、広告主が特に重視する獲得率が1.25~1.5倍に大きく改善したケースがありました。ですが、実はこのツールが目指すゴールは、広告運用の改善だけではありません。

 「SSアカウント診断書」を活用したことで、理想的な広告構成が明確になったほか、改善施策で何をすべきなのかも明らかになりました。これにより、プランナーの仕事はとても効率化されています

 広告の運用や最適化は、現在急ピッチで自動化が進んでいます。自動化により効率化やコスト削減が実現しますが、やはり機械ではなく人間にしかできないこともありますよね。クリエイティブなどは、その最たるものです。

 今後は、広告運用の効率化・自動化を進めると同時に、プランナーのスキルやノウハウが必要な部分に時間を使うことで、広告運用の質と量の両方を向上させていきたいと考えています。「SSアカウント診断書」は、その構造を作る時の柱になるものです。

磯島:広告主にとっては、施策の目的がわかりやすくなったというメリットもあります。五角形のグラフを提示できるようになったことで、効果が現れるポイントや定量的なゴールラインが明確化され、共通認識を持ちやすくなりました。たとえば「2~3ヵ月の期間をかけて、この指標をここまで高めていきましょう」というように、目的や目標、かける期間をより深く広告主と共有できるようになりました。

職人肌の運用担当者は、ツールの導入に抵抗しなかったのか?

――先ほど、リスティング広告の運用は現場のプランナー次第というお話がありました。導入・活用に関して、現場のプランナーからはどのような反応がありましたか?

磯島:これまでは、プランナーそれぞれが「このやり方が正しい」という考えをもっていました。ですので、最初はやはり抵抗感を持つメンバーもいましたよ。ですが、実際に「SSアカウント診断書」を活用してみると、使いやすさや効果を実感したからか、積極的に活用する姿勢に変化していきましたね。

北川:特に、リスティング広告で一定の実績を上げている広告会社だと、それぞれのノウハウがあって、こうしたツールの導入や活用が進みにくいという側面もあるかもしれません。ですが、トランスコスモス様には開示できる内容を伝えた上で、具体的なアウトプットを実現していただきました。

 広告の効果や売上アップを実現するための施策が一目でわかるツールがあるというのは、広告会社にとって強力な武器になりますよね。

媒体社と広告会社、それぞれのノウハウを活かしていきたい

――今後は、「SSアカウント診断書」をどのように活用していきたいと考えていますか?

北川:「SSアカウント診断書」が広告会社や広告主にとって大きなメリットをもたらしたように、ヤフーの媒体の価値を高めていく付加価値にも期待しています。現在は「スポンサードサーチ」への対応ですが、今後は「Yahoo! ディスプレイアドネットワーク(YDN)」にも活用していきたいと考えています。

小椋:ツールを考案したことで、よりクリエイティブな業務にあてる時間が増えていくと思います。広告主やユーザーにとって、最適な広告を考えることは人間にしかできません「SSアカウント診断書」の導入で生まれた時間を、そのために活用して、広告主の満足度や成果向上につなげていきたいです。

磯島:今回、ツールの共同考案に取り組んだことで、両社共に意見を述べやすくなり、進むべき方向が明るくなった気がします。今後はアップデートに随時対応していくことなど細かい点も大事になってきますが、お互い考えていることや未来を可能な範囲でオープンにしていけると良いですね

 今回は「スポンサードサーチ」でしたが、これから違うサービスでも同じような取り組みを展開できればと考えています。媒体社と広告会社では、それぞれ持っているノウハウも異なりますので、お互いのノウハウを上手く活用していきたいです

この記事は参考になりましたか?

  • Facebook
  • Twitter
  • Pocket
  • note
関連リンク
この記事の著者

浦野 孝嗣(ウラノ コウジ)

 2002年からフリーランス。得意分野は経済全般のほかIT、金融、企業の経営戦略、CSRなど。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

【AD】本記事の内容は記事掲載開始時点のものです 企画・制作 株式会社翔泳社

この記事は参考になりましたか?

この記事をシェア

MarkeZine(マーケジン)
2018/03/29 10:00 https://markezine.jp/article/detail/28050