マーケティングとは何か
2018年4月にAdobeが開催したカンファレンス「Adobe Digital Experience Insights 2018」。その中で、「デジタルはアナログを殺すのか」というエッジの効いたテーマを掲げたセッションがドミノ・ピザの富永氏とアドビシステムズの櫻井氏により行われた。デジタルマーケティングの定義、さらには組織や人材にまで話が広がった同セッションは、冒頭の核心を突く質問から始まった。
櫻井:富永さんは、本質的にマーケティングとは何だとお考えですか?
富永:これはマーケターが大好きな質問で、マーケターの数だけ答えがあると思いますが(笑)、総じて言えることは「消費者に影響を及ぼす可能性があることすべて」でしょうか。
ブランドの認知から、ブランドイメージの醸成、態度変容の促進など一連のすべてのことがマーケティングであると考えます。
櫻井:次に「消費者は変化しているのか」という命題についてですが、富永さんは消費者は変化していると思われますか?
富永:消費者が変化しているのか否かを問われたときには、あえて「変わっていない」と答えるようにしています。
その理由は、今も昔も消費者は人間であって、人間が人間としてもっているネイチャーは変わらないと思うから。マズローの三大欲求に基づく人間の心理とかって早々変わるものではないので、消費者自身が変化しているとは考えないです。
ただ、人間を取り巻く環境は劇的に変化しています。消費者自身は変わっていないけど、環境の変化を受けて行動とか関係性は日々変化しているので、そういった点にもっと注目すべきではないでしょうか。
デジタルはアナログを駆逐しない
消費者を取り巻く環境は日々変化しており、マーケターはこうした変化に対応していかなければならない。現に、テレビ広告の効果は薄まりつつあり、これを補完するためにテレビ以外のメディアが拡張を続けている。マーケティングにおいて、企業がアナログからデジタルへと移行する傾向があるのも事実だ。では、デジタルによってアナログは駆逐されるのか。この問いに対する富永氏の答えはこうだ。
富永:マーケティングの中にデジタルが入ってきているというのは、まったくその通りですが、デジタルかアナログかを問うのは本質的でないですね。
マーケティングで起こしたい消費者の変化は変わらない。そのためのタッチポイントが日々変化しているんです。そのタッチポイントの中でデジタルの存在が大きくなっていると考えるのが良いと思います。
櫻井:マーケティングにおけるデジタルの領域が拡大するにつれ、マーケティング部はより様々なことをカバーしなければならなくなります。現状として、マーケティングはマーケティング部の中で成立するものなのでしょうか?
富永:間接的にはマーケティング部で戦略を動かせるかもしれませんが、大事な部分は抜け落ちてしまう危険性があります。
たとえば、ドミノ・ピザは5~6年かけて店舗に投資をし、デリバリーオンリー型から、テイクアウトとデリバリーのミックス型に変更してきました。店舗が何よりも重要なチャネルだと考えて、エンターテインメントな店舗体験の提供を目指してきたんです。
ですが、我々マーケティング部が戦略的に店舗体験を変えようとしても、肝心な店員のマインドセットの醸成が抜け落ちていました。実際に、ドミノ・ピザでは時々、お客さんがお店に入ってきた時に店員が裏に逃げてしまうという現象が起こるんですよ(笑)。最初は「常識の問題じゃないか!」と怒ったりもしたんですが、よくよく考えてみると当然ですよね。
このように、間接的にマーケティング部が中心になって動かせることはありますが、それ以外の大事な部分を失っているのが現状です。だから、統合マーケティングが必要になってくるんですよね。