日本のアプリ企業にはチャンスがある
2013年創業のMobvistaは中国の広州を拠点に置き、2015年に中国の新興・ベンチャー企業向け市場のNEEQ(中小企業株式譲渡システム)に上場。2016年にアメリカ、ヨーロッパの有力モバイル関連企業を相次いで買収するなどグローバル規模のアドテクノロジー企業へと発展している。
そんな同社で日本のカントリーマネージャーを務める井料氏は、インタビューの最初、中国市場が持つポテンシャルの高さを明らかにした。
「中国のネットユーザー規模はとても大きく、IT企業の中国市場への進出は確実に増えて来ています。その一方で、中国市場への進出には特有の課題や障壁があるのも事実です。この現状の中、グローバルでも大きな市場を作っている日本のモバイルゲームアプリ企業は、中国へ進出してシェア拡大を目指すチャンスが特にあると考えています」(井料氏)
中国市場の持つポテンシャルとは
なぜ、日本のモバイルゲーム業界に、中国進出のチャンスがあるのだろうか。その理由に関して、井料氏は次のように語る。
「日本と違い、中国では家庭用ゲーム機があまり普及していません。それもあり、モバイルでのゲームに対する抵抗も少なく、ゲームを楽しむならスマートフォンという文化ができており、欧米・韓国からもゲーム会社が進出し、成功を収めるケースが増えています。日本は世界のゲーム業界を長くリードしてきた国であり、中国市場で成功できるチャンスは当然ながら十分にあると言えます」(井料氏)
これに加えて、日本のアプリの中国進出をサポートするJoyPacに所属する劉氏は、中国市場でモバイルゲームのシェアが拡大している背景として「電子決済が広く普及していることも大きい」ことを挙げた。
「日本で電子決済をする際にはクレジットカードを登録したり、iTunesカードやGoogle Play ギフトカードを買ったりする必要があります。一方、中国ではAlipayやWeChatPayが普及し、モバイル端末を持っている人のほとんどが電子決済を中心に生活しています。そのため、比較的、課金に対するハードルが低いという特徴を持っています」(劉氏)
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中国で理解されるアプリを作るには?
続いて、井料・劉の両氏は、中国でのモバイルゲーム市場の現状と将来性を踏まえ、「ローカライズ」「パブリッシング」「マーケティング」の3つの視点から中国市場進出のポイントについて解説した。
まず、どんな商品やサービスを海外進出させる場合でも必要な「ローカライズ」。中国の場合はまず、提供するプラットフォームに注意する必要があるという。
「ネイティブアプリの場合、日本ではiOS向けにApp Store、Android用のGoogle Playがありますが、中国にはGoogle Playがありません。Android用のアプリはBaiduやTencent、Xiaomiといった重要なAndroidストアが70以上も存在しています。また各ストアによってユーザーの状況が違うため、アプリのスタイルに合わせて、適切なAndroidストアを選択する必要があります。たとえば日本風な二次元アプリの場合は、Bilibili&Taptapなど二次元を好むユーザーが多いストアへ優先的にリリースするほうがいいと思います。
ちなみに、中国ではiOS向けアプリが約14%、Android向けアプリが約86%というシェアになっています。これはあとで紹介する『パブリッシング』『マーケティング』とも関連してきますが、こうしたアプリストアごとに人気のジャンルや効果的なプロモーション方法を考慮するのがとても重要です」(劉氏)
一方、ゲームのローカライズにあたっては現地で用いられる中国語への対応とともに政治や暴力、アダルトなどの表現の規制が厳しいことも考慮しておくべきだという。
「ユーザーに限らず、中国の人たちは特に『言葉』に敏感で厳しい面がありますので、ゲームで表示される言葉は確実にネイティブレベルにローカライズしておく必要があります」(井料氏)
他にも中国では、ゲーム内容を国家新聞出版広電総局という機関が審査してコードまたはパブリケーションナンバーを交付して承認する必要がある(Androidのみ)など、独自の文化が存在する。
そのため両氏は、日本企業に対し、まず国家新聞出版広電総局への審査がいらず、比較的参入しやすいiOS向けアプリをリリースすることを勧めた。その後、ユーザーからの反応やフィードバックを踏まえ、Android向けアプリのリリースを検討するのが確実だという。
リリースには現地パートナーとの協力が不可欠
