やはり現状では、マス×Webは難しい
――「マスとWebの統合」は、今多くの企業やマーケターが取り組まれていると思いますが、今回のように、最初からマスとWebを連動してキャンペーンを考えていくのは、やはり現状難しいのでしょうか?
水本:同じような悩みは、僕らにもあります。「こんなテレビCMを作ったから、これをデジタルチームの手で、Web上で話題にしてくれる?」みたいなことは、どうしてもまだあって……。テレビCMは、CMプランナーがテレビで流す「パブリックなもの」として一番最適な表現を考えて作っているので、それをWebで見てもらうためにどうするかを考えること自体、ある意味ナンセンスというか、間違っていると思うんです。
今回はそういった分け隔てなく、一番最初の打ち合わせから、様々な職種の人がみんなフラットに話せたことが大きかったです。それぞれの専門分野にとらわれず、「こういうコピーがいいんじゃないか」とか「こういう人がいいんじゃないか」という話をまずみんなでして。そこから各々が、“Web的には”“テレビ的には”“PR的には”と考え始めていったのが良かったと思います。Webとマスを一緒に作るということは、こういうことなのかなと、とても勉強になりました。
嶋野:あとは、「WebもテレビCMも含めて、本当にいいものを作ろう」っていう志がまず大事で。力がある人が、その志を掲げてくれたのは大きかったと思います。志が決まれば、メディアプランの設計などはできるので。メディアプランを設計できる人をチームの中に入れておけば、ちゃんと全体を設計できると思いますよ。
――ということは、澤本さんのような方がいないと、Web×マスは難しいと?
安達:簡単ではないと思います。デジタル・PR・テレビCMで一本立ちしている人達が集まるだけでは、なかなか難しい。途中でチームが空中分解してしまったり、パワーバランスが崩れていくこともあると思います。
たとえば、僕がCDとして、今回と同じメンバーで同じことをやろうとしても、果たしてできるかどうか……、いや、もちろん頑張りますけど(笑)。「絶対にマスとWebの両方で良いものを作るぞ!」という強い意志がないと、簡単なようで難しいです。精神論になってしまいますね。
嶋野:いや、気持ちの面が大きいと思いますよ。あとは、予算に関してジャッジメントできる人が必要ですよね。どうしても、テレビCMのクリエイティブにお金をかけちゃうことが多いじゃないですか。テレビとWebの予算比が8:2とかになっちゃうと、意味がないので。その辺のジャッジメントを冷静にできる人が必要です。
安達:スケジュールに関しても、「Web動画の撮影用に、絶対に1日は必要です!」って言い続けることも重要です。どうしてもWebはオマケで撮影するという流れになりがちですが……、大切なのは「何としてでも成功させる!」という気持ちですよね。また、気持ちの話になってますけど(笑)。
それぞれが考える、Webブランディングの可能性

――話が少し変わるのですが、最後に「Webブランディングの可能性」について、皆さんどのようにお感じになっているかお聞かせいただけますか?
嶋野:最後に難しいのがきたね(笑)。
水本:個人的に最近チームで話していることで言うと、ブランドには「人格」が求められているんじゃないかなぁと思っています。
それぞれのブランドにキャラクターがあって、それぞれに期待されていることも違う。だから、Webでのブランディングは、つまりは、企業であれ商品であれ、その「人格」を見つけて、人格に合った発言をしていくことなのかなと考えています。
安達:僕は、Webでもテレビでも一つのゴールとして、「Yahoo!トップおよびワイドショーに取り上げられる」ということを掲げています。どちらもすごくマスの話題を扱っているので、ちょっとバズったぐらいでは、Yahoo!トップまではなかなかいかないんですよね。でも、そこまでいけば、かなり多くの人達に施策を届けることができる。
その視点でいうと、テレビCMよりもWeb施策のほうが、Yahoo!トップは狙いやすいと思っています。「流れる枠」という概念がない分、どうしたら話題になるか、クライアントさんとも一丸となれるので。Webブランディングには可能性しか感じていないです。今よりもっと大きなことがWebでできると思っています。
嶋野:逆に、僕は危険性を感じることが多いですね。Webではよく炎上が起こりますが、炎上する案件ってたいてい世の中視点が抜けていて、そもそもブランディングを考えていないと思うんですよ。
つまり、バズっていう見えやすい数値に囚われたせいで、「本来このブランドはどんな人を大事にするべきだったのか、どうなりたかったのか」を忘れちゃう人がすごく多くて。Webの時代こそ、ブランディングを考えておかないと危険だと思っています。
テレビCMも大量に流せば、ブランディングできると思っているかもしれませんが、そんなに簡単なことではないんです。大量に出稿しているテレビCMでも、覚えられていないものってありますよね?
テレビCMでもWebでも大切なことは同じです。「お客さんに何を届けたいか、どういう風に楽しんでもらいたいか」という視点も、ブランディングのうちだと思います。でも、Webのほうがより一層ブランディングを意識しておかないと、変な方向にいってしまうのかなって考えています。
――お三方、ありがとうございました!