続いて「パブリッシング」について、劉氏が語った。先ほども触れたが、現在中国には多数のAndroidアプリストアがあり、日本企業が独自に進出するのは正直困難といえる。
そこで重要なのは、中国現地のパートナーの協力を得ることだ。JoyPacはパートナーとして、日本の数多いデベロッパーと連携を強化し、日本で人気のあるカジュアルゲームの中国進出を支えてきた。
「我々は欧米と日本のデベロッパーを中心に、アプリの中国進出を支えてきました。中国も日本と同じアジアに属する国ですし、中国では日本のアニメやマンガが大ヒットしています。そのため、アメリカやヨーロッパなどで開発されたゲームよりも親近感をもってもらえる可能性があると思います」(劉氏)
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大手プラットフォーマーの活用が重要
ここまで紹介してきた「ローカライズ」「パブリッシング」に関するポイントを踏まえ、次に解説したのが「マーケティング」についてだ。
「Baidu、Alibaba、Tencentの頭文字を取った『BAT』と呼ばれる中国有数のプラットフォーマーを押さえたマーケティングが必要です。中国では、モバイル端末からのネットユーザーによる使用時間の約7割がBATのサービスとなっています。
また、プログラマティック広告の約9割がこの3社のサービス上で行われています。つまり、BATの提供するサービス上でアプリの認知、インストールを獲得していくことが、非常に重要になります」(井料氏)
また、劉氏によれば、Tencentの提供するメッセージングアプリ「WeChat」と「QQ」はHTML5のゲームをアプリ内で提供しており、カジュアルゲームをHTML5化した後、両アプリのプラットフォームに展開することも検討すべきだという。
「WeChatは月間アクティブユーザーが10億人を超えるアプリで、その中でゲームプロモーションに活用するのはもちろん、アプリ内でHTML5ゲームを展開することができます。HTML5ゲームで課金してもらうことができ、月間の課金収益が50万人民元(約837万円)以下の場合はその収益のすべてがデベロッパー側に支払われます。50万人民元を超える場合は、超えた部分の40%の収益をテンセント側が得る仕組みとなっています。
またバナー広告と動画広告をゲーム内に掲載し広告マネタイズを行うこともできます。これだけ膨大なアクティブユーザーが集まる中でゲームがヒットすると、得られる利益はとても大きいと思います」(劉氏)
日本語なのに大ヒットした事例も
ここまでで、ポイントを押さえて進出すれば、非常に大きなリターンが得られる可能性のある市場であることはわかった。しかし、日本企業のゲームは中国に本当に受け入れられるのだろうか。
「現在中国では、アクションやアドベンチャー、RPGといったものよりも手軽に楽しめるカジュアルゲームに人気があります。日本は携帯電話が主流だった時代からシンプルかつ短時間に遊べるゲームを多く開発し、ヒットさせてきた実績がありますから、参入のハードルはそれほど高くないと思います」(劉氏)
実際に、中国上でヒットした日本のゲームアプリもある。それは、京都のベンチャー企業であるヒットポイントが開発した『旅かえる』だ。同アプリは2017年12月にiOS版をリリース後、中国語に対応していないにもかかわらず約5ヵ月で累計約3,800万ダウンロードを記録。その内の8割弱が中国からのダウンロードだったという。
「『旅かえる』が中国で異例の大ヒットを記録した要因を推測すると、放置しておくだけでゲームが進行できるシンプルさと、いかにも日本らしい絵柄と雰囲気にあると思っています。この2つを評価するSNS上での投稿は多く見られます。このようにSNS上で拡散されていくと、中国の場合日本以上にものすごいスピードで拡散していくので、SNS上での話題創出も効果的です」(井料氏)
日本語のままでのヒットは異例のことかもしれないが、『旅かえる』の例からは日本のゲームが中国で受け入れられる可能性が十分にあることが示されている。インタビューの最後、井料氏に今後日本のアプリパブリッシャーに対しどのように支援をしていきたいか聞いた。
「変化と革新のスピードが桁違いに速いのが現在の中国市場です。私たちは中国発のアドテクノロジー企業として、ゲーム領域はもちろん、中国の最新動向に関して毎日ウォッチしています。また、ローカライズから、パブリッシング、マーケティングまでトータルプロデュースできる体制を持つ数少ない企業ですので、中国進出を目指す際はぜひ相談いただければと思います」(井料氏)
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